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ヴィルケイss

『毒』はじわじわと広がっていった。
ちくりと刺して、存在を誇示するかのようにアタシの周りを舞っている。もう致死量を食らったというのに、更に刺して毒を注入していく。一秒ごとに。止めどなく。
浸透してころっと死ねたら楽なのかしら?毒は体の隅々まで巡っていくから、苦しくて仕方がないの。
けれどその苦しさが心地良さにも感じる。だってアタシしか得られないと知っているから。この先、一生アタシだけが得られる特権にしていくのだと誓っているから。

だって、ねぇ、毒を持っているのはアナタだけじゃないわ、ケイト。アタシも毒には詳しいのよ。

毒って言葉を辞書で調べてみると、『生物の生命活動にとって不都合を起こす物質の総称』って出てくるわ。
ケイトに溺れて、独占したくてたまらない感情を起こさせる『ドーパミン』を絶えず分泌させるアタシの体は、毒に侵されていると言っても過言じゃない。そう、アンタのことしか考えられないのだから。
勿論仕事を前にすれば思考は切り換えられるわ。けれどケイトの前に立てばアタシはただの『ヴィル』になる。十八歳の男子高校生。それだけ。ケイトを好きだってことしかわからなくなってしまう。
こんなのアタシらしいって言えるかしら?今までの人生で築いてきたヴィル・シェーンハイト像から考えて、確実に不都合が生じてる。

ほら、致死量の毒が巡っているでしょう?本当に、何で生きているのか不思議よね。
でも、アンタもアタシに対して同じように思ってくれているって確信があるから、苦しくても幸せなのよ。

アタシの横で魔法薬学の辞典を広げて、「毒って種類が多くて覚えるの大変そう」だとか呟くアンタの頬が赤いのを見ていると、アタシの毒が効いているんだと実感する。

「魔法の方が便利な気がするなぁ」
「魔法がなくてもアナタに効く毒なら、アタシはいつだって持ってるわ」
「……綺麗な花には棘も毒もあるもんね。ヴィルくんに毒殺されるなら本望……」
「殺すものですか。神経に作用して動けなくして感覚を麻痺させるわ。アンタは一生アタシから離れられなくなる」

毒に侵された独占欲をさらけ出して発言したアタシに対して、ケイトは目を丸くする。暫くぽかんと口も開けていたけど、目を細めてから八重歯を見せてへらっと笑った。
「それだけ?」
「えっ、それだけ!?」
「だって毒を盛られなくたってそうなるよ?オレはずっとずっと前からヴィルくんしか見えてないし、これから先も君が望む限り隣にいるよ」

どうやらアタシが本当にケイトに対して一服盛ると思ったようで、首をひねって自分の行く末を考えている。「お腹が痛くなるのはイヤだなぁ」なんて緊張感の無いことまで言い出した。

なんてこと。この子は毒殺されるかもしれないっていう未来を見据えて尚、アタシに全て委ねるというの?

あぁ……こういうのを愛しいっていうのよね。本当に敵わないわ。

ポンパドールに結っているおかげで、ガラ空きのケイトのおでこにデコピンをして、微かに丸く色付いた跡にキスをする。
「アタシがそんな酷いことするわけないじゃない。それに、アンタが望んでアタシの隣に居てよね。ずっと」
「毒は良いの?」
「えぇ。アタシが常に致死量盛られているからいっぱいいっぱいよ」
「えっ?どういうこと?」

怪訝な顔を向けて絶えずどういうことかと質問を繰り返すケイトに、もう一度おでこを弾こうと指を構えると、彼はガラ空きのそこを両手で隠して後退った。


いつか教えるわ。
そうね……アタシの『毒』で以って、アンタが死にそうなくらいに幸せを感じているときにでも。
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