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初めての授業が終わった夕刻、咲は静かに職員室へ戻った。
緊張がほぐれるというよりは、全身から力が抜けるような感覚だった。
(……終わった)
子どもたちの視線。
まだ言葉では測れない距離。
けれど確かに、自分が「教える側」として立っていた時間だった。
職員室には、まだ何人かの教員が残っていた。
その中で、一番に目を上げたのは土井半助だった。
「お疲れさまです。……どうでした? 初授業」
「……怖がられてたと思います」
正直な感想だった。
子どもたちの真っ直ぐな目に、自分の過去が揺らぎそうになった。
だが、土井はふっと笑った。
「最初から懐かれる先生なんて、そういませんよ。
少し離れたところからでも、伝わるものがあればそれでいい。……あとは時間が育ててくれます」
その言葉に、咲は少しだけ目を伏せた。
戸口の開く音がして、背後から誰かが入ってくる気配があった。
「……初日、お疲れさまでした」
振り返ると、そこには旅装束の利吉が立っていた。
肩に細かな埃がついており、任務帰りであることは一目で分かった。
「任務の帰りに少しだけ。様子が気になって」
「……別に、特別なことはしてないよ」
咲の声は平静を装っていたが、その視線はわずかに揺れていた。
利吉はそれ以上深く踏み込まず、静かに微笑んだ。
「それでも、立っている姿を思い浮かべました。
……今日のあなたのことを」
「……」
「また、寄れたら。次は少し長く居られると思います。では、また」
そう言って、利吉は軽く頭を下げ、職員室を後にした。
彼の背中が見えなくなったあと、静かに土井の声がした。
「……仲がいいんですね、利吉くんと」
その言葉に、咲は少しだけ肩をすくめた。
「そう見えましたか?」
「ええ。言葉の選び方や距離の取り方が、他の人とは少し違って見えましたから」
「…そうですか。」
土井の視線は優しいが、それ以上の詮索はなかった。
ただ、静かな灯の中での言葉が、どこか遠回しに温かかった。
咲は答えず、窓の外に目を向けた。
夕風に揺れるスイートピーの花が、一輪、静かに咲いていた。
(……新しい場所、新しい時間。
きっとこれは、“試されている”)
そう思いながら、咲席に腰を下ろした。
教師としての一日目が、ようやく終わろうとしていた。