週刊少年リビドー
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厳しい残暑が過ぎ去り、ようやく過ごしやすい季節になってきた。登下校の際見かける街路樹の葉も、徐々に色を変えつつある。
いつもと同じ帰り道。唯一違うのは、隣にいる人の存在だ。
学校を出てからというものの、仗助くんはソワソワした様子で、さっきから何度も髪型を整えている。彼の気持ちはよくわかる。もしも逆の立場だったら、わたしは今ごろガチガチに固まっていただろう。
彼の緊張をほぐそうと、わたしは完全な善意でその言葉を口にした。
「あんまりかしこまらなくて大丈夫だよ。親には『友達が漫画を読みにくる』って言ってあるから」
「……『友達』?」
あ、と思った時にはもう遅かった。ひやりとした冷たい風がわたしたちの間を通り抜ける。
仗助くんは唇を尖らせて、恨みがましい視線をわたしに向けた。最初は怒っているのかと思ったが、彼の表情を見ると、どうも違うようだ。細められた目の奥にはさまざまな感情が渦巻いていて、どれかひとつに特定することはできない。
「ま、気持ちはよおーくわかるぜ……おれはこんなナリしてるからな。大切に育てた娘が、明らか不良のカッコしてるヤツをいきなり『彼氏です』って連れてきたらよおー、親御さんもビックリするだろーぜ」
「ご、ごめん……そういうつもりで言ったわけじゃないんだ。ただ……」
これに関しては別の理由がある。もっと幼稚で、取るに足りない理由だ。
——仗助くんに言ったことはあっただろうか。なかったかもしれない。わざわざ自分から言う必要もないし、今までそういう話題になったこともなかったから。
葛藤の末、どうにか絞り出した声は、自分でも情けなくなるほど弱々しかった。
「……初めての彼氏だから」
「……」
「親に報告するの、結構、勇気がいるっていうか……仗助くんはモテるからこういうの慣れてるかもしれないけど」
最後のくだりは必要なかったな、と言い終わってから後悔した。なんだか、言い訳をすればするほど墓穴を掘っているような気がする。
太陽の日差しを遮るふりをして、彼の視線から逃れるように、額の前に手をかざす。
その手を掴まれた。
「おれもだよ」
存在を確かめるように、優しく握られる。触れられたところから、全身に熱が伝わっていくような感覚をおぼえた。
喉がカラカラになって、のぼせてしまいそうなほど暑い。まるで、わたしたちの周りだけが夏に戻ったみたいだ。
彼は腰を屈めてわたしの顔を覗き込んだ。背後の景色が目に入り、思わず息を呑む。
「仗助くん……」
「……ナマエ、」
「あの、後ろにあるのがわたしの家なんだけど」
玄関に入るなり、仗助くんはどこに出しても恥ずかしくない直角九十度のお辞儀を見せた。
「お邪魔しますッ! おれ、ナマエさんの『友達』の東方仗助といいます。これ……つまらないものなんスけど、よければ皆さんでどうぞ」
「あ、ありがとう……」
母親が面食らいながら、百貨店で包んでもらったお菓子らしき箱を受け取る。それから、何か言いたげな表情でわたしの方を見た。彼がただの「漫画を読みにきた友達」ではないことに、彼女はすぐ勘づいたようだ。
ここで問い詰められたら堪ったものではない。わたしは仗助くんの背中を押し、急いで自分の部屋に連れて行った。
昨日帰ってきた後に大掃除をしたから、一応「見られる」部屋にはなっているはずだ。
そうはいっても、やっぱり自室に人を招き入れるのは緊張する。——それがまだ付き合い始めたばかりの彼氏だとしたら、なおさら。
「……えっと、飲み物取ってくるね。適当なところに座ってていいよ」
「て、適当なトコっつってもなあ〜」
仗助くんは落ち着きなくきょろきょろしていたが、結局、ラグマットの上に腰を下ろした。大きな体をぎゅっと縮こめて、借りてきた猫のようになっているのが可愛い。
緩んだ口元を見られないようにしながら、わたしは部屋を後にした。
「ねえ、本当は彼氏なんでしょ?」
予想通り、台所に向かうと母親が待ち構えていた。その瞳は好奇心に満ち溢れ、キラキラと輝いている。
わたしは彼女が大声を出さないよう、口の前に人差し指を立てた。
「うん、まあ……後でちゃんと話すから」
母がきゃあ、と小さな声ではしゃぐ。ようやく娘に「春」が訪れたものだから、興奮が抑えきれないという様子だ。正直うんざりしてしまうが、不純異性交遊がどうのと口うるさく言われるよりはマシかもしれない。
彼女は穏やかに微笑んで、わたしにそっと耳打ちをした。
「かっこいい子ね」
その言葉に対しては、自分でも驚くほどすんなりと、素直に頷くことができた。
「うん。……すごく、かっこいいよ」
いつもと同じ帰り道。唯一違うのは、隣にいる人の存在だ。
学校を出てからというものの、仗助くんはソワソワした様子で、さっきから何度も髪型を整えている。彼の気持ちはよくわかる。もしも逆の立場だったら、わたしは今ごろガチガチに固まっていただろう。
彼の緊張をほぐそうと、わたしは完全な善意でその言葉を口にした。
「あんまりかしこまらなくて大丈夫だよ。親には『友達が漫画を読みにくる』って言ってあるから」
「……『友達』?」
あ、と思った時にはもう遅かった。ひやりとした冷たい風がわたしたちの間を通り抜ける。
仗助くんは唇を尖らせて、恨みがましい視線をわたしに向けた。最初は怒っているのかと思ったが、彼の表情を見ると、どうも違うようだ。細められた目の奥にはさまざまな感情が渦巻いていて、どれかひとつに特定することはできない。
「ま、気持ちはよおーくわかるぜ……おれはこんなナリしてるからな。大切に育てた娘が、明らか不良のカッコしてるヤツをいきなり『彼氏です』って連れてきたらよおー、親御さんもビックリするだろーぜ」
「ご、ごめん……そういうつもりで言ったわけじゃないんだ。ただ……」
これに関しては別の理由がある。もっと幼稚で、取るに足りない理由だ。
——仗助くんに言ったことはあっただろうか。なかったかもしれない。わざわざ自分から言う必要もないし、今までそういう話題になったこともなかったから。
葛藤の末、どうにか絞り出した声は、自分でも情けなくなるほど弱々しかった。
「……初めての彼氏だから」
「……」
「親に報告するの、結構、勇気がいるっていうか……仗助くんはモテるからこういうの慣れてるかもしれないけど」
最後のくだりは必要なかったな、と言い終わってから後悔した。なんだか、言い訳をすればするほど墓穴を掘っているような気がする。
太陽の日差しを遮るふりをして、彼の視線から逃れるように、額の前に手をかざす。
その手を掴まれた。
「おれもだよ」
存在を確かめるように、優しく握られる。触れられたところから、全身に熱が伝わっていくような感覚をおぼえた。
喉がカラカラになって、のぼせてしまいそうなほど暑い。まるで、わたしたちの周りだけが夏に戻ったみたいだ。
彼は腰を屈めてわたしの顔を覗き込んだ。背後の景色が目に入り、思わず息を呑む。
「仗助くん……」
「……ナマエ、」
「あの、後ろにあるのがわたしの家なんだけど」
玄関に入るなり、仗助くんはどこに出しても恥ずかしくない直角九十度のお辞儀を見せた。
「お邪魔しますッ! おれ、ナマエさんの『友達』の東方仗助といいます。これ……つまらないものなんスけど、よければ皆さんでどうぞ」
「あ、ありがとう……」
母親が面食らいながら、百貨店で包んでもらったお菓子らしき箱を受け取る。それから、何か言いたげな表情でわたしの方を見た。彼がただの「漫画を読みにきた友達」ではないことに、彼女はすぐ勘づいたようだ。
ここで問い詰められたら堪ったものではない。わたしは仗助くんの背中を押し、急いで自分の部屋に連れて行った。
昨日帰ってきた後に大掃除をしたから、一応「見られる」部屋にはなっているはずだ。
そうはいっても、やっぱり自室に人を招き入れるのは緊張する。——それがまだ付き合い始めたばかりの彼氏だとしたら、なおさら。
「……えっと、飲み物取ってくるね。適当なところに座ってていいよ」
「て、適当なトコっつってもなあ〜」
仗助くんは落ち着きなくきょろきょろしていたが、結局、ラグマットの上に腰を下ろした。大きな体をぎゅっと縮こめて、借りてきた猫のようになっているのが可愛い。
緩んだ口元を見られないようにしながら、わたしは部屋を後にした。
「ねえ、本当は彼氏なんでしょ?」
予想通り、台所に向かうと母親が待ち構えていた。その瞳は好奇心に満ち溢れ、キラキラと輝いている。
わたしは彼女が大声を出さないよう、口の前に人差し指を立てた。
「うん、まあ……後でちゃんと話すから」
母がきゃあ、と小さな声ではしゃぐ。ようやく娘に「春」が訪れたものだから、興奮が抑えきれないという様子だ。正直うんざりしてしまうが、不純異性交遊がどうのと口うるさく言われるよりはマシかもしれない。
彼女は穏やかに微笑んで、わたしにそっと耳打ちをした。
「かっこいい子ね」
その言葉に対しては、自分でも驚くほどすんなりと、素直に頷くことができた。
「うん。……すごく、かっこいいよ」