ヴィルケイss
歌うのは好き。ギターを弾くのも好き。一応ベースもやったりする。それも好き。だって楽しいから。
音楽って楽しくなけりゃ駄目だよね?自分が楽しくなかったら、皆を笑顔に出来ないしさ。そう思ってはいたんだけど。
VDC代表選抜オーディション。オレはヴィルくんに「パッションがない」って言われた。
はぁー!?情熱!?
何を求めてるわけ!?
そんなこと言うならさ、最初っから楽譜に『コン・パッシオーネ(情熱的に)』って書いておいてくれない?
昔同級生と合唱の発表をしたときに、オレは「ダイヤモンドの歌い方って楽譜通りだよな」って皮肉を言われたことがある。良くも悪くもない。取り立てて秀でた所のない歌声は誰の印象にも残らなかった。グループの賞も取れなかったし、先生に褒められもしなかった。
それが悪いとは思わなかったけど、つまらなくはあって、だから個性を磨こうと思ってバンドを始めた。
そんな思いで入部した軽音部は個性的なメンバーの集まりだった。現在の部員であるカリムくんは、リズムを刻ませたらその世界に入り込む天才だ。普段の愛らしくって陽気な振る舞いからは想像できないくらいに、真剣な面持ちでドラムを叩く。ダンスをやってるからか、足技が凄くて、二個のバスドラムを自由自在に鳴らすし、ハイハットのオープン・クローズもお手の物。打ち合わせ無しでその場で叩くアレンジもかっこいい。
リリアちゃんは何年ベースやってんだろうってくらいテクニック持ってる。四弦から六弦まで弾きこなすし、スラップもピック奏法も完璧だと思う。特にハンマリングが凄くて、レガートを聴いた後輩が、髪を振り乱して弾くリリアちゃんに惚れそうになった、って言うのを聞いた。
二人とも個性的な二人だけの演奏が出来てる。オレだけが普通で、大衆的で、平凡、地味。
オーディションに関しては練習を頑張ってた分、ヴィルくんに注意されたことは結構ヘコんだ。ツライ。っていうか、酷くない!?
仮にも、いや仮とかないけど、オレ恋人だよ?もうちょっとオブラートに包む物言いしてくれても良いじゃん。
その場だけ褒めるとかさ。
でもヴィルくんはそういう人じゃない。自分にも他人にも厳しくて、『切磋琢磨』を自らの寮でテーマにしてるような人だ。自己研鑚で彼の右に出る者は居ない。
だからオレに対しても向上心を失わせないように本音でぶつかる。わかってる。そういうところが大好きだから。
でも!それとこれとは別問題!むしゃくしゃするものはするの!
オレは軽音部の部室に走った。ドアを開けて椅子に腰掛けるとギターを掴む。ストラップを肩に掛けて、ポケットからピックを取り出すと、ヴィルくんをイメージして買った青紫色のピックを真っ二つに折り曲げてぽいっと床に放った。
そして弦を指で弾く。所謂スラップでギターをかき鳴らす。一人きりの部室に響く、低いギターの音。ギターアンプを挟んでスピーカーから飛び出す音は隣室の部活動の生徒に怒られない最大音量に設定してある。
反響するギターの音はオレのどうしようもない気持ちを消していく。
やっぱり音楽が好きだな。だってギター弾いてる今も……楽しいから。
……ヴィルくんと一緒に歌いたかったな。
たった一人の演奏会が終わったとき、オレのスマホが震えた。ポケットから自己主張するそれを出して画面を見ると、ヴィルくんからの電話だった。
ギター弾いてちょっとスッキリしたとはいえ、何を話せば良いのかわかんないな。気まずいし。でも出ないっていうのは、今後、より気まずくなるよな。
しぶしぶ通話ボタンをタップしてスマホを耳に近付けた。
「ヴィルくん、おつおつ〜」
「アンタ……情熱を向ける相手が違うのよ」
「……え?どういうこと?」
「アタシのこと見過ぎ。VDCは観客に向けてのパフォーマンスだってわかってる?」
あ……。そっかぁ。
うわ、恥ずかしー。
オレ、ヴィルくんに対してパッション向けてたんだ。
そりゃ、目の前に好きな人が居れば仕方無くない?って、きっとヴィルくんはそんな状況だって仕事に徹するんだよね。
「ごめん……。ヴィルくんのこと好き過ぎた」
「直球ね。アタシも好きだけれど、ちゃんとパフォーマンスはしてもらわないとね」
「完全に理解した。オレは代表に選ばれないってわかってるからさ、本気の舞台じゃなくて良いから一緒に歌う機会くれない?」
「良いけど……何するつもり?」
オレは立ち上がって二つ折りにしたピックを拾い上げた。
一緒に歌いたかった。好きな人と自分の好きなことをしてみたかった。だからVDCのオーディションに応募したんだ。でもそれはわざわざ大きな舞台の上でじゃなくても良いんだよね。
オレはにっと笑って質問に返す。
「とりあえず、一緒にカラオケ行こ!」
大きな舞台はオレには必要ないから、一緒に歌いたいっていうだけの願いを、どうか叶えてほしい。
音楽って楽しくなけりゃ駄目だよね?自分が楽しくなかったら、皆を笑顔に出来ないしさ。そう思ってはいたんだけど。
VDC代表選抜オーディション。オレはヴィルくんに「パッションがない」って言われた。
はぁー!?情熱!?
何を求めてるわけ!?
そんなこと言うならさ、最初っから楽譜に『コン・パッシオーネ(情熱的に)』って書いておいてくれない?
昔同級生と合唱の発表をしたときに、オレは「ダイヤモンドの歌い方って楽譜通りだよな」って皮肉を言われたことがある。良くも悪くもない。取り立てて秀でた所のない歌声は誰の印象にも残らなかった。グループの賞も取れなかったし、先生に褒められもしなかった。
それが悪いとは思わなかったけど、つまらなくはあって、だから個性を磨こうと思ってバンドを始めた。
そんな思いで入部した軽音部は個性的なメンバーの集まりだった。現在の部員であるカリムくんは、リズムを刻ませたらその世界に入り込む天才だ。普段の愛らしくって陽気な振る舞いからは想像できないくらいに、真剣な面持ちでドラムを叩く。ダンスをやってるからか、足技が凄くて、二個のバスドラムを自由自在に鳴らすし、ハイハットのオープン・クローズもお手の物。打ち合わせ無しでその場で叩くアレンジもかっこいい。
リリアちゃんは何年ベースやってんだろうってくらいテクニック持ってる。四弦から六弦まで弾きこなすし、スラップもピック奏法も完璧だと思う。特にハンマリングが凄くて、レガートを聴いた後輩が、髪を振り乱して弾くリリアちゃんに惚れそうになった、って言うのを聞いた。
二人とも個性的な二人だけの演奏が出来てる。オレだけが普通で、大衆的で、平凡、地味。
オーディションに関しては練習を頑張ってた分、ヴィルくんに注意されたことは結構ヘコんだ。ツライ。っていうか、酷くない!?
仮にも、いや仮とかないけど、オレ恋人だよ?もうちょっとオブラートに包む物言いしてくれても良いじゃん。
その場だけ褒めるとかさ。
でもヴィルくんはそういう人じゃない。自分にも他人にも厳しくて、『切磋琢磨』を自らの寮でテーマにしてるような人だ。自己研鑚で彼の右に出る者は居ない。
だからオレに対しても向上心を失わせないように本音でぶつかる。わかってる。そういうところが大好きだから。
でも!それとこれとは別問題!むしゃくしゃするものはするの!
オレは軽音部の部室に走った。ドアを開けて椅子に腰掛けるとギターを掴む。ストラップを肩に掛けて、ポケットからピックを取り出すと、ヴィルくんをイメージして買った青紫色のピックを真っ二つに折り曲げてぽいっと床に放った。
そして弦を指で弾く。所謂スラップでギターをかき鳴らす。一人きりの部室に響く、低いギターの音。ギターアンプを挟んでスピーカーから飛び出す音は隣室の部活動の生徒に怒られない最大音量に設定してある。
反響するギターの音はオレのどうしようもない気持ちを消していく。
やっぱり音楽が好きだな。だってギター弾いてる今も……楽しいから。
……ヴィルくんと一緒に歌いたかったな。
たった一人の演奏会が終わったとき、オレのスマホが震えた。ポケットから自己主張するそれを出して画面を見ると、ヴィルくんからの電話だった。
ギター弾いてちょっとスッキリしたとはいえ、何を話せば良いのかわかんないな。気まずいし。でも出ないっていうのは、今後、より気まずくなるよな。
しぶしぶ通話ボタンをタップしてスマホを耳に近付けた。
「ヴィルくん、おつおつ〜」
「アンタ……情熱を向ける相手が違うのよ」
「……え?どういうこと?」
「アタシのこと見過ぎ。VDCは観客に向けてのパフォーマンスだってわかってる?」
あ……。そっかぁ。
うわ、恥ずかしー。
オレ、ヴィルくんに対してパッション向けてたんだ。
そりゃ、目の前に好きな人が居れば仕方無くない?って、きっとヴィルくんはそんな状況だって仕事に徹するんだよね。
「ごめん……。ヴィルくんのこと好き過ぎた」
「直球ね。アタシも好きだけれど、ちゃんとパフォーマンスはしてもらわないとね」
「完全に理解した。オレは代表に選ばれないってわかってるからさ、本気の舞台じゃなくて良いから一緒に歌う機会くれない?」
「良いけど……何するつもり?」
オレは立ち上がって二つ折りにしたピックを拾い上げた。
一緒に歌いたかった。好きな人と自分の好きなことをしてみたかった。だからVDCのオーディションに応募したんだ。でもそれはわざわざ大きな舞台の上でじゃなくても良いんだよね。
オレはにっと笑って質問に返す。
「とりあえず、一緒にカラオケ行こ!」
大きな舞台はオレには必要ないから、一緒に歌いたいっていうだけの願いを、どうか叶えてほしい。