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ヴィルケイss

タッグを組んで魔法をぶっぱなす。この学園では当たり前のことなんだけど、その相手は無作為に選ばれる。チーム戦で戦うことによって、相手にないものを補い自身を成長させる為だっていうけど、これってほんとに無作為なの?
だってさ、オレはまだ一度もヴィルくんとチームを組んでない。戦闘でヴィルくんに名前を呼ばれてない。
デュオ魔法っていうのを完成させてヴィルくんと楽しく授業受けたいのに……なんでなの。

いつも遠くからレオナくんとヴィルくんが名前呼び合って模擬戦してるのを見てて切なくなってくる。
オレだってヴィルくんの名前を呼んで魔法を使ってみたい。背中を預けて、ヴィルくんの背中を守って戦闘したい。
でもオレにはそのチャンスが巡ってこなくていつも悲しい気持ちになるんだ。

「いいね、トレイくんは。ヴィルくんとデュオ魔法やったことあるもんね」
「そんなに拗ねるなよ。いつかあるだろう?」
「絶対無いとは言えないけど、早くチャンスが来ないとこのまま卒業しそうだよ」

溜息混じりにヴィルくんの方を見ると、何かがこっちに飛来しているところだった。オレとトレイくんの間を勢いよく通り抜けて、もたれた木に刺さったのはヴィルくんのバレッタだった。
「……っ危ないな!」
「びっくりしたぁ……」
ぱちくりとさせた目をトレイくんと合わせて、そのままヴィルくんへ視線をやると彼は大きく口を歪めていた。
「近過ぎるわよ」
今日は箒を使って空中での戦闘訓練だったので、箒に跨って空中をふよふよと飛んでるのに、的確なコントロールに脱帽。ヴィルくんは何食わぬ顔でレオナくんとの練習に戻っていく。

「彼氏に釘を差されたな?」
「ヴィルくんって心狭いね」
「それだけお前に本気なんだろ。良かったな」
木の幹からバレッタを抜き取ったトレイくんはそれをオレの手のひらの上に乗せる。重いわけでもない薄いバレッタが木に刺さるなんて普通じゃない。おそらく魔法で威力を上げてるんだけど、オレかトレイくんに当たったらどうするんだろ。
多分そんなヘマはしないって言うんだけど、ヴィルくんってほんとに心が狭……独占欲が強いんだから。
「嬉しそうな顔してるなよ」
「えっ、そんな顔してた!?」
まぁ好かれてるって分かるのは嬉しいもんね。
そんなやり取りをしてると授業が終わって散り散りに生徒たちが運動場から校舎へ戻っていく。ヴィルくんも地上に降りようとしていた。そんな彼に向かって、オレは声を掛ける。

「ヴィルくん!オレについてきて」
オレは箒で飛び立つのと同時にレオナくんに向かってファイアショットを放つ。
「おいおい……マジか」
レオナくんが苦笑しながらマジカルペンを構えた。
「トレイ!サポートしろ!」
「やれやれ……」

ヴィルくんの前に飛び出た時に攻撃はレオナくんに届いたが、彼はそれを軽くいなして代わりに風の魔法がオレを包む。
片目を瞑って再びマジカルペンを前に突き出すと、オレの手を後ろから掴んでヴィルくんが囁いた。
「アタシの前に出ないで、ケイト。ちゃんと守ってあげるから」
ヴィルくんの握ったペンから大きな旋風が起こり、それはレオナくんと飛んできたトレイくんを巻き込む。
「ちっ、クソッ」
舌打ちと同時に上昇して避けようとする彼を追尾する風は大きく吹き荒れてレオナくんを地面に叩きつける。というよりふわりと降ろした。
「今日はアタシの勝ちね」
鼻で笑ったヴィルくんのしたり顔を見上げたレオナくんは心底嫌そうな表情で顔を背けて、何も言わずに歩き出した。その足は校舎に向かっている。
「ヴィルはケイトが居る時の方が強いってことかな」
トレイくんもまた地面に降りて箒を片手に手を振って離れていく。

「急にどうしたのよ」
「オレもヴィルくんに名前呼ばれて、デュオ魔法やりたいって思ったんだ……」
「そう、どうだった?」
「守られてるのは嫌だからやり直し!」
「じゃあ、またやらないとね」

ヴィルくんは頰を緩めて地面に降りる。未だ箒で空を飛ぶオレに手を差し伸べて招いた。やっぱり守られるのに満足はしてないけど、ヴィルくんと一緒に戦うのが一番楽しいって思ったよ。
早く正式にデュオ魔法の模擬戦がしたいな!
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