花を知らぬ者
指名変更
この小説の夢小説設定1章はくノ一「緋華」で統一しています。
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朝の空気が、いつもより冷たかった。
まだ夜と呼べる時間。城の石畳は白く湿り、どこか遠くで鴉の鳴く声がした。
処刑の前には決まって静寂が満ちる。
人々の足音すら控えめになり、風は壁伝いにしか吹かない。
世界そのものが、何かを見ないふりをしているようだった。
緋華はひとり牢へ向かった。
ただの見届けでも、慰めでもない。
言葉にできない理由のない行動だった。
鉄扉の向こう、白装束に身を包んだ少女は立っていた。
何も言わず、何も問わず。
まるで、この瞬間を待っていたかのように、まっすぐにこちらを見つめていた。
目は、澄んでいた。
緋華は扉を開けることもなく、ただ格子越しに立った。
沈黙が流れる。
やがて少女が、小さく微笑むように口を動かした。
「……ありがとうございます」
その声はあまりにも静かで、風と一緒に消えそうだった。
何に対する礼なのか、緋華には分からなかった。
だが、それでも返す言葉は浮かばなかった。
「わたしは、あの子を殺さなかったことをよかったと思ってます。これかもずっと。」
その言葉の意味は緋華にはわからなかった。理解できない、はずだった。
(任務に背いた者は死ぬ。感情を選んだ者が報いを受ける――それが、この城の“正しさ”だ)
少女は、淡々と処刑を受け入れていた。
泣き叫びもせず、赦しを乞うでもなく。
ただ、静かに。
「緋華様が……この世界で、どうか生きていけますように」
目を伏せたその瞬間、扉の外に足音が近づいた。
時間だ。
護衛の忍びが無言で扉を開ける。
緋華は少しだけ身を引いた。
そして、少女は何も振り返らず、そのまま連れて行かれた。
彼女の背中を見つめながら、緋華は思った。
――なぜ、その言葉が、自分に向けられたのか。
(私は“生”を与えるような人間ではない)
けれど、その少女はそう思ってはいなかった。
たった数度、牢を訪れただけの自分に、なぜあんな祈りを――。
⸻
処刑の合図は、白い煙と共に上がった。
誰も騒がず、何も変わらない。
またひとつ、命が“処理”されただけの朝。
緋華は、屋根の上でその煙を見ていた。
風が頬を撫でた。
(何度も見た白煙。あれは、命の灯だったのか)
何も残さず消えるはずの煙が、なぜか自分の中に何かを焼きつけていった。