ヴィルケイss
エーデュースちゃんの入学式の日。とっても可愛い子を見た。
ラベンダー色のウェーブヘアの子。目がくりっとまんまるで、睫毛がバシバシ長くて、つんとした鼻とちょこんと整った唇。可愛いとしか言えない。
そんな少年を見て一目散に早歩きで近付いていくヴィルくんの姿に、あぁ失恋ってホントに苦いんだって感じた。
口の中にじわって広がる唾液がひたすらに苦くて、それで溺れてるのかってくらいに息が出来ない。
羨ましくて仕方ない。あんな目鼻立ちに生まれたかった。あんな可愛くて綺麗な子になりたかった。
「エペルちゃんって何か特別なスキンケアしてるの?」
彼らが入学して三週間。ヴィルくんのお気に入りになったエペルちゃんの隣に座ってオレは尋ねた。場所は中庭の端っこ。あんまり人が来ないこんな場所で何をしてるのか気になったんだけど、隠れてデラックスメンチカツサンドを頬張る小リスみたいな姿がそこにあった。
なーるほど。まぁ食べ盛りだし肉を食べたいよねー!寮ではきっとしっかり管理されちゃってるんだろうな。
何度か話してみたけど、エペルちゃんって綺麗な話し方を強要されてるみたいだけど、素は田舎ヤンキーって感じだ。オレもそこそこ田舎だからなんとなく分かる。クラスに二、三人居たよ、こういう子。
オレに見られた!と、エペルちゃんはハッとしてサンドイッチを隠すようにオレの方に向いた。
「あの!このこと……」
「ヴィルくんに言ったりはしないよ?それでさ、スキンケアとかヘアケアとか、メーカー教えてほしいな?」
「メーカー、ですか……。わかりません。ヴィルサンに貰ったやつなので」
「そっかぁ」
ヴィルくんが直々に持たせてるなんて、ホントにお気に入りなんだね。その事実を知って、オレは更に悲しくなった。自分好みに磨いてるなんて羨ましくて涙が出そうだ。
「エペルちゃんは綺麗でいいね。可愛いけど、それだけじゃない感じで、それが魅力的なんだろうなぁ」
羨望に滲んだ目を向けたつもりだったのに、エペルちゃんは身構えて顔を顰める。
「僕は、男ですよ。嬉しくないですし、ケイトサンの気持ちには応えられないというか、もし応えたらどうなるか……」
「!?あははっ!違うよ!オレじゃなくて……」
口ごもるエペルちゃんが勢いよく手を振るので、オレは彼の手を握って呟いた。
「オレの好きな人が、君のこと好きみたいなんだよね」
その言葉に黙ってサンドイッチを頬張って飲み込んでから、エペルちゃんは真面目な顔でオレの手を掴んだ。
「その人誰ですか?一年生?」
「ちが……」
「じゃあ応えるつもりないですし、ケイトサンが好きだっていうその人の話はヴィルサンには言わない方が良いです。というか言わないでください」
「どうして……?」
溜息をついて髪を耳に掛ける彼の姿もまた美しかった。可愛くて目を奪われる。そりゃあこれだけ美少年なら好きになってもおかしくない。でもそんな美麗な彼が渋面してオレに掴みかかる。
「その相手を血眼になって探して特定して殺すかもしれないし、寮内で荒れに荒れて手がつけられなくなるかもしれません」
「どういうこと?」
「ケイトサンってこの学園で告白されたことあります?」
藪から棒に質問されたオレは目を丸くしてエペルちゃんを凝視する。急になに?それ今関係ある?
「ないけど」
「ケイトサンって学内でもめちゃくちゃ人気あるんですよ。新入生にも早くも好かれて付き合いたいって人は実は多いんです」
「うそぉ?オレ、モテないけど」
「誰もあの人を倒してまで告白する勇気がないからですよ」
「誰かが制御してるってこと?」
「はい。ホントに怖い……」
話の途中でオレは肩を掴まれて後ろに引っ張られた。座っているベンチは地面に留められてるので倒れることはないけど、オレはびっくりして後ろを向く。そこには血相を変えたヴィルくんが息を荒くしていた。
「ごめん!エペルちゃん借りたよ」
「アンタ、この子に何かした?」
「してないよ!お話してただけで……」
「違う!エペル、聞いてるの!?」
オレに話していたと思ったら声を掛けたのはエペルちゃんだった。蚊帳の外みたいで悲しくなったけど、ヴィルくんの質問を思い出して俯いた顔を上げる。
「してないです……」
「本当ね?アタシと約束したわよね?寮生は皆約束してるけど、破ったら承知しないわよ」
「……?」
「僕のこと羨ましいって目で見たりするのは別に良いですけど、付き合ってるならちゃんと手綱握ってくださいよ。ヴィルサン、ケイトサンにぞっこんなんだから」
オレはエペルちゃんの言葉に顔が熱くなるのを感じた。ぎゅっと拳を握って立ち上がる。
「知ってたの!?」
「皆知ってます。だからケイトサンに告白する人は誰も居ないです。ケイトサンが言ってた好きな人が、ヴィルサンなら見当違いですよ。こんなに、あなたしか見てないじゃないですか。全く……僕は失礼します」
そそくさと去っていくエペルちゃんはヴィルくんにデラックスメンチカツサンドの存在を知られないように必死に隠してるように見えた。
「アンタ、アタシがエペルを好きになったと思ったの?」
「だって目をかけてるし、エペルちゃん可愛いし」
「アタシだって、アンタが最近エペルにべったりだからエペルに取られるのかと思ったわ。寂しかった……」
「オレも……」
オレはベンチに座り直して隣にはヴィルくんが腰掛ける。ぎゅっと抱き締められて、大切なものを隠すみたいに包まれてる。
「アンタの方がずっと可愛い」
そう言ってヴィルくんはオレの頬に口付けた。
ラベンダー色のウェーブヘアの子。目がくりっとまんまるで、睫毛がバシバシ長くて、つんとした鼻とちょこんと整った唇。可愛いとしか言えない。
そんな少年を見て一目散に早歩きで近付いていくヴィルくんの姿に、あぁ失恋ってホントに苦いんだって感じた。
口の中にじわって広がる唾液がひたすらに苦くて、それで溺れてるのかってくらいに息が出来ない。
羨ましくて仕方ない。あんな目鼻立ちに生まれたかった。あんな可愛くて綺麗な子になりたかった。
「エペルちゃんって何か特別なスキンケアしてるの?」
彼らが入学して三週間。ヴィルくんのお気に入りになったエペルちゃんの隣に座ってオレは尋ねた。場所は中庭の端っこ。あんまり人が来ないこんな場所で何をしてるのか気になったんだけど、隠れてデラックスメンチカツサンドを頬張る小リスみたいな姿がそこにあった。
なーるほど。まぁ食べ盛りだし肉を食べたいよねー!寮ではきっとしっかり管理されちゃってるんだろうな。
何度か話してみたけど、エペルちゃんって綺麗な話し方を強要されてるみたいだけど、素は田舎ヤンキーって感じだ。オレもそこそこ田舎だからなんとなく分かる。クラスに二、三人居たよ、こういう子。
オレに見られた!と、エペルちゃんはハッとしてサンドイッチを隠すようにオレの方に向いた。
「あの!このこと……」
「ヴィルくんに言ったりはしないよ?それでさ、スキンケアとかヘアケアとか、メーカー教えてほしいな?」
「メーカー、ですか……。わかりません。ヴィルサンに貰ったやつなので」
「そっかぁ」
ヴィルくんが直々に持たせてるなんて、ホントにお気に入りなんだね。その事実を知って、オレは更に悲しくなった。自分好みに磨いてるなんて羨ましくて涙が出そうだ。
「エペルちゃんは綺麗でいいね。可愛いけど、それだけじゃない感じで、それが魅力的なんだろうなぁ」
羨望に滲んだ目を向けたつもりだったのに、エペルちゃんは身構えて顔を顰める。
「僕は、男ですよ。嬉しくないですし、ケイトサンの気持ちには応えられないというか、もし応えたらどうなるか……」
「!?あははっ!違うよ!オレじゃなくて……」
口ごもるエペルちゃんが勢いよく手を振るので、オレは彼の手を握って呟いた。
「オレの好きな人が、君のこと好きみたいなんだよね」
その言葉に黙ってサンドイッチを頬張って飲み込んでから、エペルちゃんは真面目な顔でオレの手を掴んだ。
「その人誰ですか?一年生?」
「ちが……」
「じゃあ応えるつもりないですし、ケイトサンが好きだっていうその人の話はヴィルサンには言わない方が良いです。というか言わないでください」
「どうして……?」
溜息をついて髪を耳に掛ける彼の姿もまた美しかった。可愛くて目を奪われる。そりゃあこれだけ美少年なら好きになってもおかしくない。でもそんな美麗な彼が渋面してオレに掴みかかる。
「その相手を血眼になって探して特定して殺すかもしれないし、寮内で荒れに荒れて手がつけられなくなるかもしれません」
「どういうこと?」
「ケイトサンってこの学園で告白されたことあります?」
藪から棒に質問されたオレは目を丸くしてエペルちゃんを凝視する。急になに?それ今関係ある?
「ないけど」
「ケイトサンって学内でもめちゃくちゃ人気あるんですよ。新入生にも早くも好かれて付き合いたいって人は実は多いんです」
「うそぉ?オレ、モテないけど」
「誰もあの人を倒してまで告白する勇気がないからですよ」
「誰かが制御してるってこと?」
「はい。ホントに怖い……」
話の途中でオレは肩を掴まれて後ろに引っ張られた。座っているベンチは地面に留められてるので倒れることはないけど、オレはびっくりして後ろを向く。そこには血相を変えたヴィルくんが息を荒くしていた。
「ごめん!エペルちゃん借りたよ」
「アンタ、この子に何かした?」
「してないよ!お話してただけで……」
「違う!エペル、聞いてるの!?」
オレに話していたと思ったら声を掛けたのはエペルちゃんだった。蚊帳の外みたいで悲しくなったけど、ヴィルくんの質問を思い出して俯いた顔を上げる。
「してないです……」
「本当ね?アタシと約束したわよね?寮生は皆約束してるけど、破ったら承知しないわよ」
「……?」
「僕のこと羨ましいって目で見たりするのは別に良いですけど、付き合ってるならちゃんと手綱握ってくださいよ。ヴィルサン、ケイトサンにぞっこんなんだから」
オレはエペルちゃんの言葉に顔が熱くなるのを感じた。ぎゅっと拳を握って立ち上がる。
「知ってたの!?」
「皆知ってます。だからケイトサンに告白する人は誰も居ないです。ケイトサンが言ってた好きな人が、ヴィルサンなら見当違いですよ。こんなに、あなたしか見てないじゃないですか。全く……僕は失礼します」
そそくさと去っていくエペルちゃんはヴィルくんにデラックスメンチカツサンドの存在を知られないように必死に隠してるように見えた。
「アンタ、アタシがエペルを好きになったと思ったの?」
「だって目をかけてるし、エペルちゃん可愛いし」
「アタシだって、アンタが最近エペルにべったりだからエペルに取られるのかと思ったわ。寂しかった……」
「オレも……」
オレはベンチに座り直して隣にはヴィルくんが腰掛ける。ぎゅっと抱き締められて、大切なものを隠すみたいに包まれてる。
「アンタの方がずっと可愛い」
そう言ってヴィルくんはオレの頬に口付けた。