山田家での生活
指名変更
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夜の風は、静かでやわらかかった。
縁側に出た咲は、月明かりに照らされた庭を眺めながら膝を抱える。
虫の声、揺れる枝葉の音。眠れぬ夜の中、それらがやけにやさしく感じられた。
昼間の記憶が、まだ胸に残っている。
小さな手。無垢な声。重なった面影と、温かさと——
「……起きていたか」
低く、穏やかな声。
振り向けば、柱の陰から伝蔵が現れた。
肩に羽織、湯呑を片手に、迷いなく隣に腰を下ろす。
「……眠れなくて」
「無理もない。色々と考える夜というのはある」
そう言って、湯をひと口啜る。
香ばしい湯の香りが、夜気の中に溶けていった。
「……昼間、利吉から聞いた。村へ行ったそうだな」
「はい。……とても、あたたかい時間でした」
「それは何よりだ」
しばらくの静けさが流れる。
「“教える”というのは、刃を握るのとは違う。
けれどな、それでも伝えられるものがある。
お前のように、生き延びてきた者には、な」
咲は、視線を落としたまま静かに言う。
「……私に、そんな資格があるのか分かりません」
「昔、似たようなことを言っていた奴がいたよ」
伝蔵の声は、懐かしむような優しい声だった。
「命令だけを信じて生きてきた忍でな。最初は“子どもなんて無理だ”と渋っていた。…今じゃ“先生”と呼ばれて、毎日忙しそうにしてるよ」
咲が顔を上げて目を向けると、伝蔵は微笑んでいた。
「向いてるかどうかなんてのは、始めてみてから決めればいい。
大事なのは、そこで何を渡すかじゃない。“どう生きて見せるか”だ」
「……それでも、私はまだ立てていない気がします」
「誰かを支えるには、自分が立ってなきゃならん。だが、崩れたら座ってもいい。そういう場所がある、うちはな」
それが、静かで確かなひとつの支えだった。
「……ありがとうございます」
そう言った咲の声に、伝蔵は何も返さず立ち上がる。
「風が冷える。……無理せず、もう少し休め」
月の光を背に、彼の姿がゆっくりと奥へと消えていった。
縁側に取り残された咲は、夜空を見上げた。
胸の奥に、何かが小さく灯った気がしていた。