束の間の憩い
指名変更
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その夜も、静かだった。
ひなは早くに寝息を立て、
おとうさんは外の戸締まりを確認し、
おかあさんは囲炉裏の火を小さくしたあと、
「明日は干し柿を吊るしましょう」と笑った。
咲は、薄く開けた障子越しの空を見上げていた。
月が半分、雲に隠れている。
(今夜は、眠れない)
ずっと残っていた。
背後に立つ気配。
皮膚の裏側を撫でるような冷たい視線。
誰も見ていないはずの場所から、
ずっと“狙い”がついている感覚。
⸻
小さく軋む音。
屋根か、木か、風か。
それとも――
咲は布団の中から起き上がり、刀もない手でそっと柱に触れた。
やっぱり震えていた。
“刃”だったころの身体が、危機を察している。
(いる……近くに)
すぐには動かない。
家族を起こす音を立てたくなかった。
もし、まだ“気のせい”だったら。
そう思いたかった。
だけど次の瞬間、裏手の木戸が割れるような音を立てて吹き飛んだ。
土埃が舞う。
中に飛び込んできた影は、ひとり。
ゆっくりと立ち上がるその人影に、
咲は名前を呟いた。
「……蒼蓮」
⸻
何も言わず、蒼蓮は一歩、足を踏み出す。
その手には刃。
目は変わらない。
あの頃と同じ、冷たく乾いた目。
感情など必要ないという確信だけで満ちていた。
「生きていたか」
その声はひどく静かだった。
「“鈍っていない”か、見に来ただけだ」
それはあのときと同じ――
ただ“確認する”ための視線。
「やめて」
咲は声を出していた。
刃もない。戦う力も戻っていない。
それでも、この場所だけは守りたかった。
「この人たちは関係ない。私は……」
言い切る前に、蒼蓮の目が一瞬だけ動いた。
奥の部屋から、布団がはねられる音がした。
小さな足音。
走ってくる足音。
「咲ちゃ……」
「ひな、戻って!」
叫ぶより早く、影が動いた。
ひなの腕を掴もうとするその刹那、
咲は体を投げ出して間に割り込んだ。
どさっという音とともに、背中に衝撃。
呼吸が詰まる。
(だめだ……守らなきゃ)
もう一度だけ声が出た。
「この子は、関係ない」
⸻
それが届いたかどうか。
蒼蓮は一瞬だけ目を伏せて、そして静かに刃を引いた。
「……確認は済んだ」
それだけ言い残し、踵を返して去っていった。
土間に血の匂いが残った。
ひなは咲の腕を掴んで離さなかった。
外の空は、もう月が隠れていた。