束の間の憩い
指名変更
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村を離れて数週間
「……やはり、あなたでしたか」
それが再会の言葉だった。
任務先で名も告げず動いていた咲に、利吉は少しだけ微笑を浮かべて声をかけた。
声色は変わらず、けれどどこかやわらかい驚きと安堵が混ざっていた。
「元気そうで、よかったです」
「……えぇ」
咲は視線を少し外したまま答える。
任務の打ち合わせはすぐに始まった。
互いに必要以上のことは言わず、動きは無駄がない。
それは、あの頃と変わらなかった。
ただ、会話のない時間にだけ、
静かな“隣にいる”という気配があった。
⸻
焚き火を囲んだ夜。
ふたりだけになったとき、利吉が口を開いた。
「こうしてまた、隣で任務ができているのが……なんだか、不思議です」
「そうね。私もそう思う」
「……何も、聞きません。
でも、顔が少し変わりましたね」
「……変わった?」
「はい。……少し、やわらかくなったように思います」
その言葉に、咲はふと、ひなの顔を思い出した。
笑いかけてくれたあの目。
泥だんごを差し出してくれた手。
少しだけ、唇が揺れる。
「……誰かにそう言われる日が来るなんて思わなかった」
「でも、来たんですね」
利吉の声はそれ以上追いかけてこなかった。
静かに受け止めるような声だった。
咲は、火の中で揺れる薪の赤を見つめた。
「あのとき、あなたがいてくれて、私は少しだけ人間に戻れたのかもしれない」
そう言ったあとで、自分の声がほんの少し震えていたことに気づいた。
でも、利吉は何も言わなかった。
ただ、静かにうなずいただけだった。
⸻
しばらく沈黙が続いたあと、利吉がふと口を開いた。
「……あなたが城からいなくなったあと、いろいろな憶測が流れました」
咲は顔を上げなかったが、手を止めた。
「粛清から逃げたとも、任務中に姿を消したとも。
けれど、誰もはっきりとは言わなかった。
“処理された”という言葉を信じた者もいたし、“消された”と思っていた者もいた」
少し間を置いて、利吉は続ける。
「でも、蒼蓮殿だけは、何も言わなかった。
ただ一度だけ――『鈍っていなかった』と、焔殿に報告したと聞いています」
咲のまぶたが、かすかに揺れた。
(鈍っていなかった……)
あのときの言葉。
そして、それが“確認”だったこと。
すべてが、筋書き通りだったように思えて、胸の奥が冷たくなる。
利吉は咲の顔を見ずに、火を見つめたまま言った。
「私は、あなたが“生きている”と思っていました。
どこかで、人として生き直していることを、信じてました」
咲は、ほんの少しだけ目を伏せた。
信じてもらえていた――
その事実が、救いでもあり、重さでもあった。
⸻
その夜は、火が落ちるまでふたりとも口を閉ざした。
けれど、言葉がない時間のなかにも、確かに通うものがあった。
過去を語らずとも、今を歩き始めたふたり。
それだけで、十分だった。