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短編(鉢雷)


三郎は、寒がりだと思う。

冬になると身体を縮めて小さくなっているし、外から帰ると白い息を吐きながら、手を真っ赤に染めて擦り合わせている。
口には出さないけど、いつも傍にいるのだから、僕には分かった。

そのくせ、三郎はなぜだか冬が好きだ。

雪だるまに変装して後輩をからかっているかと思えば、色んな雪遊びを教えてやっている。

よく「雷蔵、月が綺麗だ」なんて言いながら夜空を見るために僕を連れ出して、子どもみたいに目をキラキラさせてはしゃいでいるし、「変装のために必要なことなんだ」なんて言って寒空の下に僕を連れ出して僕の絵を描いている。三郎がいうには、"観察力"を磨いているらしい。

描きながら寒そうにくしゃみをしているものだから心配になって、大丈夫?暖かくなってからにしない?と聞いてみたら「今の君がいいんだよ!」と熱弁されたので、諦めた。
たぶん、変装の達人にしか分からない何かがあるのだろう。

でも、そうして部屋に戻ってきたら、冷えた身体をほんの少し震わせながら抱きついてくるのだから困ったものだ。

「三郎、冷たい」
「らいぞーはあったかいなあ」

―――そういうことじゃないんだけどなあ

文句を行ってもどこ吹く風。
三郎はますます上機嫌な様子で僕の身体にぎゅーっと強く抱きつくと、スリスリと頬を擦り寄せてくる。
どうやら僕は人より体温が高いようで、この頃の三郎は部屋に戻る度にこうやってまずは抱きついてきて暖をとるようになった。
三郎が触れる度にひんやりとした熱が伝わり、僕はほんの少しだけくすぐったい気持ちになる。

でも、身動きが取れないのは少し困る。
だから、今度はこう言ってやった。

「三郎、いつまでくっついてるの?」
「なんだ、雷蔵。不破雷蔵あるところ、鉢屋三郎ありじゃないか」

――だから、そういうことじゃないんだけどなあ

もう、好きにさせておこう。
諦めて大人しくしていると、もっと強く抱きしめられた。もういい歳なのに、三郎は甘えたがりだ。

ゆっくりと互いの体温が馴染み、ふたりともにぽかぽかと温まってくる。
とくん、とくんと互いの鼓動が優しく聴こえて、どこか気持ちが落ち着いた。
目が合えば、僕の顔なのに僕には真似できないような優しい瞳で笑いかけてくるのだからどうしたらいいのか分からなくなって慌てて目を逸らす。

本当に問題なのは、僕なのかもしれない。
ふと、そう思った。
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