ヴィルケイss
パティスリーでボンボンショコラを食べたりドリンクも頼んで写真撮ってたんだけど、監督生ちゃんは「この甘い雰囲気に耐えられないのでお先に失礼しまーす」なんて言って帰っちゃって、ヴィルくんと二人きりになっちゃった。願ったり叶ったり〜♪なんて思いつつ、この甘ーい匂いに満たされた店の中でヴィルくんと二人はすごく気まずい。だってヴィルくんってお菓子ほとんど食べないし、映える飲み物も食べ物も必要としてない人だから勧めてもしらーって顔してるし。今もね。
「何で監督生は先に帰ったのかしら?」
「気を遣ってくれたんだよ」
「意外と出来る子なのね」
オレの自撮りを眺めてたヴィルくんは自身のスマホに視線を移した。おめでとうって言ってもらえたのは嬉しいけど、ヴィルくんは現状があんまり楽しくなさそうでもやもやする。オレの誕生日に辛気臭い顔されても困るよ。
「ヴィルくん、機嫌悪い?」
「どうして?」
「無理矢理連れてきたから……」
「無理矢理連れてこられたなんて思ってないわよ」
「じゃあ何でそんなむすっとしてんの?」
さっきから不貞腐れたみたいな表情で周りをあんまり見ないようにしてるじゃん。オレの盛れる角度とか教えてくれた時には楽しそうにしてたのにさ。ここに入って急におとなしいし。
「あ……ごめんなさい。気を悪くしたなら謝るわ、ケイト。せっかくの誕生日なのに態度が悪かったわね。許して」
「ヤダ……」
幼稚な返しだったかな。でもちょっと困らせてみたい。さっきまでは普段からオレのこと沢山見てくれてるんだろうなーって嬉しかったのに今は何だか寂しいんだもん。ヴィルくんの手に掛かれば、より素敵な写真も撮れるんだって驚いたし感動して惚れ直したのにさ。
オレは昔から空気を読むのがうまかった。姉二人に囲まれた結果、顔色を窺ってないと死活問題だったもんだから自然と身に付いちゃった性は、歳を重ねるごとに磨かれていったんだ。今では寮でも橋渡しみたいなポジションにいて、八方美人だとか言われることもあるけどそれなりに便利だから利用してさえいる。でもね、こういう時鈍感だったら良かったなーって思うよ。彼氏の表情が曇ってるなんて。よりによってオレの生まれた日に……。
「あの!お腹が空いてて……!それで、その……食べられる物もないし、この場所は居づらいだけで不機嫌とかじゃないのよ」
幻聴?
言いづらそうに切り出したかと思えばそれ?ヴィル・シェーンハイトがお腹が空いてて、むすっとしてるの!? ま、マジで!?
「ケイトの誕生日だから何も文句は言いたくないんだけど……アタシって押しに弱いところがあるって自覚してるから、突っぱねられない人にはとことん弱くて。あぁこれがエペルとかルークなら一言、帰るわ、で済むのに……」
あのヴィル・シェーンハイトがしどろもどろ。なるほど、ちゃんとオレのこと考えてくれてたんだね。
「ヴィルくんってローズヒップティー好き?」
「好きだけど、何よ急に」
「ヴィルくんって健康に良いものとか美容に良いものばっか摂ってるじゃん?ヴィルくんが本当に好きなものってなーに?」
「本当に……好きな……」
周りに健康食を勧めて寮生を管理して同じような食事に徹底させるのは、きっと自分にとって害悪だと捉えてる食品を近寄らせないため。でも揺れ動く視線は誤魔化せない。寮では自分の意のままに事が進んでも、大食堂では全寮生が揃うから色んな食事が並ぶ。ヴィルくんがいつもチラッと見てる食事の数々をオレが見逃してると思う?好きな人の観察を怠らないのは同じだよ?
「ヴィルくんってー、実はタルタルソースとか揚げ物とか好きでしょー?あとクリームたっぷりのケーキとか、美味しい〜って思うタイプだよね?」
「そんなわけ……!」
「肌に悪いから脂質は控えてるもんね?ナッツとかオリーブオイルでしか油分を取らないけど、確実にマヨネーズは好きだよね」
「なんで知ってるのよ!? 」
「当たっちゃった☆」
オレは薄味でも満足する方だからサラダにマヨネーズが付属してたらちょっと残すんだけど、それをヴィルくんにあげたりするんだよね。大食堂で作ってるらしいマヨネーズは酸味が強くて香り高くて市販より美味しいんだけど、ヴィルくんがオレの余り物のマヨネーズを拒否したことは一度もない。肌荒れするから市販のマヨネーズは絶対に使わないと豪語する彼は、手作りといえど殆ど摂取しないけど、絶対に好きだろうと思って最近は多めに残してるって言ったら怒るかな?
「ヴィルくんの表情の機微が読み取れないわけないじゃん。君がオレの盛れる角度がわかってるように、オレもヴィルくんのこと三百六十度どこからでも見てるの。甘く見ないでよね。じゃ、出よっか」
「え……もういいの?」
「うん、オレもお腹空いたから帰ろ。おすすめのオムレツ屋さんあるから行かない?」
オレはヴィルくんの手を引いてパティスリーを後にした。グイグイ引っ張るとヴィルくんはなされるがままについてくる。
「ヴィルくんは一流の生き方をしてるからジャンクフードとかスイーツは好きだとしても食べたくないんでしょ?オレの誕生日だからって気を遣わなくても良いんだよ」
「食べたくないわけじゃないけれど、時折自分を見失ってしまいそうになるのが怖いのよ。ケイトに認められてるだけで充分だと感じてしまったらアタシはモデルでも俳優でも居続けられない。仕事は充実してて好きだからやめたくないの」
「好きなものは食べられる時に食べたらいいよ。自分の好きなタイミングでさ。そのタイミングでオレのことも誘って。いつでも付き合うから」
「……アンタって男前ね」
「惚れ直しちゃったカンジ〜?」
「そうね。大好きだわ」
素直に認めたヴィルくんの頬が薔薇色に見えてオレも思わず赤面した。いつもかっこいいばっかりのヴィルくんが何だか可愛く見えて、オレの観察眼もまだまだだなって、この先どんなヴィルくんが見られるのかなって楽しみになった。ヴィルくんの長い腕が伸びてオレの腰に回る。人の居ないレトロな街角に二人きり、ピタリと寄り添って歩く。
「アンタのところの副寮長がアタシに強引に焼き菓子を勧めるのだけは何とかしてもらいたいわ」
「あー……あれは止められないや、オレが餌食になるから」
眉を顰めたヴィルくんがぶつくさ文句を言ってる。さっき文句言いたくないって言ってたのにね。でも通常運転に戻ったオレの恋人の横顔は、今日も変わらずに美しいなって心から思えた。
「何で監督生は先に帰ったのかしら?」
「気を遣ってくれたんだよ」
「意外と出来る子なのね」
オレの自撮りを眺めてたヴィルくんは自身のスマホに視線を移した。おめでとうって言ってもらえたのは嬉しいけど、ヴィルくんは現状があんまり楽しくなさそうでもやもやする。オレの誕生日に辛気臭い顔されても困るよ。
「ヴィルくん、機嫌悪い?」
「どうして?」
「無理矢理連れてきたから……」
「無理矢理連れてこられたなんて思ってないわよ」
「じゃあ何でそんなむすっとしてんの?」
さっきから不貞腐れたみたいな表情で周りをあんまり見ないようにしてるじゃん。オレの盛れる角度とか教えてくれた時には楽しそうにしてたのにさ。ここに入って急におとなしいし。
「あ……ごめんなさい。気を悪くしたなら謝るわ、ケイト。せっかくの誕生日なのに態度が悪かったわね。許して」
「ヤダ……」
幼稚な返しだったかな。でもちょっと困らせてみたい。さっきまでは普段からオレのこと沢山見てくれてるんだろうなーって嬉しかったのに今は何だか寂しいんだもん。ヴィルくんの手に掛かれば、より素敵な写真も撮れるんだって驚いたし感動して惚れ直したのにさ。
オレは昔から空気を読むのがうまかった。姉二人に囲まれた結果、顔色を窺ってないと死活問題だったもんだから自然と身に付いちゃった性は、歳を重ねるごとに磨かれていったんだ。今では寮でも橋渡しみたいなポジションにいて、八方美人だとか言われることもあるけどそれなりに便利だから利用してさえいる。でもね、こういう時鈍感だったら良かったなーって思うよ。彼氏の表情が曇ってるなんて。よりによってオレの生まれた日に……。
「あの!お腹が空いてて……!それで、その……食べられる物もないし、この場所は居づらいだけで不機嫌とかじゃないのよ」
幻聴?
言いづらそうに切り出したかと思えばそれ?ヴィル・シェーンハイトがお腹が空いてて、むすっとしてるの!? ま、マジで!?
「ケイトの誕生日だから何も文句は言いたくないんだけど……アタシって押しに弱いところがあるって自覚してるから、突っぱねられない人にはとことん弱くて。あぁこれがエペルとかルークなら一言、帰るわ、で済むのに……」
あのヴィル・シェーンハイトがしどろもどろ。なるほど、ちゃんとオレのこと考えてくれてたんだね。
「ヴィルくんってローズヒップティー好き?」
「好きだけど、何よ急に」
「ヴィルくんって健康に良いものとか美容に良いものばっか摂ってるじゃん?ヴィルくんが本当に好きなものってなーに?」
「本当に……好きな……」
周りに健康食を勧めて寮生を管理して同じような食事に徹底させるのは、きっと自分にとって害悪だと捉えてる食品を近寄らせないため。でも揺れ動く視線は誤魔化せない。寮では自分の意のままに事が進んでも、大食堂では全寮生が揃うから色んな食事が並ぶ。ヴィルくんがいつもチラッと見てる食事の数々をオレが見逃してると思う?好きな人の観察を怠らないのは同じだよ?
「ヴィルくんってー、実はタルタルソースとか揚げ物とか好きでしょー?あとクリームたっぷりのケーキとか、美味しい〜って思うタイプだよね?」
「そんなわけ……!」
「肌に悪いから脂質は控えてるもんね?ナッツとかオリーブオイルでしか油分を取らないけど、確実にマヨネーズは好きだよね」
「なんで知ってるのよ!? 」
「当たっちゃった☆」
オレは薄味でも満足する方だからサラダにマヨネーズが付属してたらちょっと残すんだけど、それをヴィルくんにあげたりするんだよね。大食堂で作ってるらしいマヨネーズは酸味が強くて香り高くて市販より美味しいんだけど、ヴィルくんがオレの余り物のマヨネーズを拒否したことは一度もない。肌荒れするから市販のマヨネーズは絶対に使わないと豪語する彼は、手作りといえど殆ど摂取しないけど、絶対に好きだろうと思って最近は多めに残してるって言ったら怒るかな?
「ヴィルくんの表情の機微が読み取れないわけないじゃん。君がオレの盛れる角度がわかってるように、オレもヴィルくんのこと三百六十度どこからでも見てるの。甘く見ないでよね。じゃ、出よっか」
「え……もういいの?」
「うん、オレもお腹空いたから帰ろ。おすすめのオムレツ屋さんあるから行かない?」
オレはヴィルくんの手を引いてパティスリーを後にした。グイグイ引っ張るとヴィルくんはなされるがままについてくる。
「ヴィルくんは一流の生き方をしてるからジャンクフードとかスイーツは好きだとしても食べたくないんでしょ?オレの誕生日だからって気を遣わなくても良いんだよ」
「食べたくないわけじゃないけれど、時折自分を見失ってしまいそうになるのが怖いのよ。ケイトに認められてるだけで充分だと感じてしまったらアタシはモデルでも俳優でも居続けられない。仕事は充実してて好きだからやめたくないの」
「好きなものは食べられる時に食べたらいいよ。自分の好きなタイミングでさ。そのタイミングでオレのことも誘って。いつでも付き合うから」
「……アンタって男前ね」
「惚れ直しちゃったカンジ〜?」
「そうね。大好きだわ」
素直に認めたヴィルくんの頬が薔薇色に見えてオレも思わず赤面した。いつもかっこいいばっかりのヴィルくんが何だか可愛く見えて、オレの観察眼もまだまだだなって、この先どんなヴィルくんが見られるのかなって楽しみになった。ヴィルくんの長い腕が伸びてオレの腰に回る。人の居ないレトロな街角に二人きり、ピタリと寄り添って歩く。
「アンタのところの副寮長がアタシに強引に焼き菓子を勧めるのだけは何とかしてもらいたいわ」
「あー……あれは止められないや、オレが餌食になるから」
眉を顰めたヴィルくんがぶつくさ文句を言ってる。さっき文句言いたくないって言ってたのにね。でも通常運転に戻ったオレの恋人の横顔は、今日も変わらずに美しいなって心から思えた。
