山田家での生活
指名変更
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数日ぶりに、畳ではない硬さを足の裏に感じた。
縁側の木の感触。外の空気のにおい。
それだけで、世界が別の場所のように思えた。
咲は、ふらつく足取りを縁側まで運び、ゆっくりと腰を下ろした。
庭には手入れの行き届いた花が並び
朝露に濡れた葉が、やわらかく光を返している。
山田家の庭は静かだった。
けれど、それは“死んだような静けさ”ではなく
日常の、呼吸するような、やわらかな静けさだった。
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「今日は、少し外に出られたんですね」
背後から届く利吉の声に、咲は顔を向ける。
「……ええ。なんとなく」
「……いいですね、“なんとなく”。そういう日が、いちばん回復に近い気がします」
「……根拠は?」
「なんとなく、です」
ふと、咲の口元がわずかに緩んだ。
それを見た利吉は、目を細めて、彼女の隣に座った。
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風が吹いた。春の終わりの香りが、遠くに流れていく。
「……あなたは、どうしてそこまで……」
問いかけようとした言葉は、喉で途切れた。
でも利吉は、それを待たずに答えた。
「あなたを助けたい。そう思ったから。ただそれだけです」
「……そっか」
それだけでいいのか――と思いながらも、
それ以上の理由を探すことができなかった。
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庭の隅で、小さな蝶が舞っていた。
それを眺めながら、咲はふと呟いた。
「……ここは、静かすぎて落ち着かない」
「それは、安心していいという意味でもあります」
「……慣れないな、そういうの」
「慣れなくていいと思いますよ。
無理に慣れる必要はありません」
言葉の選び方も、距離の取り方も、変わらない。
けれど、今はその変わらなさが――ありがたかった。
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しばらくして、咲は静かに目を閉じた。
風の音、葉の揺れる気配、隣にある温度。
どれも、壊さずにすむなら――
もう少し、ここにいてもいいかもしれないと思った。