束の間の憩い
指名変更
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利吉と共に任務をこなすようになって、すでに半年ほど経っていた。
一つひとつの動きに無駄がなく、言葉を交わさずとも意図が伝わる。
誰かの後ろに立たず、誰かの前に出すぎず、同じ歩幅で進める相手。
それが、今の咲にとっての利吉だった。
特別な感情があるわけじゃない。
でも、呼吸の仕方を忘れないでいられる――そんな相手だった。
任務を終えた帰り道、山の中腹にある小さな茶屋に寄るのが、
いつの間にか“ふたりの癖”のようになっていた。
この日も、変わらなかった。
湯を頼み、疲れた足を少しだけ休める。
店主の言葉に頷き、外の風を感じながら、
二人並んで座っている。
何も話さないままでも、心が擦れない静けさがそこにはあった。
⸻
「……そういえば聞いたか? 南の村、燃えたって話」
隣の卓から、何の脈絡もなく落ちてきた男の声に、
咲は一瞬、耳を疑った。
「火事って話だったけど、どうも“人の仕業”らしい。
女も子どもも関係なかったって」
「怖えな……なんであんなとこ襲うんだか」
――“南の村”。
咲の呼吸が、少しだけ止まった。
目の前の湯呑みが、湯気を立て続けている。
けれど、手が届かなくなったように、遠くに感じた。
(……まさか)
そんなはずはないと、理屈が言う。
でも、心が知っている。
言葉にならない確信が、冷たく胸の底を掴んでいた。
「咲さん……?」
利吉の声に、一瞬利吉を見るが咲すぐ目を伏せた。
「……少し、行きたい場所があるの」
「何か……ありましたか?」
「……わからない。けれど……確かめずにはいられない」
ゆっくりと席を立つ。
その動きに、茶屋の中の空気が少し揺れた。
「先に戻っていて」
利吉は立ち上がろうとしたが、咲はそれを止めるように小さく首を振った。
「お願い。ひとりで行きたいの」
彼の瞳が心配そうに揺れていた。
でも、口には出さなかった。
ただ、静かにうなずいてくれた。
そのやさしさが、ひどく痛かった。
⸻
茶屋を出た瞬間、空がやけに広く感じられた。
風が吹いていた。
けれど、その風はあの村で感じたものとは、少し違っていた。
(ただの噂かもしれない。別の村かもしれない。……でも)
足が、もう止まらなかった。
呼吸を繋ぐように、歩幅を広げる。
(どうか、間違いであって――)
その願いすら、胸の奥で凍り始めていた。