山田家での生活
指名変更
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薬草の匂いが、静かに鼻をくすぐる。
咲は目を開けた。
天井の木目、薄明かり、布団の重み。
そして、胸の奥にまだ残る、焦げた煙と血のにおい。
(……生きてる)
その事実だけが、冷たく重かった。
ひなの声も、手の温もりも、蒼蓮の言葉も。
何一つ、夢じゃなかった。
体を起こしたとき、鈍い痛みが全身に走る。
けれど、それでも立ち上がろうとした。
(ここにいたら、また誰かが死ぬかもしれない)
そうなる前に、自分が去るべきだ。
⸻
襖に手をかけたそのとき、背後から静かな声が落ちた。
「どこに行くつもりですか」
振り返れば、利吉がいた。
淡々と、けれど真っすぐに彼女を見ていた。
「……ここに、いちゃいけない。
また、私のせいで誰かが巻き込まれる」
「誰かが、とは?」
「……この家の人達よ。これ以上、もう私は壊したくない」
声は抑えていたが、その奥には確かな絶望が滲んでいた。
「あなたを見つけたのは、私です。茶屋で“南の村が燃えた”と聞いて。あなたが黙って席を立ったとき、すぐに分かりました。
……追いかけました」
咲は、その場に膝をついた。
「どうして……助けたの。
私はまた誰も守れなかったのに……」
小さな声だった。
そのとき、襖の奥から伝蔵の声が響いた。
「助けたいなら、まず自分が潰れるな。
……立てなくなったら、座っていいんだ。ここなら、座ってても構わん」
静かに襖が開き、伝蔵が現れる。
火鉢の前に座り、湯呑を手に取った。
「……お前が何を壊したのかは知らん。
だが、“今ここにいる人間”の命まで背負う必要はない。うちは、簡単に壊されるほど柔くない」
咲は目を伏せたまま、声を漏らす。
「……それでも、怖いんです。
私がここにいることで、また何かが……」
すると、今度は母の声が背後から届いた。
「だったら、怖いままでいなさいな。
その怖さを、今は置いていける場所があるってだけでも、救いよ」
煎じ薬の盆を置き、母はふっと笑った。
「大丈夫です。父は優秀な忍、母も元くノ一、私もフリーの売れっ子忍者ですから」
利吉は微笑んでそう続けた。
⸻
咲はゆっくりと布団に戻る。
利吉は傍らで見守っていた。
そして、ふいに、かすれるように口を開いた。
「……ありがとうございます」
利吉は驚いたようには見せず、ただ静かにうなずいた。
「……はい」
その一言に、ようやく布団の中で目を閉じた。
まだ心は遠くにある。
けれど、それでも――
この家に今、自分は確かに“置かれている”と、そう感じた。