その他cp
「な!?ここに置いておいたイチゴタルトを食べたのは誰だ!?」
平日の平凡な放課後にキッチンに響くトレイ先輩の声がオレの鼓膜にぶっ刺さった。そりゃこんな近くで叫ばれたら耳もキーンってするよ。
しかしまぁ何をそんなに騒いでるんだか、わらわらと寮生が集まってきてオレのことをじろじろ見てくる。
「切ったばかりのケーキをホールで置いておいたんだ。後輩に呼ばれたからキッチンを出たら、少し目を離した隙に一切れなくなっていた」
「は!?」
いやいや、皆してオレのこと見てますけど……。状況を整理しよう。
オレはたった今、このキッチンに入ってきたところだ。理由はお茶を淹れてもらう為。寮長の部屋の前を通った時に「キッチンにトレイが居ると思うからお茶を頼むよ」と言われたからそのお遣いだった。しかしだ、来てみたら此処には誰も居なかったんだよね。調理台のど真ん中にはそれはもう立派なイチゴタルトが置いてあって、ナパージュされたイチゴに光が当たってキラキラしてた。冷蔵庫から出されたばかりだったのか皿の模様が白くモヤがかかってるみたいだった。めちゃくちゃ美味しそう。
そんな完璧に見えたタルトは一切れだけ欠けていた。
そう、オレが来た時には既に一切れなかった!何でもない日じゃないし、てっきり味見で誰かに振る舞った後とか、寮長に持って行った後かと思ったんだ。だから寮長はお茶を欲したのかも、とか一人で納得したんだけど違ったみたい。
「オレが来た時にはもう一切れ無かったですよ」
「本当か?」
十数人集まった寮生が揃ってオレを訝しげな目で見つめてくる。酷くない?やってないことで疑われてたら本当にやってやろうかと思っちゃうよ。
「とにかく!オレは食べてない!」
そう言って人をかき分けて逃げるようにキッチンを飛び出した。
早歩きで向かった先は薔薇の生け垣の迷路だ。今は一人になりたかった。誰に何を言っても信じてもらえないような気がして、誰にも会わない場所を探して迷路に入って座り込む。別にヘコんでるとかじゃねぇよ。ムカついてる。ムカついて、ちょっと……やっぱヘコんでる。
これって日頃の行いってやつかなぁって。オレは所謂優等生ちゃんじゃないし、軽薄な雰囲気あるみたいで、何かあった時には真っ先に疑われるんだって実感した。かと言って今更デュースみたいにお硬いやり方したいわけじゃないし、寮長みたいに真面目一辺倒したいわけじゃない。ケイト先輩みたいに世渡りは上手いつもりでいたけど、反論も何も出来なかった。でも寄って集って多勢に無勢だったし、仕方ないよね!?って言い訳するのもカッコ悪い。
芝生にごろんと仰向けになると真っ青な空に白い雲が流れて来たところだった。ふわふわのわたあめみたいな雲が紅茶に流されていく。
ん、紅茶?
オレは驚きのあまりガバっと身を起こして振り返る。そこにはリドル寮長が立っていた。丁寧に濾して淹れた紅茶みたいな色の髪をかき上げてオレの顔を覗き込んだ寮長は、芝に座ったオレに視線を合わせるようにしゃがむ。
てっきり直ぐに怒号とかお説教が飛んでくるかと思いきや、曇った表情のまま、もごもごと何だか言葉になってない声を発している。
「すまない!」
寮長はいきなりぎゅっと目を瞑って申し訳なさそーにオレに頭を下げた。何が何だかわからないオレはただ有り得ない状況に目を瞬かせる。
「タルトを食べたのはボクなんだ!」
「え……はぁ!?」
予想外の言葉に驚いたオレの声に寮長は肩をビクッとさせて縮こまる。元々華奢で小さく見えるのによりちっさくなってしまって、まるでハリネズミが丸くなってるみたい。
「あんな騒ぎになるとは思わなくて……。トレイにはお茶を持って来て貰った時に、今日はもうタルトは頂いたからと伝えようと思っていたんだ。まさかキミに盗み食いの容疑が掛かってしまうなんて……。そうか、ボクがしたことって盗み食いなのかな……?」
自分の行動の重大さを理解した寮長の顔面がみるみる青くなっていく。
今まで一口もーらい!って母親が作ってる夕飯のおかずとか友達のお弁当の唐揚げとかを食べたことが一度もないんだな、ってちょっと呆気にとられた。そんな大したことではないんじゃないかなって思うけど、寮長にとって初めての『とても悪いこと』だったのか、どうしようと頭を抱えている。
「オレの冤罪晴らしてくれます?」
「既に晴らしてきたよ。タルトを食べたのはボクだと伝えてきた。でもキミに疑いの目が向けられたのはボクのせいだ。キミに……嫌われてしまうのかな、と思うと…どうにも……」
なにそれ。盗み食いをしちゃった事実に青くなってたんじゃなくて、オレに嫌われるのが怖かったってこと?
それって……。
「寮長ってオレのこと好きなの?」
「え!?」
真っ青な顔面がみるみる赤くなっていく。寮長はオレの質問に何も返せないで、見ないでくれ、と寮服のマントで顔を隠してしまう。
「うぅ……そうだと言ったらどうなんだい」
「オレも好きですよ」
「へ!?」
気付いちゃったんだよね。オレは皆から信用されなかったことにイラついて、ヘコんだ。でもそれはこの人に伝わった時に、寮長にも失望されることを恐れたんだって。
焦ってるのか、真っ赤になってる寮長の額から汗が滲んでいた。まるでさっき見たナパージュされたイチゴタルト。
「次につまみ食いとか盗み食いする時はオレの分も欲しいです」
笑いながら立ち上がって寮長に手を差し出すと、彼は「もうしないよ!」と言いながら勢いよく立ち上がりオレを抱き締めた。
平日の平凡な放課後にキッチンに響くトレイ先輩の声がオレの鼓膜にぶっ刺さった。そりゃこんな近くで叫ばれたら耳もキーンってするよ。
しかしまぁ何をそんなに騒いでるんだか、わらわらと寮生が集まってきてオレのことをじろじろ見てくる。
「切ったばかりのケーキをホールで置いておいたんだ。後輩に呼ばれたからキッチンを出たら、少し目を離した隙に一切れなくなっていた」
「は!?」
いやいや、皆してオレのこと見てますけど……。状況を整理しよう。
オレはたった今、このキッチンに入ってきたところだ。理由はお茶を淹れてもらう為。寮長の部屋の前を通った時に「キッチンにトレイが居ると思うからお茶を頼むよ」と言われたからそのお遣いだった。しかしだ、来てみたら此処には誰も居なかったんだよね。調理台のど真ん中にはそれはもう立派なイチゴタルトが置いてあって、ナパージュされたイチゴに光が当たってキラキラしてた。冷蔵庫から出されたばかりだったのか皿の模様が白くモヤがかかってるみたいだった。めちゃくちゃ美味しそう。
そんな完璧に見えたタルトは一切れだけ欠けていた。
そう、オレが来た時には既に一切れなかった!何でもない日じゃないし、てっきり味見で誰かに振る舞った後とか、寮長に持って行った後かと思ったんだ。だから寮長はお茶を欲したのかも、とか一人で納得したんだけど違ったみたい。
「オレが来た時にはもう一切れ無かったですよ」
「本当か?」
十数人集まった寮生が揃ってオレを訝しげな目で見つめてくる。酷くない?やってないことで疑われてたら本当にやってやろうかと思っちゃうよ。
「とにかく!オレは食べてない!」
そう言って人をかき分けて逃げるようにキッチンを飛び出した。
早歩きで向かった先は薔薇の生け垣の迷路だ。今は一人になりたかった。誰に何を言っても信じてもらえないような気がして、誰にも会わない場所を探して迷路に入って座り込む。別にヘコんでるとかじゃねぇよ。ムカついてる。ムカついて、ちょっと……やっぱヘコんでる。
これって日頃の行いってやつかなぁって。オレは所謂優等生ちゃんじゃないし、軽薄な雰囲気あるみたいで、何かあった時には真っ先に疑われるんだって実感した。かと言って今更デュースみたいにお硬いやり方したいわけじゃないし、寮長みたいに真面目一辺倒したいわけじゃない。ケイト先輩みたいに世渡りは上手いつもりでいたけど、反論も何も出来なかった。でも寄って集って多勢に無勢だったし、仕方ないよね!?って言い訳するのもカッコ悪い。
芝生にごろんと仰向けになると真っ青な空に白い雲が流れて来たところだった。ふわふわのわたあめみたいな雲が紅茶に流されていく。
ん、紅茶?
オレは驚きのあまりガバっと身を起こして振り返る。そこにはリドル寮長が立っていた。丁寧に濾して淹れた紅茶みたいな色の髪をかき上げてオレの顔を覗き込んだ寮長は、芝に座ったオレに視線を合わせるようにしゃがむ。
てっきり直ぐに怒号とかお説教が飛んでくるかと思いきや、曇った表情のまま、もごもごと何だか言葉になってない声を発している。
「すまない!」
寮長はいきなりぎゅっと目を瞑って申し訳なさそーにオレに頭を下げた。何が何だかわからないオレはただ有り得ない状況に目を瞬かせる。
「タルトを食べたのはボクなんだ!」
「え……はぁ!?」
予想外の言葉に驚いたオレの声に寮長は肩をビクッとさせて縮こまる。元々華奢で小さく見えるのによりちっさくなってしまって、まるでハリネズミが丸くなってるみたい。
「あんな騒ぎになるとは思わなくて……。トレイにはお茶を持って来て貰った時に、今日はもうタルトは頂いたからと伝えようと思っていたんだ。まさかキミに盗み食いの容疑が掛かってしまうなんて……。そうか、ボクがしたことって盗み食いなのかな……?」
自分の行動の重大さを理解した寮長の顔面がみるみる青くなっていく。
今まで一口もーらい!って母親が作ってる夕飯のおかずとか友達のお弁当の唐揚げとかを食べたことが一度もないんだな、ってちょっと呆気にとられた。そんな大したことではないんじゃないかなって思うけど、寮長にとって初めての『とても悪いこと』だったのか、どうしようと頭を抱えている。
「オレの冤罪晴らしてくれます?」
「既に晴らしてきたよ。タルトを食べたのはボクだと伝えてきた。でもキミに疑いの目が向けられたのはボクのせいだ。キミに……嫌われてしまうのかな、と思うと…どうにも……」
なにそれ。盗み食いをしちゃった事実に青くなってたんじゃなくて、オレに嫌われるのが怖かったってこと?
それって……。
「寮長ってオレのこと好きなの?」
「え!?」
真っ青な顔面がみるみる赤くなっていく。寮長はオレの質問に何も返せないで、見ないでくれ、と寮服のマントで顔を隠してしまう。
「うぅ……そうだと言ったらどうなんだい」
「オレも好きですよ」
「へ!?」
気付いちゃったんだよね。オレは皆から信用されなかったことにイラついて、ヘコんだ。でもそれはこの人に伝わった時に、寮長にも失望されることを恐れたんだって。
焦ってるのか、真っ赤になってる寮長の額から汗が滲んでいた。まるでさっき見たナパージュされたイチゴタルト。
「次につまみ食いとか盗み食いする時はオレの分も欲しいです」
笑いながら立ち上がって寮長に手を差し出すと、彼は「もうしないよ!」と言いながら勢いよく立ち上がりオレを抱き締めた。
1/3ページ
