花を知らぬ者
指名変更
この小説の夢小説設定1章はくノ一「緋華」で統一しています。
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その夜、緋華は村に潜んでいた。
任務は”ある反乱分子の密談を抑え、必要ならその場で始末する”というもの。
標的は、集会の主催者である男。
事前の情報では、裏で武器商人と繋がりを持ち、城の不利益となる動きをしている可能性が高いとされていた。
雨が、細く降っていた。
緋華は屋根の上から家屋の様子を観察しながら、風の音に耳を澄ませていた。
密談の相手が来るまでの時間、標的は家の中で待機している。
灯のもれた窓から、わずかに見えるのは――
小さな女の子を膝に乗せ、静かに話しかける男の姿だった。
(……子ども?)
予想外だった。情報にはなかった。
娘だけではない。奥から母親らしき女も現れ、温かく笑いながら茶を運んでいた。
どこにでもある、ごく普通の一家の光景。
「……こんなものを、見に来たわけじゃない」
呟いた声が、雨音にかき消される。
⸻
夜が深まると標的は娘に布団を掛けると、妻に何かを耳打ちして、玄関先へ向かっていく。
(……今だ)
緋華は静かに身を起こし、屋根から地面に舞い降りる。
――殺す、それだけのはずだった。
しかし。
標的に刃を向けたその瞬間、背後から小さな声がした。
「おとう、どうしたの……?」
振り返った先にいたのは、眠たげな目をこすりながら立つ少女。
緋華の手が止まった。
次の一手が、なぜか打てなかった。
「き、君は……誰だ……?」
男の目が見開かれる。
護るように娘を抱き寄せるその手に、武器はなかった。
緋華は刃を下ろさないまま、無言で立ち尽くしていた。
いつもの自分なら、もう終わっていた。
何の感情もなく、任務を遂行していたはずだった。
――なぜ。
胸が、痛い。
喉が、詰まるように。
「おとう、こわいひと?」
少女が震えながらそう言ったとき、
緋華の手から、ふと刀が落ちた。
(これは…)
自分でも分からないものが、心の中で暴れていた。
⸻
その任務の報告には、「標的不在、接触不能」とだけ書かれた。誰にも見つかることなく村を去り、雨の中を歩いた夜。
胸の奥に残ったのは、
あの少女の声と、父にすがるように伸ばされた小さな手の記憶だった。
(……もう、あの男を斬れない)
どこから歯車が狂いはじめたのか。
それとも――ようやく、正しく壊れたのか。