山田家での生活
指名変更
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朝の光が障子越しに差し込み、山田家の台所を淡く照らしていた。
湯気の立つ鍋の前で利吉が味噌汁をかき回し、咲は器を並べる。
互いに言葉は少ない
でも、不思議と息が合っていた。
「……今日、村に行くんだよね?」
「はい。日用品がいくつか切れていまして」
「じゃあ……私も行っていい?」
その一言に、利吉の手が一瞬止まる。
けれど、すぐに微笑んでうなずいた。
「もちろん。とても助かります」
_________
村道を歩けば、春の匂いを含んだ風が頬を撫でた。
木々の間からこぼれる日差し、草花の淡い色彩、鳥のさえずり——
そのひとつひとつが、咲の感覚をゆっくりとほぐしていく。
「……こうして、誰かと並んで歩くのって」
「はい?」
「ずっとなかった。任務でも、誰かと歩くときは、常に気配を殺していたから」
「いまは、気配ありますよ」
「……失敗だね」
「いいえ。とても、やわらかい気配です」
冗談のように、でもやさしく返す利吉に、咲はほんの少し口元を緩めた。
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村に入ると、通りが少しずつ賑わいを増していた。
洗濯物を干す老婆、朝から薪を割る若い父親。
畑帰りの老夫婦が、野菜を手に笑い合う。
「利吉さん、今日は奥さんとご一緒かい?」
「えっ……いや、あの……奥さんて……!」
咲が固まる間に、利吉が静かに会釈を返す。
「……まだ、そうではないのですが」
「“まだ”なんて言ってると、すぐ逃げられるよ!」
「逃げられないように、気をつけます」
場がどっと笑いに包まれる。
咲の頬が自然と火照った。
—
八百屋では、女将が青菜をすすめてくる。
「これ、今日採れたて。お味噌汁にもおひたしにもいいよ。
ね、奥さん?」
「え、いや、私は……」
「この子、見たところ手がきれいだから、きっと包丁の使い方もうまいよ。ね、利吉くん?」
「……きっと、覚えも早いと思います」
さりげない言葉に、また胸がくすぐったくなる。
—
道具屋で手拭いを見ていたとき、ふいに袖が引かれた。
「おねえちゃん、これ、すき!」
幼い女の子が、小さな木の人形を握りしめながら、目を輝かせていた。
ふわふわの髪。高めの声。見上げる笑顔——
その輪郭が、一瞬、記憶の中の少女と重なった。
(……ひな?)
呼吸が浅くなる。
けれど、それはただの面影。まるで幻のように、すぐに少女の声が現実に引き戻す。
「おねえちゃん、いいにおいがする」
小さな手が、咲の指先を握る。
そのぬくもりが、胸の奥を静かに満たしていく。
「……そう?」
「うん。なんか、あったかい」
咲は微笑んだ。けれど、どこか痛みを含んだその笑みに、
利吉は気づいていたかもしれない。
—
帰り道。日が傾き始めた道を、ふたり並んで歩く。
「……さっきの子、かわいかったね」
「はい。とても素直で、あたたかかったですね」
「……ああいう子どもに、何か伝えられる人になれるのかな、私」
「もう伝わっていましたよ。さっきの“顔”、とてもやわらかかったです」
「……そっか」
「ええ。今の咲さんは、ちゃんと生きている気配がします」
その言葉にふと足が止まり、咲はゆっくりと利吉を見上げた。
風が吹いた。花びらが、ひとひら舞い落ちる。
「……そう、だったらいいな」
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その夜。寝床に入ってからも、あの子の手の感触が離れなかった。
重なったのは、幻か、それとも——
それでも、
あたたかいと感じたあの一瞬だけは、確かに本物だった。