週刊少年リビドー
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仗助くんは全然流行りの漫画を知らない。
試しにジャンプで連載されている有名なタイトルをいくつか挙げてみたが、どれも読んだことがないらしい。
かろうじて『ピンクダークの少年』は知っているみたいだったけど……なぜか話題を出しただけで苦虫を噛み潰したような顔をしていたため、それ以上触れることができなかった。
もちろん趣味は人それぞれだ。他人がとやかく言う権利はない。
でも——好きな人が、自分の好きなものを好きになってくれたとしたら、それはすごく幸せなことだろう。
「漫画なあ〜……」
わたしの漫画クイズに全問不正解した後、仗助くんは思案顔で天を仰いだ。その様子を眺めながら、弁当箱の中に残っているおかずを箸でつつく。
今日はお昼ご飯を一緒に食べる日だ。わたしたちは中庭の適当な空きスペースに腰を下ろし、たわいない話をして過ごしていた。
たとえば宿題の話とか、テレビの話とか——最近ハマっている漫画の話とか。
「好きって言うやつを否定する気はねーが、あんまし興味もてねーんだよな。ゲームなら結構やるんだけどよー」
「そっか……」
言い回しから、わたしを傷つけないよう、彼なりに言葉を選んでくれているのが伝わってくる。やっぱり駄目だったかと内心しょんぼりしながら、口の中のものを飲み込んだ。
「まあ、興味のない人に無理強いするつもりはないよ。そりゃあもちろん、同じ話題で盛り上がれたら嬉しいなって気持ちは……ちょっぴりあるけど」
しかし、まだ引き下がる気にはなれない。
わたしは「ちょっぴり」と言いながら片手で何かをつまむような仕草をした後、親指と人差し指の隙間を限界まで広げてみせた。仗助くんが胡乱な目をする。
「だいぶでけーなあ〜っ」
「『食わず嫌い』と同じように『読まず嫌い』もあると思うんだよね。ちょっと読んでみて、合わなかったらやめるって手もあるし——」
一瞬、よこしまな考えが頭を掠め、思わず口を閉じた。
それは天才的なアイデアだ。だけど、わたしがその言葉を口にするには、一世一代の勇気と……それから「流れ」が必要だった。
仗助くんが目をぎゅっと瞑りながら「うーん」と唸り始める。
「でもよー、途中からジャンプ読み始めても全然話わかんねーだろォ〜? コミックで買うにしても、おれ今マジに金欠だからなあ〜……。ちとケチくせーが、古本屋で立ち読みするしかねーかな……」
ここだ、と思った。
大縄飛びの時のような緊張感に支配され、手のひらにじわりと汗が滲む。言わなければいけない。この「流れ」を崩さないように、あくまで今思いついたかのように、自然なそぶりで。
ひと呼吸置いて、わたしは全ての条件をクリアした。
「じゃあ、わたしの家に読みにくる?」
閉じられていた目がぱち、と開く。仗助くんは呆気に取られた表情で、わたしの顔をじっと見つめた。お互いに何も喋らないまま、ただ見つめ合うだけの気まずい時間が流れる。
先に沈黙を破ったのは彼の方だった。
「今のは……おれの空耳か? ナマエが『わたしの家に読みにくる?』つったよーに聞こえたんだが……」
「ちゃんと言ったよ!」
復唱されたことで、抑え込んでいた羞恥心が一気に込み上げてくる。平静を装う余裕もなく、わたしは早口で理由を付け加えた。
「だ、だって、わたしの家に漫画揃ってるんだよ。わざわざ古本屋に行くよりこっちの方が手っ取り早いでしょ?」
「グレート……マジかよ……」
肩をプルプルと震わせながら、仗助くんは呆然と呟いた。彼の右手に握られている牛乳の紙パックが、グシャリと音を立てて潰れる。
あまりにも大げさな反応に、何かとんでもないことを言ってしまったのだろうかと不安になってくる。
「明日の放課後とかどうかな、って思ったんだけど……もし予定があるなら」
「ひっ、ヒマヒマ、超ヒマ! もちろん行かせていただきますよーッ!」
仗助くんは突然立ち上がり、空に向かって拳を高く振り上げた。
その光景を見て、ある有名な漫画のワンシーンによく似ていると思ったが、おそらく彼は知らないだろう。
「漫画読みに行くの、スゲーッ楽しみだぜ!」
試しにジャンプで連載されている有名なタイトルをいくつか挙げてみたが、どれも読んだことがないらしい。
かろうじて『ピンクダークの少年』は知っているみたいだったけど……なぜか話題を出しただけで苦虫を噛み潰したような顔をしていたため、それ以上触れることができなかった。
もちろん趣味は人それぞれだ。他人がとやかく言う権利はない。
でも——好きな人が、自分の好きなものを好きになってくれたとしたら、それはすごく幸せなことだろう。
「漫画なあ〜……」
わたしの漫画クイズに全問不正解した後、仗助くんは思案顔で天を仰いだ。その様子を眺めながら、弁当箱の中に残っているおかずを箸でつつく。
今日はお昼ご飯を一緒に食べる日だ。わたしたちは中庭の適当な空きスペースに腰を下ろし、たわいない話をして過ごしていた。
たとえば宿題の話とか、テレビの話とか——最近ハマっている漫画の話とか。
「好きって言うやつを否定する気はねーが、あんまし興味もてねーんだよな。ゲームなら結構やるんだけどよー」
「そっか……」
言い回しから、わたしを傷つけないよう、彼なりに言葉を選んでくれているのが伝わってくる。やっぱり駄目だったかと内心しょんぼりしながら、口の中のものを飲み込んだ。
「まあ、興味のない人に無理強いするつもりはないよ。そりゃあもちろん、同じ話題で盛り上がれたら嬉しいなって気持ちは……ちょっぴりあるけど」
しかし、まだ引き下がる気にはなれない。
わたしは「ちょっぴり」と言いながら片手で何かをつまむような仕草をした後、親指と人差し指の隙間を限界まで広げてみせた。仗助くんが胡乱な目をする。
「だいぶでけーなあ〜っ」
「『食わず嫌い』と同じように『読まず嫌い』もあると思うんだよね。ちょっと読んでみて、合わなかったらやめるって手もあるし——」
一瞬、よこしまな考えが頭を掠め、思わず口を閉じた。
それは天才的なアイデアだ。だけど、わたしがその言葉を口にするには、一世一代の勇気と……それから「流れ」が必要だった。
仗助くんが目をぎゅっと瞑りながら「うーん」と唸り始める。
「でもよー、途中からジャンプ読み始めても全然話わかんねーだろォ〜? コミックで買うにしても、おれ今マジに金欠だからなあ〜……。ちとケチくせーが、古本屋で立ち読みするしかねーかな……」
ここだ、と思った。
大縄飛びの時のような緊張感に支配され、手のひらにじわりと汗が滲む。言わなければいけない。この「流れ」を崩さないように、あくまで今思いついたかのように、自然なそぶりで。
ひと呼吸置いて、わたしは全ての条件をクリアした。
「じゃあ、わたしの家に読みにくる?」
閉じられていた目がぱち、と開く。仗助くんは呆気に取られた表情で、わたしの顔をじっと見つめた。お互いに何も喋らないまま、ただ見つめ合うだけの気まずい時間が流れる。
先に沈黙を破ったのは彼の方だった。
「今のは……おれの空耳か? ナマエが『わたしの家に読みにくる?』つったよーに聞こえたんだが……」
「ちゃんと言ったよ!」
復唱されたことで、抑え込んでいた羞恥心が一気に込み上げてくる。平静を装う余裕もなく、わたしは早口で理由を付け加えた。
「だ、だって、わたしの家に漫画揃ってるんだよ。わざわざ古本屋に行くよりこっちの方が手っ取り早いでしょ?」
「グレート……マジかよ……」
肩をプルプルと震わせながら、仗助くんは呆然と呟いた。彼の右手に握られている牛乳の紙パックが、グシャリと音を立てて潰れる。
あまりにも大げさな反応に、何かとんでもないことを言ってしまったのだろうかと不安になってくる。
「明日の放課後とかどうかな、って思ったんだけど……もし予定があるなら」
「ひっ、ヒマヒマ、超ヒマ! もちろん行かせていただきますよーッ!」
仗助くんは突然立ち上がり、空に向かって拳を高く振り上げた。
その光景を見て、ある有名な漫画のワンシーンによく似ていると思ったが、おそらく彼は知らないだろう。
「漫画読みに行くの、スゲーッ楽しみだぜ!」