ヴィルケイss
バレンタインデーには好きな人とかお世話になってる人にプレゼントを贈るよね。花とか小物とかお菓子とか、相手が喜びそうなものをチョイスする。ちょっとしたもので良いから悩まずにサクッと決めたいところだけど、オレは今悩みに悩んでいる。
ヴィルくんへのプレゼントが決まらない。
付き合ってる相手とか単なる友達ならこれでいいよね?って気軽に考えられたかもしれない。でも片思いの相手に変なものは渡せないし、かといって高価なものも気持ちが重たいから駄目。そもそも付き合ってもいないのに渡すのも変なのかもしれないなって考えると、もう何も出来なくなっちゃうんだよね。そうやって過去二年間学園生活を送ってきて、このまま告白もせずに思い出としてこの恋心を仕舞い込む……つもりではいた。でも何もせずに卒業するのは少し寂しく感じたし、オレの周りの人達が告白しないのは男が廃るって呆れた顔をしたんだ。
オレだって弱腰はカッコ悪いとは思う。でも望み薄だし、負け戦に堂々としてる人の方が珍しいよね。だから単に告白だけじゃなくて日頃仲良くして貰ってるお礼を兼ねてプレゼントをしつつ思いを伝えようとしてるんだ。
でもプレゼントが思い付かない。トレイくんにだったら製菓用の器具、エースちゃんならマジックに使うカードとか小物かな?デュースちゃんにはマジホイ用の手袋で、リドルくんは気品漂う紅茶のセットか文具だよね。
他の人へのプレゼントはすらすら出てくるし、あれが良いかなこれが良いかなってイメージもしやすい。でもヴィルくんだけにはどれを思い浮かべても脳内のヴィルくんが真顔の無反応なんだ。
きっとそれはオレがヴィルくんに嬉しそうに微笑まれたことがないから。笑ってるのを見たことはあるけど、オレがなにかをして嬉しそうにされたことはないわけで。だからいつまで経っても決まらない。
オレは今赤く塗っている最中の薔薇をじっと見る。花は……どうかなぁ。
重いかなぁ?でもいつまでも残り続けるわけじゃないし、フラれても萎れるまではオレの想いを覚えていてくれるよね。
一輪の薔薇に手を添えると、背後に音もなく近付いていたリドルくんに声を掛けられた。
「どうしたんだい?」
「うわぁ!?」
急に話し掛けられて肩をびくっとさせながら振り向くと、リドルくんの方が喫驚した顔をしていた。
「なんだい大きな声を出して」
「ごめん。気付かなくてさ。話し掛けられると思わなかったから」
「それは済まないね。ところで、元気がないようだけれど、どうかしたのかい?」
リドルくんは寮服のマントを直しながらオレを窺う。上目遣いでじっと見る表情はとても可愛い。なんて言ったら怒られそうだけど、凄く羨ましい気がした。
リドルくんくらい容姿が整ってればヴィルくんの目に留まったかもって。ヴィルくんって可愛い子が好きだもん。エペルちゃんの側にべったりくっついてるしさ。そもそも小さくて可愛いものに厳しい視線を向ける人って少ないよね。だからオレもそんな見た目だったら良かったなって心底思う。
「リドルくんはいいなぁ……小さくて」
「喧嘩を売ってるのかい?」
「そうじゃなくてさ……」
「ボクはキミの見た目の方が好きだけどな」
そう言うとリドルくんはオレの髪に手を伸ばして毛先をくるくると弄んだ。
「明るい髪色も素敵だし、くせ毛も可愛らしいよね」
「……オレの姿に誰かを重ねてるでしょ」
「わかってしまったね」
リドルくんはイタズラっぽく笑ってからオレの髪から手を離した。そして何処か遠くを見るように視線をずらすと思い切り眉を顰める。
「どうやらキミに触れたことがバレたらしい。ボクはこれで失礼するよ。恐ろしい人が来る前に」
「え?誰が来るのさ?」
「ケイトを独占したい人だよ。それじゃあね。そうだ、薔薇を持っていってもらうと良いよ。そうだね……茎から手折って一本だけにしよう、いいね?」
「一本?わかった」
薔薇の本数の意味を頑張って思い出そうとしても出てこないから聞こうと思えば、リドルくんはそそくさと寮舎に戻ってしまう。
結局オレはヴィルくんへのプレゼントもまだ考え中。もうすぐ日が暮れる。まだ用意してない時点で終わってるのかもな。
そんなことに思考を侵されてると遠くから誰かの衣擦れが聞こえた。芝を踏む足音よりも音が響くのは布の面積の大きい服を着ているから。
風を受けて靡く青紫の寮服。傾き始めた日が林檎の花の模様の金糸に反射してやけに眩しく感じた。息を切らしてやってきた彼はシャンパンゴールドの前髪を掻き上げて、あらわになった紫の瞳でオレを捉える。
「え…オレを独占したい人って……」
驚き過ぎて力を込めたオレの手から赤い薔薇の花弁が散って風に乗り、彼が手にしていたピンクの薔薇に寄り添った。
ヴィルくんへのプレゼントが決まらない。
付き合ってる相手とか単なる友達ならこれでいいよね?って気軽に考えられたかもしれない。でも片思いの相手に変なものは渡せないし、かといって高価なものも気持ちが重たいから駄目。そもそも付き合ってもいないのに渡すのも変なのかもしれないなって考えると、もう何も出来なくなっちゃうんだよね。そうやって過去二年間学園生活を送ってきて、このまま告白もせずに思い出としてこの恋心を仕舞い込む……つもりではいた。でも何もせずに卒業するのは少し寂しく感じたし、オレの周りの人達が告白しないのは男が廃るって呆れた顔をしたんだ。
オレだって弱腰はカッコ悪いとは思う。でも望み薄だし、負け戦に堂々としてる人の方が珍しいよね。だから単に告白だけじゃなくて日頃仲良くして貰ってるお礼を兼ねてプレゼントをしつつ思いを伝えようとしてるんだ。
でもプレゼントが思い付かない。トレイくんにだったら製菓用の器具、エースちゃんならマジックに使うカードとか小物かな?デュースちゃんにはマジホイ用の手袋で、リドルくんは気品漂う紅茶のセットか文具だよね。
他の人へのプレゼントはすらすら出てくるし、あれが良いかなこれが良いかなってイメージもしやすい。でもヴィルくんだけにはどれを思い浮かべても脳内のヴィルくんが真顔の無反応なんだ。
きっとそれはオレがヴィルくんに嬉しそうに微笑まれたことがないから。笑ってるのを見たことはあるけど、オレがなにかをして嬉しそうにされたことはないわけで。だからいつまで経っても決まらない。
オレは今赤く塗っている最中の薔薇をじっと見る。花は……どうかなぁ。
重いかなぁ?でもいつまでも残り続けるわけじゃないし、フラれても萎れるまではオレの想いを覚えていてくれるよね。
一輪の薔薇に手を添えると、背後に音もなく近付いていたリドルくんに声を掛けられた。
「どうしたんだい?」
「うわぁ!?」
急に話し掛けられて肩をびくっとさせながら振り向くと、リドルくんの方が喫驚した顔をしていた。
「なんだい大きな声を出して」
「ごめん。気付かなくてさ。話し掛けられると思わなかったから」
「それは済まないね。ところで、元気がないようだけれど、どうかしたのかい?」
リドルくんは寮服のマントを直しながらオレを窺う。上目遣いでじっと見る表情はとても可愛い。なんて言ったら怒られそうだけど、凄く羨ましい気がした。
リドルくんくらい容姿が整ってればヴィルくんの目に留まったかもって。ヴィルくんって可愛い子が好きだもん。エペルちゃんの側にべったりくっついてるしさ。そもそも小さくて可愛いものに厳しい視線を向ける人って少ないよね。だからオレもそんな見た目だったら良かったなって心底思う。
「リドルくんはいいなぁ……小さくて」
「喧嘩を売ってるのかい?」
「そうじゃなくてさ……」
「ボクはキミの見た目の方が好きだけどな」
そう言うとリドルくんはオレの髪に手を伸ばして毛先をくるくると弄んだ。
「明るい髪色も素敵だし、くせ毛も可愛らしいよね」
「……オレの姿に誰かを重ねてるでしょ」
「わかってしまったね」
リドルくんはイタズラっぽく笑ってからオレの髪から手を離した。そして何処か遠くを見るように視線をずらすと思い切り眉を顰める。
「どうやらキミに触れたことがバレたらしい。ボクはこれで失礼するよ。恐ろしい人が来る前に」
「え?誰が来るのさ?」
「ケイトを独占したい人だよ。それじゃあね。そうだ、薔薇を持っていってもらうと良いよ。そうだね……茎から手折って一本だけにしよう、いいね?」
「一本?わかった」
薔薇の本数の意味を頑張って思い出そうとしても出てこないから聞こうと思えば、リドルくんはそそくさと寮舎に戻ってしまう。
結局オレはヴィルくんへのプレゼントもまだ考え中。もうすぐ日が暮れる。まだ用意してない時点で終わってるのかもな。
そんなことに思考を侵されてると遠くから誰かの衣擦れが聞こえた。芝を踏む足音よりも音が響くのは布の面積の大きい服を着ているから。
風を受けて靡く青紫の寮服。傾き始めた日が林檎の花の模様の金糸に反射してやけに眩しく感じた。息を切らしてやってきた彼はシャンパンゴールドの前髪を掻き上げて、あらわになった紫の瞳でオレを捉える。
「え…オレを独占したい人って……」
驚き過ぎて力を込めたオレの手から赤い薔薇の花弁が散って風に乗り、彼が手にしていたピンクの薔薇に寄り添った。