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ヴィルケイss

こんなお決まり。
どっかのクラスで何度も聞いた展開。オレが一年の時に、隣のクラスの生徒……確かのオクタヴィネルの生徒が魔法薬をかぶって猫耳を生やした。
それと全く同じことが起こってる…みたい。

その生徒は何の人魚だったか知らないけど、ガヤガヤとした話し声の中で「ウミウシみたーい」と揶揄が飛んだことはよく覚えてる。

オレは薬草学の授業中で実験室に居た。三年生の合同選択授業で運良く秀才のクラスと一緒だったので、オレの他にヴィルくんとかレオナくんが同じ室内に居る。
そんな実験室内で頭からかぶった液体がじわりと体に染みていくのを感じながらガラスに写る自分の姿を確認する。
キツネ色の耳が自分の頭でぴこぴこと動いていた。

「うっそ……マジぃ?」
普段より数倍、数十倍大きく聞こえる周りの音が酷く騒がしい気がして、オレは思わず耳を塞いだ。刹那、近付くヒールの擦れる靴音に、安堵を覚えて隣に立った人物を仰ぎ見る。
「ケイト……大丈夫なの?」

いつも見ている顔がいつもよりも輝いて見えた。まるで巨大なスクリーンにどアップで見てるような感覚で、隣にヴィルくんの顔がある。
オレは驚きのあまりに一歩後退り、焦点を合わせようと必死で目を細めた。

「なにこれーーー!?目が見えすぎ!ヴィルくん肌が綺麗すぎるんだけど!?」
オレが大きな声を出すと、彼は呆れたように眉根を寄せる。
「何言ってるのよ。アタシが美しいことなんて……」
「そいつ、狐になったな」
こっちとは五メートル以上距離を取っていたレオナくんが呟いた。とばっちりを受けないようにしてるのか、あくまでも遠くから様子を窺ってくる。

キツネ…?
自分の人間の耳が消失して動物の耳が生えたことで、それが勝手に猫耳だと判断したけど、どうやら違ったみたい。室内に居るサバナクローの生徒達がじっと向けてくる視線がギラギラとしてる。肉食獣の同胞を見る眼。草食獣の畏怖の対象としての眼差し。
そして隣のヴィルくんの熱を帯びた瞳……。

「…もしかして、タイプ?」
ヴィルくんの声をしっかりと聞こうとして、ぴこぴこと絶えず動く耳を彼の目線は追い掛ける。
「タイプなんて……可愛いとか思ってなんて………可愛いわ!いつも可愛いけれど耳が…動いてるなんて」
目を輝かせてオレを抱き締めてから耳をふにふにと触るヴィルくんの指が擽ったくて、オレは思い切り身をよじる。
「くすぐったいよ〜」
絶えずふにふにとオレの耳を触るヴィルくんの手を払って、彼の顔を見上げると嬉しげに頬を緩めていた。

その破顔にオレの顔も熱くなったけど、少し離れた位置からレオナくんが呟く。
「はっ……気色わりぃな、エキノコックス(寄生虫)め」

うわっ。イヤミ?えっ、キツネに付くっていう寄生虫だよね?
ヴィルくんがオレにくっついてるってこと?今の状況はあながち間違ってないけど、よく直にそんなことが言える……。

「うるさいわよ、王家のスパルガヌム(寄生虫)」
うわぁ、イヤミで返した?それ……確かテレビで人間の脳に寄生するって見たな。国の中枢(脳)に寄生してるってこと?
ヴィルくんの方が少しうわてだったのかも。


睨み合う二人の顔をオレは交互に見ていた。困った状況に何も言えなくなってしまってまごついていると、教壇の向こうからクルーウェル先生が声を張り上げる。
「ビークワイエット、子犬共!獣化は一時間もすれば元に戻る。騒いでいないでさっさと自分達の班で作業に戻れ!」
苛ついた表情で指示を出した先生に睨まれてしまい、反抗するのも面倒だと二人はさっさと自分達の作業を再開する。疾走感ある出来事に皆が注視していたが、鶴の一声で元の整然とした授業風景に戻った。
そこでようやくオレに獣化の薬をぶっかけた人物が「すまぬのぅ。手が滑ってしまったわい」とオレに声を掛けたのだった。
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