週刊少年リビドー
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一日中、ずっと上の空だった。
今も教師が話している内容なんて、何一つ頭に入ってこない。シャーペンを握り締めて、いつも通り授業に集中している「ふり」をする。
気を抜くと、また思い出してしまう。肌を撫でていく吐息の熱さや、口内を這い回る舌の感触。こちらを見据える瞳は飢えた獣みたいにぎらぎらしていて、頭から丸ごと食べ尽くされそうな勢いだった。
恐怖は感じなかった。むしろ、彼の体温は心地よくて、このまま身を委ねてしまってもいいとさえ思った。
これほどまでの安心感を覚えたのは、相手が仗助くんだからだ。無意識的に、彼の人柄に対する信頼——決してわたしを傷つけるようなことはしないという確信があった。
それに……もし傷つけられたとしても、別に構わない。
その時は、責任を取って仗助くんになおしてもらうつもりだ。
永遠とも思えるほど長い時間を耐え切って、わたしたちはようやく授業から解放された。
昇降口から出た仗助くんが、ぶるりと体を震わせる。
「スゲー寒いな、今日」
「急に冷え込んだよね。手袋してきたらよかった……」
かじかむ指先を温めようと手のひらを擦り合わせる。その様子を見て、隣から仗助くんの手がにゅっと伸びてきた。わたしの両手をすっぽり包み込んだ後、彼が驚きの声を漏らす。
「うおッ、つめてえ」
氷が溶ける時のように、仗助くんの熱がじわじわと内側まで染みわたっていく。ほどなくして、わたしの指先に再び血がめぐり始めた。
前から思っていたけど、いつ触れても彼の体はあたたかい。……普通の人よりも代謝がいいのだろうか?
「すごい。仗助くんの手、カイロみたいだよ」
わたしの言葉に軽く笑うと、彼は握る手に力を込めた。
「だったらよォ〜、このまま借りてていいぜ」
家に着くまでの間、わたしたちはあまり喋らなかった。いつものように学校での出来事を話そうとしたが、ちょうどいい話題が思いつかない。どうしても、頭の片隅で「これから起こること」を意識してしまうからだ。
ひたすら無言で歩き続け、見慣れた玄関ドアの前で立ち止まる。
「仗助くん、あの……鍵、開けるから」
「ン……ああ、そうだな……」
固く繋がれていた手がほどかれる。わたしは鞄の中から鍵を取り出して、鍵穴に差し込もうとした。……が、なかなか入らない。もたついているわたしを心配したのか、仗助くんが手元を覗き込んでくる。
「それ、鍵の向き合ってんのかよ?」
「合っ……てない、みたい」
「…………」
鍵をひっくり返すと、今度はすんなり入った。
ドラマなんかでたまに見かける、泥酔したサラリーマンの挙動だ。自分の家なのに、これほど初歩的なミスをするとは思わなかった。横から「大丈夫か?」とでも言いたげな視線が突き刺さってくる。
「ど、どうぞ。お入りください」
誤魔化すように咳払いをして、わたしはドアノブに手をかけた。
扉を閉めた瞬間、後ろから抱きすくめられた。鞄がどさりと床に落ちる。押し殺した囁きが、耳元の空気を震わせた。
「……なあ、何する?」
ぞくりとするほど低い声。その問いかけの意味を理解できないほど子供ではないし、彼を家に招いた時点で、はじめから覚悟は決まっている。それでも、いざ直面すると冷静ではいられなかった。
心臓が痛いほどバクバクして、しだいに息が荒くなっていく。黙っているわたしに痺れを切らしたのか、彼が首筋に鼻を擦りつけてくる。思わず身じろぐと、背後からくぐもった呟きが聞こえてきた。
「まさか、ここまできて、おれの『勘違い』じゃあねーよな……考えてること、合ってるよな?」
「……それは……合ってると思う」
首だけを動かして、彼の方を振り向く。熱のこもった視線が交わり、お互いに吸い寄せられるようにして、そっと唇が重なった。ちゅ、と触れるだけのキスを何度か繰り返した後、口の中にぬめぬめした物体が入ってくる。
「っ、ん……」
分厚い舌が歯列をゆっくりとなぞっていく。それは濡れた音を立てながら口内をまさぐり、やがて、わたしの舌を探り当てた。粘膜同士が擦れ合う感覚に、小さな声が漏れる。
仗助くんの動きには迷いがなくて、気を抜くと押し流されてしまいそうだった。何もわからないまま、舌をぎこちなく絡める。すると突然、彼の手がするりと服の下に滑り込んできた。
「わっ、ちょっ、仗助くん!」
「?」
「う、……その、嫌ではないんだけど、さすがに、玄関では……」
直接的な単語を口にする度胸はなく、だんだんと声が尻すぼみになっていく。仗助くんはきょとんとした顔でわたしを見つめていたが、すぐに合点がいったのか、頬を赤らめて引き下がった。
「わ、悪い……今のはがっつきすぎてたな」
「ううん、こっちこそごめん。一応、わたしにも心の準備があるから……できれば、ゆっくりめに段階を踏んでくれると助かる」
「できっかな……」
「え?」
不穏な台詞が聞こえた気がする。疑いの目を向けると、彼は下手くそな笑い方で誤魔化した。
「わかったよ、次の『段階』は?」
仗助くんの吐息が耳に触れる。唇は離れたが、お互いの体はまだ密着したままだ。お腹に回された腕はびくともせず、もはや逃げ場はないように感じられた。
「……へ、部屋に行きます」
今も教師が話している内容なんて、何一つ頭に入ってこない。シャーペンを握り締めて、いつも通り授業に集中している「ふり」をする。
気を抜くと、また思い出してしまう。肌を撫でていく吐息の熱さや、口内を這い回る舌の感触。こちらを見据える瞳は飢えた獣みたいにぎらぎらしていて、頭から丸ごと食べ尽くされそうな勢いだった。
恐怖は感じなかった。むしろ、彼の体温は心地よくて、このまま身を委ねてしまってもいいとさえ思った。
これほどまでの安心感を覚えたのは、相手が仗助くんだからだ。無意識的に、彼の人柄に対する信頼——決してわたしを傷つけるようなことはしないという確信があった。
それに……もし傷つけられたとしても、別に構わない。
その時は、責任を取って仗助くんになおしてもらうつもりだ。
永遠とも思えるほど長い時間を耐え切って、わたしたちはようやく授業から解放された。
昇降口から出た仗助くんが、ぶるりと体を震わせる。
「スゲー寒いな、今日」
「急に冷え込んだよね。手袋してきたらよかった……」
かじかむ指先を温めようと手のひらを擦り合わせる。その様子を見て、隣から仗助くんの手がにゅっと伸びてきた。わたしの両手をすっぽり包み込んだ後、彼が驚きの声を漏らす。
「うおッ、つめてえ」
氷が溶ける時のように、仗助くんの熱がじわじわと内側まで染みわたっていく。ほどなくして、わたしの指先に再び血がめぐり始めた。
前から思っていたけど、いつ触れても彼の体はあたたかい。……普通の人よりも代謝がいいのだろうか?
「すごい。仗助くんの手、カイロみたいだよ」
わたしの言葉に軽く笑うと、彼は握る手に力を込めた。
「だったらよォ〜、このまま借りてていいぜ」
家に着くまでの間、わたしたちはあまり喋らなかった。いつものように学校での出来事を話そうとしたが、ちょうどいい話題が思いつかない。どうしても、頭の片隅で「これから起こること」を意識してしまうからだ。
ひたすら無言で歩き続け、見慣れた玄関ドアの前で立ち止まる。
「仗助くん、あの……鍵、開けるから」
「ン……ああ、そうだな……」
固く繋がれていた手がほどかれる。わたしは鞄の中から鍵を取り出して、鍵穴に差し込もうとした。……が、なかなか入らない。もたついているわたしを心配したのか、仗助くんが手元を覗き込んでくる。
「それ、鍵の向き合ってんのかよ?」
「合っ……てない、みたい」
「…………」
鍵をひっくり返すと、今度はすんなり入った。
ドラマなんかでたまに見かける、泥酔したサラリーマンの挙動だ。自分の家なのに、これほど初歩的なミスをするとは思わなかった。横から「大丈夫か?」とでも言いたげな視線が突き刺さってくる。
「ど、どうぞ。お入りください」
誤魔化すように咳払いをして、わたしはドアノブに手をかけた。
扉を閉めた瞬間、後ろから抱きすくめられた。鞄がどさりと床に落ちる。押し殺した囁きが、耳元の空気を震わせた。
「……なあ、何する?」
ぞくりとするほど低い声。その問いかけの意味を理解できないほど子供ではないし、彼を家に招いた時点で、はじめから覚悟は決まっている。それでも、いざ直面すると冷静ではいられなかった。
心臓が痛いほどバクバクして、しだいに息が荒くなっていく。黙っているわたしに痺れを切らしたのか、彼が首筋に鼻を擦りつけてくる。思わず身じろぐと、背後からくぐもった呟きが聞こえてきた。
「まさか、ここまできて、おれの『勘違い』じゃあねーよな……考えてること、合ってるよな?」
「……それは……合ってると思う」
首だけを動かして、彼の方を振り向く。熱のこもった視線が交わり、お互いに吸い寄せられるようにして、そっと唇が重なった。ちゅ、と触れるだけのキスを何度か繰り返した後、口の中にぬめぬめした物体が入ってくる。
「っ、ん……」
分厚い舌が歯列をゆっくりとなぞっていく。それは濡れた音を立てながら口内をまさぐり、やがて、わたしの舌を探り当てた。粘膜同士が擦れ合う感覚に、小さな声が漏れる。
仗助くんの動きには迷いがなくて、気を抜くと押し流されてしまいそうだった。何もわからないまま、舌をぎこちなく絡める。すると突然、彼の手がするりと服の下に滑り込んできた。
「わっ、ちょっ、仗助くん!」
「?」
「う、……その、嫌ではないんだけど、さすがに、玄関では……」
直接的な単語を口にする度胸はなく、だんだんと声が尻すぼみになっていく。仗助くんはきょとんとした顔でわたしを見つめていたが、すぐに合点がいったのか、頬を赤らめて引き下がった。
「わ、悪い……今のはがっつきすぎてたな」
「ううん、こっちこそごめん。一応、わたしにも心の準備があるから……できれば、ゆっくりめに段階を踏んでくれると助かる」
「できっかな……」
「え?」
不穏な台詞が聞こえた気がする。疑いの目を向けると、彼は下手くそな笑い方で誤魔化した。
「わかったよ、次の『段階』は?」
仗助くんの吐息が耳に触れる。唇は離れたが、お互いの体はまだ密着したままだ。お腹に回された腕はびくともせず、もはや逃げ場はないように感じられた。
「……へ、部屋に行きます」
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