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ヴィルケイss

「自分というものをしっかり持っていて、自立した大人な考えの人が良いわ。見た目?そうね……こだわらないけれど、しいて言えば表情が豊かで、包み込んであげたくなるような体躯の子が良いかしらね?」

ヴィルくんがリップグロスのCMのインタビューで答えたその言葉はオレの胸に突き刺さった。好きな相手を夢中にさせる色だとかいって売り出されたグロスはどこの店も完売。ヴィルくんの底力を見た気がする。そんな商品のPRの場で、記者は彼に「ヴィルさんが恋人にするならどんな人が良いですか?」って尋ねた。

そしたらヴィルくんはヴィルくんらしいなって思えるような回答をしたんだ。そうだよね。そういう人がお似合い。オレに掠ってるのなんて、表情……くらい?鉄面皮ってわけじゃないから表情はよく変わる方だと思うけど、皆の前では基本的には笑顔を崩さないようにはしてるから、表情が豊かって程じゃないのかもしれないな。考えれば考えるほどに……ヴィルくんの理想の人には掠ってもいない。
想いばっかが溢れて止まらない。もう行き場がなくて溺れちゃいそう。



理想の人なんて聞いてどうするのかしらね?大多数の中で、自分の好みの人間から選ぶってわけでもないのに。
最初から相手は決まってるのよ。

「ヴィル、君はこんなインタビューの回答で世の女性たちを惑わすなんて悪い人だね」
「まさか個人の名前を言うわけにもいかないでしょう?あの子にも迷惑がかかるし、好機の目に晒したくはないわ」
「おや、そこまで教えてくれるなんてどういう風のふき回しだい?君が心奪われているのが誰なのか教えてもらっても?」
我らがポムフィオーレ寮の談話室の暖炉がぱちぱちと火の粉をあげるのを、ルークは火かき棒で整える。座ったままこちらに視線を移して、口元ににまりと笑みを浮かべた。
「ケイト・ダイヤモンド」
「オーララ、それはそれは」
「わかっていたくせに」
わざとらしく驚いてみせたルークは暖炉の脇に棒を立て掛けて、アタシに向き直った。それは楽しそうに、おもちゃでも見つけた子供の如く笑っている。

「ケイトくんが意外としっかりしていることや、表情がよく変わって目が離せないような人であることは知っているが、彼は君が包み込むという表現が出来るほど小柄ではないはずだよ。私と同じくらいの背丈だからね」
「……そう、だったかしら。アタシ学内ではいつもヒールの高い靴を履くから気付かなかったわね。それにアンタと違って筋肉質じゃないから細身で小さく見えるのかしら」
「罪な人だね。早くその想いを伝えてしまえば良いのに」
「ケイトがアタシを好きだと確信できたらね」

ルークは眉を顰めていたが、それ以降は何も言わなかった。あの子がアタシを好きなんじゃないかっていうのは、勘付いてはいるの。でもアタシだって傷付くのは怖いわ。対するのが愛する相手なら尚更。

好かれている確信を持ってから、逃げられないように囲いを作って、拒否できないように、アタシだけしか目に入らない距離で、ケイトが溺れるような愛を謳ってみたいのよ。
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