花を知らぬ者
指名変更
この小説の夢小説設定1章はくノ一「緋華」で統一しています。
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月の光が差し込まない廊下を、ひとりの女が歩いていた。足跡一つない静かな夜。
緋華はまっすぐ地下牢へと向かっていた。
塔の最下層。
冷たく湿った空気の中で、かすかに人の息遣いがする。
「……開けろ」
見張りの兵が緋華を見て一瞬身を強張らせる。
彼女の顔を見れば、それがただの巡視ではないと察したのだろう。
「はっ……!」
軋む音と共に、鉄格子の扉が開いた。
中にいたのは、まだ幼さを残す少女――部下のくノ一だった。
顔は血と泥で汚れ、衣の一部は裂けていたが、瞳だけははっきりとこちらを見ていた。
恨みでも怯えでもなく、ただ、まっすぐに。
緋華は無言で中へ足を踏み入れる。
「命令に背いた理由を、改めて訊く。
あの標的を、なぜ殺さなかった」
少女はわずかに顔を伏せたあと、ぽつりと呟いた。
「……泣いてたんです。
まだ十にもならない子で、“死にたくない”って、 何度も……」
静かだった牢の空気が、かすかに震えたように感じた。だがそれは、ただの錯覚だと、緋華は思い込もうとする。
「私は、あの子を殺せなかった。
あの子を殺したら、“自分が壊れる”って……そう 思ったんです」
その言葉が、緋華の中で何かを弾いた。
「……お前は、それで良いと思ったのか。
忍びが、“情”で任務を曲げるなど、死を選ぶより 愚かだ」
それが“正しさ”だった。
緋華が幼い頃から叩き込まれてきた真理。
少女は少しだけ、首をかしげるようにして、ぽつりと尋ねた。
「緋華様は……緋華様は“命”とは、なんだと思いますか」
緋華は何も答えなかった。
沈黙。
それは否定でも肯定でもなく、
ただ、“その問い”が、心に刺さって抜けなくなった証だった。
牢を出たあと、緋華は月を仰いだ。
雲に隠れた月は、ぼんやりと光を帯びていた。
胸の奥に、わずかな“ざわめき”がある。
それは、これまでの任務で覚えたどんな感情とも違った。
(私は……)
思考の先にあるものを掴めず、緋華は足音だけを残して、静かに闇へと消えていった。