ヴィルケイss
「ヴィルくんってさ、いつもエペルちゃんのこと考えてるよね」
「そんなことはないでしょう」
オレの発言に対して不本意だとばかりに顔を歪める彼は、今も尚中庭の井戸に向かって歌の練習をするエペルちゃんのことをじっと見てる。こっちを見たのは一瞬だけ。
付き合って3ヶ月って一番楽しい時期じゃない?折角一緒に居るのに、全くこっちを見てくれない。寂しいって思うのはオレだけなのかな……。
「もう……別れたい」
「は?」
やっとこっちをしっかり向いたヴィルくんの顔は激昂に染まってた。人ってこんなに怒りをあらわに出来るんだ。オレは途端に怖くなって一歩後ずさる。
けど直ぐにヴィルくんはその差を詰めてオレの首筋に吸い付いた。きつく吸われた首にはキスマークが残ったんだろうけど、その上を更に噛んでから、ヴィルくんはオレの首を開放してくれた。じんじんとした痛みと熱を帯びた首がどことなく重い。
「どういうつもり?」
「だって……ヴィルくんが好きなのはエペルちゃんじゃん!オレのことなんて、見てないじゃん……」
「今エペルを見てるのはレッスンの時間だからよ!エペルをいつも見てるって言うならアンタがたまたまそういう時間に傍に居るだけ。それ以外の時間はずっとケイトを見てるわ!」
言い争うオレたちを遠巻きにしてた生徒がヒートアップした様を見て離れていった。オレも逃げ出したい。心が痛い。
「嘘だよ……。ランチだって、ディナーだってエペルちゃんにかかりきりで、マナー指導しててさ。オレのテーブルマナーが良くなくても特に何も言わないじゃん」
「マナーが悪いまま社会に出たら恥ずかしいでしょうが!それが理由であの子を貰ってくれる相手が居なくなったら困るでしょ!!」
どういうこと?
エペルちゃんの相手は重要で、オレは一人ぼっちになっても良いの?マナーが悪くて笑いものになっても良いの?
自分で習得しようとは思うけどお手本があるに越したことはない。それなのに、隣に座るオレには殆ど気が向いたことがない。
視界に入れるのすら不快だってこと……?
「オレは…どうでもいいんだね……。相手が、居なくても……」
「アンタのマナーが気になるならこれから先でいくらでも修正がきくもの。アタシがアンタを貰うんだから」
「……え?」
「何よその顔は!?アタシとの未来は望んでないって言うの!?何度アンタに自分の印を刻んでも、独占欲が満たされることはないくらい愛してやまないんだから、アタシ以外と添い遂げられると思わないことね!」
息荒くオレへの愛を綴ったヴィルくんは、相当な怒りから徐々に潤んだ瞳を隠すように手で顔を覆っていった。オレの居ない未来でも想像したのだろうか?
そんなヴィルくんを思い浮かべたら悲壮感漂ってなんだか可哀想な気がした。誰からの求婚も受けずに年老いてよぼよぼな独り身のヴィルくん。すごく広い家に一人で住んで、いつもオレを思い出して寂しく泣いたりするのかな。
そしたらオレも同じようにヴィルくんを想いながら、たった一人で天使のお迎えを今か今かと待つと思う。
「ヴィルくん……オレとずっと一緒に居てくれるの?」
「当然そのつもりよ。絶対に別れないわ。だから早く撤回して。アタシを不幸のどん底に落としたまま突き放さないでよ」
怒りはなくなり、苦しみに眉を顰めたヴィルくんはオレの頬に指を這わせて呟いた。
オレもちゃんと君に伝えなきゃ。
「別れるなんて言ってごめんね。オレのことちゃんと貰ってね」
「当たり前よ。寂しいならアタシの腕の中に来なさい。エペルの監視はやめられないけど、アンタがここに居てくれるだけで幸せだわ」
「うん。ここに居る。君の傍に居たい」
ずっと君の傍に居るから、指導の時も、もうちょっとだけこっちを見てほしいな。
「そんなことはないでしょう」
オレの発言に対して不本意だとばかりに顔を歪める彼は、今も尚中庭の井戸に向かって歌の練習をするエペルちゃんのことをじっと見てる。こっちを見たのは一瞬だけ。
付き合って3ヶ月って一番楽しい時期じゃない?折角一緒に居るのに、全くこっちを見てくれない。寂しいって思うのはオレだけなのかな……。
「もう……別れたい」
「は?」
やっとこっちをしっかり向いたヴィルくんの顔は激昂に染まってた。人ってこんなに怒りをあらわに出来るんだ。オレは途端に怖くなって一歩後ずさる。
けど直ぐにヴィルくんはその差を詰めてオレの首筋に吸い付いた。きつく吸われた首にはキスマークが残ったんだろうけど、その上を更に噛んでから、ヴィルくんはオレの首を開放してくれた。じんじんとした痛みと熱を帯びた首がどことなく重い。
「どういうつもり?」
「だって……ヴィルくんが好きなのはエペルちゃんじゃん!オレのことなんて、見てないじゃん……」
「今エペルを見てるのはレッスンの時間だからよ!エペルをいつも見てるって言うならアンタがたまたまそういう時間に傍に居るだけ。それ以外の時間はずっとケイトを見てるわ!」
言い争うオレたちを遠巻きにしてた生徒がヒートアップした様を見て離れていった。オレも逃げ出したい。心が痛い。
「嘘だよ……。ランチだって、ディナーだってエペルちゃんにかかりきりで、マナー指導しててさ。オレのテーブルマナーが良くなくても特に何も言わないじゃん」
「マナーが悪いまま社会に出たら恥ずかしいでしょうが!それが理由であの子を貰ってくれる相手が居なくなったら困るでしょ!!」
どういうこと?
エペルちゃんの相手は重要で、オレは一人ぼっちになっても良いの?マナーが悪くて笑いものになっても良いの?
自分で習得しようとは思うけどお手本があるに越したことはない。それなのに、隣に座るオレには殆ど気が向いたことがない。
視界に入れるのすら不快だってこと……?
「オレは…どうでもいいんだね……。相手が、居なくても……」
「アンタのマナーが気になるならこれから先でいくらでも修正がきくもの。アタシがアンタを貰うんだから」
「……え?」
「何よその顔は!?アタシとの未来は望んでないって言うの!?何度アンタに自分の印を刻んでも、独占欲が満たされることはないくらい愛してやまないんだから、アタシ以外と添い遂げられると思わないことね!」
息荒くオレへの愛を綴ったヴィルくんは、相当な怒りから徐々に潤んだ瞳を隠すように手で顔を覆っていった。オレの居ない未来でも想像したのだろうか?
そんなヴィルくんを思い浮かべたら悲壮感漂ってなんだか可哀想な気がした。誰からの求婚も受けずに年老いてよぼよぼな独り身のヴィルくん。すごく広い家に一人で住んで、いつもオレを思い出して寂しく泣いたりするのかな。
そしたらオレも同じようにヴィルくんを想いながら、たった一人で天使のお迎えを今か今かと待つと思う。
「ヴィルくん……オレとずっと一緒に居てくれるの?」
「当然そのつもりよ。絶対に別れないわ。だから早く撤回して。アタシを不幸のどん底に落としたまま突き放さないでよ」
怒りはなくなり、苦しみに眉を顰めたヴィルくんはオレの頬に指を這わせて呟いた。
オレもちゃんと君に伝えなきゃ。
「別れるなんて言ってごめんね。オレのことちゃんと貰ってね」
「当たり前よ。寂しいならアタシの腕の中に来なさい。エペルの監視はやめられないけど、アンタがここに居てくれるだけで幸せだわ」
「うん。ここに居る。君の傍に居たい」
ずっと君の傍に居るから、指導の時も、もうちょっとだけこっちを見てほしいな。