週刊少年リビドー
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これは漫画に限らず、あらゆる娯楽作品に通じることだが、物語には紆余曲折がつきものだ。変化のないストーリーは退屈で、見ている人の興を削いでしまう。
たとえば、サスペンスなら主人公の身近な人が殺されるのは定番だし……ラブロマンスなら、恋のライバルが突如として二人の前に立ちはだかったりする。その方が盛り上がるし面白いからだ。
でも、現実に起こることは誰にも計算されていない。
思い返してみれば、わたしたちが付き合うまでの過程で、漫画のように劇的な出来事は起こっていなかった。
気づいた時には、彼はわたしの日常を占める存在になっていた。
仗助くんと初めて喋った日のことを思い出す。あの日の自分を一言で表すなら、まさに「不審者」という単語がぴったり当てはまるだろう。
人目をはばからず通学路で膝をつきながら、草むらをかき分け、側溝を覗き込み、わたしはひたすら「あるもの」を探し続けていた。
「おい、なんか落とし物したのか? 家の鍵とか、財布とかよ……」
さすがに目立っていたのか、背後から誰かに声をかけられる。振り向いた瞬間、思いもよらない人物が目に飛び込んできて、ぎょっとした。
「ひ、東方くん!?」
「あ! おめーは確か同じクラスの——」
東方仗助くん。
クラスメイトだから当然なのかもしれないが、彼が一言も喋ったことのない自分の名前を覚えてくれていたのは意外だった。そして今、声をかけてくれたことも。
慌てて立ち上がり、スカートについていた砂を払う。知っている人に目撃されたと思うと、急に恥ずかしくなってきた。
「ま……まあ、その、大したことじゃないから、気にしなくていいよ」
「へえ……、それならいいんだが」
そう言いつつも、仗助くんは腑に落ちないという表情でこちらを眺めている。
入学してから日が経つが、彼の顔をこんなに間近で見たのは初めてだった。彫りの深い整った顔立ちと、不良漫画から飛び出してきたような髪型。その風貌には普通の人とは違う独特のオーラがあって、近くで見ると、より圧倒されてしまう。
居たたまれない気持ちで黙っていると、彼は少し屈んで、わたしの脚を指さした。
「やっぱり、膝から血が出てるぜ」
「えっ?」
「そこまでするってことはよー、何か大事なものを探してるってことだろ」
唖然として自分の足元を見下ろす。知らないうちにアスファルトで擦りむいていたらしい。彼の言う通り、いつのまにか膝には擦り傷ができていて、うっすらと赤い血が滲んでいた。
それでも、仗助くんにとって「大したことない」話なのは事実だ。わたしにとっては重大な問題でも、他人が聞けば笑い飛ばすような、些末な問題にすぎない。ちょっと迷ってから、わたしは恐る恐る口を開いた。
「……笑わないでほしいんだけど……鞄につけてたぬいぐるみのキーホルダーを、どこかに落っことしちゃって……」
唇を動かしながら、鞄に視線を落とす。
好きな作品に出てくるマスコットキャラクターのぬいぐるみだった。学校にいる間は鞄に付いていた記憶があるから、おそらく帰宅途中に落としたのだろう。帰り道を引き返して三十分以上探し続けているが、まだ見つかっていない。
馬鹿らしいと思われるのを承知の上で告白したのだが、仗助くんは笑わなかった。
「そいつの大きさは? どんな見た目だ?」
「え? 手のひらサイズで、見た目は……」
まさか、手伝ってくれるつもりなのだろうか——仲良くもないクラスメイトのぬいぐるみ探しを。
わたしは内心信じられない気持ちだった。仗助くんの言動は、これまで、彼の見た目からわたしが勝手に想像していた人物像とは大きくかけ離れていた。
「気持ちはありがたいんだけど、わたし一人で大丈夫だよ。手伝わせるの申し訳ないし……」
「あのなあ〜、悠長にやってて日が暮れたらどーすんだよ? 手分けして二人で探した方がぜってー効率的だぜ」
「う……それは一理あるかも」
ここまで言われてなお食い下がるのは、彼に対して失礼だろう。今のわたしにできるのは、仗助くんの厚意をありがたく受け入れることだけだった。
そういうわけで、二人での「ぬいぐるみ探し」が始まった。同年代の男の子と通学路を歩き回るのは落ち着かなくて、どこか気恥ずかしい思いさえあった。
でも同時に、それと同じくらい心強さを感じていた。
たとえば、サスペンスなら主人公の身近な人が殺されるのは定番だし……ラブロマンスなら、恋のライバルが突如として二人の前に立ちはだかったりする。その方が盛り上がるし面白いからだ。
でも、現実に起こることは誰にも計算されていない。
思い返してみれば、わたしたちが付き合うまでの過程で、漫画のように劇的な出来事は起こっていなかった。
気づいた時には、彼はわたしの日常を占める存在になっていた。
仗助くんと初めて喋った日のことを思い出す。あの日の自分を一言で表すなら、まさに「不審者」という単語がぴったり当てはまるだろう。
人目をはばからず通学路で膝をつきながら、草むらをかき分け、側溝を覗き込み、わたしはひたすら「あるもの」を探し続けていた。
「おい、なんか落とし物したのか? 家の鍵とか、財布とかよ……」
さすがに目立っていたのか、背後から誰かに声をかけられる。振り向いた瞬間、思いもよらない人物が目に飛び込んできて、ぎょっとした。
「ひ、東方くん!?」
「あ! おめーは確か同じクラスの——」
東方仗助くん。
クラスメイトだから当然なのかもしれないが、彼が一言も喋ったことのない自分の名前を覚えてくれていたのは意外だった。そして今、声をかけてくれたことも。
慌てて立ち上がり、スカートについていた砂を払う。知っている人に目撃されたと思うと、急に恥ずかしくなってきた。
「ま……まあ、その、大したことじゃないから、気にしなくていいよ」
「へえ……、それならいいんだが」
そう言いつつも、仗助くんは腑に落ちないという表情でこちらを眺めている。
入学してから日が経つが、彼の顔をこんなに間近で見たのは初めてだった。彫りの深い整った顔立ちと、不良漫画から飛び出してきたような髪型。その風貌には普通の人とは違う独特のオーラがあって、近くで見ると、より圧倒されてしまう。
居たたまれない気持ちで黙っていると、彼は少し屈んで、わたしの脚を指さした。
「やっぱり、膝から血が出てるぜ」
「えっ?」
「そこまでするってことはよー、何か大事なものを探してるってことだろ」
唖然として自分の足元を見下ろす。知らないうちにアスファルトで擦りむいていたらしい。彼の言う通り、いつのまにか膝には擦り傷ができていて、うっすらと赤い血が滲んでいた。
それでも、仗助くんにとって「大したことない」話なのは事実だ。わたしにとっては重大な問題でも、他人が聞けば笑い飛ばすような、些末な問題にすぎない。ちょっと迷ってから、わたしは恐る恐る口を開いた。
「……笑わないでほしいんだけど……鞄につけてたぬいぐるみのキーホルダーを、どこかに落っことしちゃって……」
唇を動かしながら、鞄に視線を落とす。
好きな作品に出てくるマスコットキャラクターのぬいぐるみだった。学校にいる間は鞄に付いていた記憶があるから、おそらく帰宅途中に落としたのだろう。帰り道を引き返して三十分以上探し続けているが、まだ見つかっていない。
馬鹿らしいと思われるのを承知の上で告白したのだが、仗助くんは笑わなかった。
「そいつの大きさは? どんな見た目だ?」
「え? 手のひらサイズで、見た目は……」
まさか、手伝ってくれるつもりなのだろうか——仲良くもないクラスメイトのぬいぐるみ探しを。
わたしは内心信じられない気持ちだった。仗助くんの言動は、これまで、彼の見た目からわたしが勝手に想像していた人物像とは大きくかけ離れていた。
「気持ちはありがたいんだけど、わたし一人で大丈夫だよ。手伝わせるの申し訳ないし……」
「あのなあ〜、悠長にやってて日が暮れたらどーすんだよ? 手分けして二人で探した方がぜってー効率的だぜ」
「う……それは一理あるかも」
ここまで言われてなお食い下がるのは、彼に対して失礼だろう。今のわたしにできるのは、仗助くんの厚意をありがたく受け入れることだけだった。
そういうわけで、二人での「ぬいぐるみ探し」が始まった。同年代の男の子と通学路を歩き回るのは落ち着かなくて、どこか気恥ずかしい思いさえあった。
でも同時に、それと同じくらい心強さを感じていた。