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ワンライ参加


――暇だ。暇で暇で暇で仕方がない。
空は快晴。そよそよとそよぐ心地よい風が満開の桜の花を運んでくる心地よい昼下がり。絶好の行楽日和の休日なのに、全く面白くない。
いつもは微笑ましい下級生たちの声も、今の三郎には恨めしくて堪らない。無意識に三郎は眉を下げて、ごろりと木陰に寝そべった。
白い雲が流れている様を眺めながら、三郎が考えるのはもちろん彼が愛してやまない不破雷蔵のことだ。
三郎は今日、ある計画をしていた。
雷蔵の不意をついて、彼の誕生日を祝おうと準備を進めていたのだ。
この間、たわいもない会話をしていたとき、雷蔵が今の時期に生まれたのだということを知って、いてもたってもいられなくなった。
好きで好きで大好きで。目に入れても痛くないほど大好きで。常日頃同じ顔をしてもまだ足りないくらいに大好きな雷蔵が生まれた日を祝いたかった。それが例え本当に雷蔵が生まれた日ではなかったとしても、雷蔵がこの世に生まれたことを感謝したかった。
だが、完璧だと思っていた三郎の計画には穴があった。肝心な雷蔵の予定を聞いていなかったのである。
だから、今朝になって雷蔵を驚かせてやろうと声を掛けたら、委員会の用事だとかで雷蔵は呼び出さていってしまった。
鉢屋三郎、一生の不覚である。
それならば、ついて行こうと思ったのに三郎は三郎で学園長先生の突然の用事に呼び出されてしまってそれも叶わなかった。
どうしても、どうしても雷蔵と一緒に過ごしたかったのに!
雷蔵に泣きつけば、あろう事か、彼は困ったような顔をして「たまには別々に過ごすのもいいんじゃないかな」と三郎を宥めた。嫌だ、今日は絶対に雷蔵と過ごしたい!と甘えてみれば
さらに困った顔をしてまるで子どもを宥めるように頭を撫でられて、「夜になったら、会えるから」と申し訳なさそうに告げられた。
ほんのり頬を赤く染めた不意打ちの一言に、胸を撃ち抜かれた三郎は一瞬その場で思考を止めてしまった。気がつけば、雷蔵は委員会へと向かってしまっていて、仕方なく三郎は学園長先生の庵に向かったのだ。
早々に用事を終わらせたのに、雷蔵はまだ部屋には戻っておらず、図書室に顔を出せば委員会の面々の姿はそこにはない。
手持ち無沙汰になってしまった三郎は、こうしてひとりでぼんやりと雲が流れていく様を眺めていた。
用意した、贈り物は夜に渡せばいいのだ。
一緒に行こうと思っていた、くのたま達が噂していた"でーとすぽっと"なるところも、また後日行けばいいのだ。
頭の中では分かっているのに、どうにも心がいうことを聞いてくれない。
雷蔵は。図書委員の面々は、どこに行ってしまったんだろう。
と、ぼんやりと考えを巡らせているうちに、ふいに三郎は閃いた。
――探しに行けばいいじゃないか!!
いつもそうしているのだ。雷蔵が見当たらない時。長期休暇のあと。雷蔵と合流するために、三郎は並々ならぬ情熱を燃やして彼を探すこともあった。そうとくれば、善は急げだ。小松田さんに、図書委員たちが出かけたことを聞き、外出届けを提出し、三郎は一目散に町へと駆ける。そうして遠目に彼らの姿を見つけたとき、三郎は足を止めた。
「雷蔵先輩、今日は三郎先輩はいないんですね」
「うん、三郎は学園長先生の用事なんだ。どうかした?」
雷蔵ときり丸が自分のことを話している声がして、どうにも姿を見せ難い。それに、自分がいないところでどんな会話が繰り広げられているのか突然興味が湧いたのだ。
「いや、珍しいなって思って」
「確かに、そうかもしれない。三郎、ここのところしょっちゅう着いてきてたね」
「そうですよ。三郎先輩も図書委員だったっけ?って思いましたもん」
「それは、悪かったね」
「いや、俺はいいんですけど」
「そうかい? でも言われてみれば三郎と一緒にいない休日は久しぶりだなあ」
「不破雷蔵あるところ、鉢屋三郎ありですもんね」
「それ、三郎の……」
「三郎先輩、会えば言ってくるんで覚えちゃいましたよ」
「そういえば、そうかあ」
考え込むような仕草を雷蔵がしている。そんな雷蔵にきり丸は無邪気な笑顔を浮かべながら聞いた。
「三郎先輩がいない休日って、雷蔵先輩的にはどうなんですか?」
「うーん」
悩む雷蔵を見て、三郎は心臓がドクドクと脈打つのを自覚した。雷蔵は、どう思っているんだろう。互いに想い合う関係とはいえ、普段は雷蔵から好きだとか、そういった言葉はまず聞かない。三郎が好きだといえば、僕もと言葉を返されるくらいだ。
一瞬が永遠とも思える。雷蔵はしばらく悩んだあと、なんて事ない口振りで一言きり丸に返した。
「……ちょっと、寂しいかもね」
思いもよらない不意打ちの言葉に、三郎は己の体温が急激に上がるのを感じた。
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