山田家での生活
指名変更
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夜の山を抜け、木々の間から瓦屋根が見えたとき、
利吉は胸の奥でわずかに息を吐いた。
今この腕に抱えている命を連れていける
ただ一つの場所だった。
山田家の軒先には、淡い灯がともっていた。
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「ただいま戻りました」
戸を開けて声をかけると、すぐに奥から母の足音がした。
「まあ……利吉? どうしたの、こんな夜更けに――」
利吉の背にいる咲を見て、母の言葉が止まる。
その顔に一瞬、驚きと緊張が走る。
けれど次の瞬間には、すぐに表情を引き締めていた。
「奥を使って」とだけ言って、手早く部屋の支度に向かった。
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襖の向こう。木の香りと、畳の静けさに満ちた部屋。
利吉はゆっくりと膝をつき、咲を布団に横たえた。
その顔は青白く、身体には大きな切り傷が数箇所。どれも動脈を傷つけないように。
出血死しないようわざと避けられているように見えた。
彼女がどれだけのものを乗り越えて、今ここにいるのか――
そう思うだけで、利吉の胸が締めつけられる。
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やがて、布と薬草を手に母が戻ってきた。
「……これは、深い傷ではないけれど……」
咲の袖をめくった母の表情が曇る。
「かなり動いた後ね。血のめぐりはあるけど、体力も限界」
「命に別状はありません。ですが……しばらくは動けません。
数ヶ月は療養が必要だと思います」
母は静かにうなずいた。
「ええ、そうね。……私の目から見ても、これは“限界を越えて”ここまで来た体」
布を絞り、傷をぬぐい、温めた煎じ湯で消毒していく。
その動きに、言葉は少ないが、手際は確かだった。
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「父上は、ご在宅ですか?」
利吉が訊ねると、母は小さく微笑んだ。
「今日は、たまたま。あの人も気まぐれだから。
まさか、あなたがこんな姿で帰ってくるとは思ってなかったけれど」
少しして、襖の向こうから静かな気配が届いた。
「……利吉」
伝蔵の声は変わらず低く、けれどどこか柔らかさを帯びていた。
「あとで、話を聞こう。今は……彼女の命を第一に」
その言葉に、利吉は深く頭を下げた。
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布団に横たわる咲は、まだ目を覚まさない。
けれど、呼吸は静かで、熱も少しずつ落ち着いている。
火鉢の明かりが彼女の頬を照らし、母が布団の端を整えたあと、そっと部屋を出ていった。
利吉はその場に残り、彼女の隣に静かに座った。
“ここでなら、癒せる”
そう信じて。