花を知らぬ者
指名変更
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蒼蓮の言葉が、耳の奥に残っていた。
「鈍っていないな」
それは、評価ではない。
命令に従えるかどうか、ただの確認。
あの場に立たされた時点で、すでに彼の目に映る自分は、“刃”か“不要物”かの二択しかなかった。
緋華は城の一角、無人の縁側に腰を下ろしていた。
月明かりだけが足元を照らし、夜の風がひやりと頬を撫でていく。
(私は……壊れているのか?)
いや、違う。
(このままでいれば、きっと壊れる)
目の前で命を奪った人間の顔が、ここ数日やけに鮮明に脳裏に残る。
昔なら、そんなことはありえなかった。
覚えてしまったのは、迷ったから。
迷ってしまったのは、心が生まれてしまったから。
そして今、その心が、重い。
「──こんなところにいらしたんですね」
振り向くと、利吉が、ほんの少し息を切らせて立っていた。
「報告の後、姿が見えなかったので…
…勝手に探しました。すみません」
緋華は否定も肯定もせず、視線だけを戻した。
利吉は隣に腰を下ろし、しばらく何も言わなかった。
それが、ありがたかった。
やがて、彼がぽつりと呟く。
「……あの言葉、気にしているのですか?」
「……“鈍っていない”」
緋華は小さく口にした。
「蒼蓮のあの言い方……あれは、“鈍っていないから良かった”じゃない。“まだ使える”って意味。
“それで安心した”ってそんな声だった」
「……ええ。私もそう聞こえました」
利吉はやわらかく言った。
「でも、それが“正しさ”だとは、私は思っていません」
緋華は目を伏せた。
「……任務は、遂行した。何も問題なかった。
でも、それでも――何かが、崩れていく気がしたの」
それは、“弱音”だったかもしれない。
けれど、止められなかった。
「あのまま、何も感じなかった頃に戻れたらいいのにって思った。
でも、もう……無理だって分かってる。
私……このままじゃ、どこかで壊れる」
その言葉に、利吉はすぐ返さなかった。
代わりに、そっと夜空を見上げて言った。
「……壊れることが怖いのなら、壊れる前に“変わる”という手もあります」
緋華は、彼の横顔を見た。
利吉の目は、優しさではなく、選択肢の話をしていた。それは、“逃げ”ではなく、“道”の提案だった。
「私はあなたに、感情を捨ててまで忍び続けてほしいとは思いません。むしろ……
”今”のままのあなたで、生きてほしいと私は願っています」
月の光が、緋華の頬をうっすら照らす。
何かが、胸の奥でほどけた気がした。
まだ答えは出ない。
でも、“誰かがそう言ってくれる”という事実だけで――
ほんの少しだけ、救われていた。