山田家での生活
指名変更
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炭のはぜる音と、味噌を溶く音が重なっていた。
囲炉裏の鍋から立ち上る湯気は、薬草ではなく味噌と出汁の匂い。
それが、やけに生々しく咲の胸を締めつけた。
布団の中で目を開けたまま、しばらく動けなかった。
温かく、やさしい匂い。懐かしい。
だからこそ、怖かった。
こんなふうに一日のはじまりを迎えることに、もう自分はふさわしくない
―自分が壊した
そう思っていたはずなのに、体は勝手に音や匂いを追っていた。
「……目が覚めたのね」
襖の向こうから、母の声がした。
流石、元くノ一
そっと障子が開けられ、彼女の姿がのぞいた。
「食べられそう?」
咲は少し迷ったあと、短くうなずいた。
「……少しだけ」
「いいの。少しだけで」
母はそう言って、味噌汁の椀を一つ手に取ると、奥の部屋へと下がっていった。
⸻
食卓には、炊きたてのごはんと味噌汁、漬物が並んでいた。
簡素だが、整った朝の食事。
伝蔵は湯呑を持ち、黙って茶をすすっている。
巻物を片手に、目だけを動かしている。
誰も急かさない。
誰も問わない。
ただ、当たり前のようにそこに“朝”があった。
⸻
「……熱いので、ゆっくりどうぞ」
目の前に湯呑が差し出される。
利吉だった。
「……ありがとう」
言いながら手を伸ばすと、手元がわずかに震えた。
利吉は何も言わずに一度うなずき、自分の席へ戻る。
咲は湯呑を両手で包み込み、温度を確かめるように口をつけた。
やさしくて、少ししょっぱい味。
「……こんなふうに、誰かと朝を迎えるのは、久しぶり」
それは、誰に向けた言葉でもなかった。
けれど、誰かがきっと受け取ってくれる気がした。
⸻
「うちでは毎朝こうよ。しぶとい家族でしょ」
母が軽く笑いながらそう言った。
「あなたが黙ってても、怒ってても、泣いてても――朝は来るの。
それに合わせてご飯を作るのが私たちの仕事」
咲は思わず、息を呑んだ。
(……私は、ここに混ざってもいいの?)
誰もそれを問わない。
けれど、誰も拒まない。
そんな“あたりまえ”が、今の咲には何よりも重かった。