まほやく短編
Name Cange
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ある日の午後、わたしはネロに頼まれて中央の国のお店に買い出しに来ていた。
一通り頼まれていた食材を買い終えた頃、ふと小さな子供が一人で歩いているのが見えた。
その横顔は今にも泣きそうな不安げな表情で、気になったわたしは姿が見えなくなる前に追っていた。
人混みを抜けた先、繁華街から少し離れたところへ出たが、子供の姿は見当たらない。
『あれ…』
「よ、姉ちゃん。もしかして、こいつを探してたのかな?」
『あ!』
「コイツは俺のガキだ。見事に引っ掛かってくれてありがとよ。久々の上玉だ」
下品な笑みを浮かべた男の足に、先程の子供がしがみついたまま、こちらにベロを出した。
どうやら親子でグルだったらしい。
そして、ここら一体の雰囲気を見る限り、怪しい感じの商売をやっている可能性が高い。
どうしようか、無闇に抵抗するのは危険だし、隙が出来るまで大人しく従っていた方がいいだろう。
「付いて来い」
『いった…』
大柄の男に力いっぱい手首を掴まれる。
これじゃ隙が出来ても逃げられない。
焦っていると、急に後ろから誰かに首根っこを掴まれた。
『ぐぇっ…』
「カエルみたいな鳴き声ですね」
「だ、誰だてめぇ!この女の知り合いか?」
警戒する男の目線の先を見ると、ミスラさんが欠伸をしながら立っていた。
男に知り合いかと問われ、ミスラさんはじっとわたしを見つめる。
特に返す素振りも見せないから、わたしに答えを委ねているのだろうか。
それともどう答えようか迷っているのだろうか。
まあ確かに、わたしとミスラさんは恋人でも友達でもないし、かといってただの顔見知りというわけでもない。
この関係に名前を付けようとすると、案外難しいものだ。
何も答えないミスラさんに、だんだんと男が苛立ってきているのが分かった。このままではまずい。
何か言わなければ。
『この人はわたしの兄です!』
「「は?」」
突拍子のないわたしの発言に、ミスラさんと男の声が重なった。
『兄は北の国で一番強い魔法使いなんですよ!ね?』
『はい、そうです。ここら一帯を一瞬で消し炭に変えることも出来ますけど、やりましょうか?』
一番強い、という言葉に気を良くしたミスラさんは、ノリノリで魔道具の髑髏を出した。
「ひぃっ、ま、魔法使いだ!!」
魔法使いと分かった途端、男は子供を連れて勢いよく逃げ出した。
「追いかけます?」
『いえ!これ以上大きな騒ぎになれば後々面倒ですし、わたしたちも帰りましょう?』
「分かりました」
そして、わたしたちは怪しげな通りを抜けて、賑やかな街に戻ってきた。
『それにしても、どうしてあんな場所にいたんですか?』
「別に、どうでもいいでしょう」
『あ…もしかして、ああいうお店に用があったんですか?』
「はあ?違いますけど」
『ごめんなさい、わたしミスラさんの楽しみを邪魔しちゃいましたよね…』
「話通じないんです?」
『でもミスラさんがいてくれて良かった』
「…まあ、悪くなかったですよ」
『え?』
「一番強い魔法使いだって言われるの、気分良かったので。“兄”は不本意ですけど」
そう言いながらほんの少し笑ったミスラさんの横顔があまりにも綺麗で思わず見惚れてしまった。
『ふふ、ミスラさんもそんな風に笑うんですね』
「俺を何だと思ってるんです?」
『うーん、言葉の通じる野生動物?』
「あなたは言葉の通じないただの動物ですけどね」
『な、何でですか?言葉通じてるでしょうよ』
「あはは」
おわり
一通り頼まれていた食材を買い終えた頃、ふと小さな子供が一人で歩いているのが見えた。
その横顔は今にも泣きそうな不安げな表情で、気になったわたしは姿が見えなくなる前に追っていた。
人混みを抜けた先、繁華街から少し離れたところへ出たが、子供の姿は見当たらない。
『あれ…』
「よ、姉ちゃん。もしかして、こいつを探してたのかな?」
『あ!』
「コイツは俺のガキだ。見事に引っ掛かってくれてありがとよ。久々の上玉だ」
下品な笑みを浮かべた男の足に、先程の子供がしがみついたまま、こちらにベロを出した。
どうやら親子でグルだったらしい。
そして、ここら一体の雰囲気を見る限り、怪しい感じの商売をやっている可能性が高い。
どうしようか、無闇に抵抗するのは危険だし、隙が出来るまで大人しく従っていた方がいいだろう。
「付いて来い」
『いった…』
大柄の男に力いっぱい手首を掴まれる。
これじゃ隙が出来ても逃げられない。
焦っていると、急に後ろから誰かに首根っこを掴まれた。
『ぐぇっ…』
「カエルみたいな鳴き声ですね」
「だ、誰だてめぇ!この女の知り合いか?」
警戒する男の目線の先を見ると、ミスラさんが欠伸をしながら立っていた。
男に知り合いかと問われ、ミスラさんはじっとわたしを見つめる。
特に返す素振りも見せないから、わたしに答えを委ねているのだろうか。
それともどう答えようか迷っているのだろうか。
まあ確かに、わたしとミスラさんは恋人でも友達でもないし、かといってただの顔見知りというわけでもない。
この関係に名前を付けようとすると、案外難しいものだ。
何も答えないミスラさんに、だんだんと男が苛立ってきているのが分かった。このままではまずい。
何か言わなければ。
『この人はわたしの兄です!』
「「は?」」
突拍子のないわたしの発言に、ミスラさんと男の声が重なった。
『兄は北の国で一番強い魔法使いなんですよ!ね?』
『はい、そうです。ここら一帯を一瞬で消し炭に変えることも出来ますけど、やりましょうか?』
一番強い、という言葉に気を良くしたミスラさんは、ノリノリで魔道具の髑髏を出した。
「ひぃっ、ま、魔法使いだ!!」
魔法使いと分かった途端、男は子供を連れて勢いよく逃げ出した。
「追いかけます?」
『いえ!これ以上大きな騒ぎになれば後々面倒ですし、わたしたちも帰りましょう?』
「分かりました」
そして、わたしたちは怪しげな通りを抜けて、賑やかな街に戻ってきた。
『それにしても、どうしてあんな場所にいたんですか?』
「別に、どうでもいいでしょう」
『あ…もしかして、ああいうお店に用があったんですか?』
「はあ?違いますけど」
『ごめんなさい、わたしミスラさんの楽しみを邪魔しちゃいましたよね…』
「話通じないんです?」
『でもミスラさんがいてくれて良かった』
「…まあ、悪くなかったですよ」
『え?』
「一番強い魔法使いだって言われるの、気分良かったので。“兄”は不本意ですけど」
そう言いながらほんの少し笑ったミスラさんの横顔があまりにも綺麗で思わず見惚れてしまった。
『ふふ、ミスラさんもそんな風に笑うんですね』
「俺を何だと思ってるんです?」
『うーん、言葉の通じる野生動物?』
「あなたは言葉の通じないただの動物ですけどね」
『な、何でですか?言葉通じてるでしょうよ』
「あはは」
おわり