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短編(鉢雷)

✿鏡のような君と私︎✿

私と雷蔵はいつも同じ姿をしている。
まるで双子のようだと言われることもあるくらいに瓜二つの顔をして、常日頃から隣に並んで過ごしている。

変装の達人である私が雷蔵に変装をしているのだから、それは当然のことだ。

この間は、雷蔵が湿気で髪をもこもこさせていたので、私も"もこもこになった雷蔵の髪"を想定して作った髢を慌てて調整し、そっくりそのまま同じ髪型になった。
後輩の庄左ヱ門が「何もそこまでしなくてもいいのでは?」と至極真面目な顔をして言うから、「いいか、庄左ヱ門。変装の達人たるもの些細なことでも妥協してはいけない」と教えてやった。
訝しげな顔をしていたが、知ったことではない。雷蔵だって「いつもながら、すごいね」と褒めてくれたのだからそれでいいのだ。

先日は、授業中にうっかり頭巾を破いてしまった雷蔵に合わせて、私も頭巾を破いて見せた。
八左ヱ門が「もったいないことするなよな〜」と呆れたように言ってきたが、何がもったいないことか。雷蔵と同じ姿を極める為ならば、何も惜しくはないだろう。
雷蔵が「どうしよう。僕ら、しばらくこの頭巾なのか」とひどく落ち込んでいたので、私が雷蔵の頭巾を縫ってあげた。もちろん、私の頭巾もそっくりそのまま縫い直した。
突き刺さる八左ヱ門の視線がなんとも言えなかったが、それには無視を決め込んだ。
「三郎は器用だね」と雷蔵が喜んでくれたので、心が満たされたからそれでいいのだ。

だが、どれだけ見た目を真似しても私と雷蔵はちっとも似てはいなかった。

ランチを決めるとき、雷蔵は延々と悩んでいる。それなのに、私はちっとも悩まない。
その日のランチは、食べたいものを少しずつ交換して仲良く食べた。
一緒に食べた兵助が「いつもそうすれば早いんじゃない?」と提案してきたが、そう簡単な話ではないので難しいところだ。

うっかり裾を汚してしまったとき、私は酷く気になるのに雷蔵はまったく気にした素振りを見せずに呑気にしている。
だが、雷蔵がのんびりと「あとで一緒に洗おうか」と言ってくれたので気持ちが晴れた。

稗田八方斎が狙われたとき、あんなに悩んでいた雷蔵が迷いなく八方斎を助けようと動いたのに、私は雷蔵ならどうするのか考えて動いていた。同じ行動をしたのに、君と私は全く違う。


私は、私の変装に誇りを持っている。
変装の達人としていつも雷蔵のことを観察しているし、学園において雷蔵のことを誰よりもよく知っていると自負している。

道具の手入れも欠かせない。
大事な雷蔵のマスクは、何度も何度も手を入れて、常に納得がいく仕上がりにしている。

隣に並ぶ君と私は、誰がどう見ても瓜二つ。
同じ姿で同じ顔。同じように笑っている。

だけど、やはり違うのだ。
合わせ鏡のように振舞って、身も心も君になりきり、君の心を探ってみても、やはりどこか違うのだ。

ふとした仕草や表情で、私は私だと思い知る。

まるで鏡を覗き込んだように、同じ顔で違うふたり。正反対な君と私。

なのに、君といると心が落ち着くのはなぜだろう。

木陰で眠る、君に問う。
幸せそうにむにゃむにゃと。
信頼しきった顔をして。
無防備な姿をさらけ出して。
日向で眠る、君に問う。

君と私は何が違う?
私はどうして君になれない?

雷蔵、君は。
その答えを知っているのだろうか?
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