ショートコント「喧嘩」
name change
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
ヒートアップしていた口論の終わりは、唐突にやってきた。
「もういい、帰る!」
「ま……待てよ!」
勢いよく立ち上がった女性の背中を、恋人らしき男性が追いかけていく。
すさまじい喧嘩だった。二人の行く末を案じながら、向かい側に座っている自分の恋人に視線を戻す。レイはいつも通り、デザートのモンブランを無表情で堪能していた。
夜の繁華街は賑わっている。レストランを出た私たちは、しばらく食後の散歩を楽しむことにした。
仲睦まじい様子で歩くカップルとすれ違った瞬間、ふと「喧嘩」の光景が脳裏に蘇る。
「思い返してみたら……私たち、あんな風に喧嘩したことはなかった気がする」
レイが怪訝そうな目で私を見る。発言の矛盾を突かれる前に、私は慌てて補足を付け加えた。
「私が拗ねたり怒ったりすることがあっても、あなたは冷静に対処してくれるでしょ? まあ、たまに叱られることはあるけど」
「その『たまに』とは、退院の許可が下りていないにもかかわらず、お前が勝手に病院を抜け出した時のことか? それとも主治医の指示を聞かず、万全の体調ではないのに無理して任務に参加した時のことか?」
「……反省してるってば!」
彼があげつらうエピソードの全てに心当たりがあるので、なおさら耳が痛い。
それにしても、ずいぶん前に解決した問題をわざわざ蒸し返さなくたっていいのに。胸の奥で反抗心がくすぶる。このまま黙って引き下がる気にはなれず、私はレイを軽く睨んだ。
「あなたにも前科があることを忘れてない?」
「……」
「私に何も言わずに一人で問題を抱え込んだり、怪我してるのに無理したり……誰かさんは私にお説教できる立場なのかな?」
思い当たる節があったのか、レイが気まずそうに目を逸らす。ちゃんと反省しているのだろうか。さらに問い詰めようと口を開きかけて——そこで我に返り、踏みとどまった。
本当に喧嘩してしまっては元も子もない。私は鼻を鳴らすと、話を本題に戻した。
「私が考えてたのは、大きな爆発が一回起こるのと、何回かに分けて小さな爆発が起こるのとでは、どっちの方が被害が大きくなりそうかってことだよ」
「この前一緒に観たスパイ映画の話をしているのか? ……状況にもよるが、一般的に考えれば、大爆発の方が被害は広範囲に及ぶだろう。小さな爆発の場合……」
レイの言葉が途切れる。私たちの前を歩いていた小さな女の子が、突然泣き出したのだ。おそらく兄妹喧嘩をしたのだろう。隣にいたお兄ちゃんらしき少年が謝ると、二人はあっという間に仲直りした。
彼らが手を繋いで歩いていく光景が微笑ましくて、思わず頬が緩む。
「小さな爆発の場合はエネルギーが分散されるから、一回あたりの破壊力はそれほど大きくない」
淡々と話を続けながら、レイは私の手に指を絡めて握った。
「どちらにせよ、被害の拡大を防ぐためには、爆発の発生要因を突き止めて対策を講じる必要がある」
「有能な爆発物処理班さんは、私が伝えたかったことを完璧に理解してくれたみたいだね!」
今回レイの取った「対策」は、私に対して非常に効果的だ。上機嫌になった私は彼の手を強く握り返した。
「ちょっと不安になっちゃったんだ。あなたはいつも大人の対応をしてくれるけど……実は我慢してることがあって、それがいつか『大きな喧嘩』の原因になるんじゃないかって」
もちろん、意見のすれ違いや言い争いが起きたとして、私たちの関係に修復不可能な亀裂が入るとは思わない。むしろ、相手への理解を深めるいい機会になるだろう。だからこそ……。
「家に着くまでの間、今のうちに『小さな喧嘩』をしておくのはどう? もし日頃から不満に思ってることがあればお互いに言い合ってみない?」
「もういい、帰る!」
「ま……待てよ!」
勢いよく立ち上がった女性の背中を、恋人らしき男性が追いかけていく。
すさまじい喧嘩だった。二人の行く末を案じながら、向かい側に座っている自分の恋人に視線を戻す。レイはいつも通り、デザートのモンブランを無表情で堪能していた。
夜の繁華街は賑わっている。レストランを出た私たちは、しばらく食後の散歩を楽しむことにした。
仲睦まじい様子で歩くカップルとすれ違った瞬間、ふと「喧嘩」の光景が脳裏に蘇る。
「思い返してみたら……私たち、あんな風に喧嘩したことはなかった気がする」
レイが怪訝そうな目で私を見る。発言の矛盾を突かれる前に、私は慌てて補足を付け加えた。
「私が拗ねたり怒ったりすることがあっても、あなたは冷静に対処してくれるでしょ? まあ、たまに叱られることはあるけど」
「その『たまに』とは、退院の許可が下りていないにもかかわらず、お前が勝手に病院を抜け出した時のことか? それとも主治医の指示を聞かず、万全の体調ではないのに無理して任務に参加した時のことか?」
「……反省してるってば!」
彼があげつらうエピソードの全てに心当たりがあるので、なおさら耳が痛い。
それにしても、ずいぶん前に解決した問題をわざわざ蒸し返さなくたっていいのに。胸の奥で反抗心がくすぶる。このまま黙って引き下がる気にはなれず、私はレイを軽く睨んだ。
「あなたにも前科があることを忘れてない?」
「……」
「私に何も言わずに一人で問題を抱え込んだり、怪我してるのに無理したり……誰かさんは私にお説教できる立場なのかな?」
思い当たる節があったのか、レイが気まずそうに目を逸らす。ちゃんと反省しているのだろうか。さらに問い詰めようと口を開きかけて——そこで我に返り、踏みとどまった。
本当に喧嘩してしまっては元も子もない。私は鼻を鳴らすと、話を本題に戻した。
「私が考えてたのは、大きな爆発が一回起こるのと、何回かに分けて小さな爆発が起こるのとでは、どっちの方が被害が大きくなりそうかってことだよ」
「この前一緒に観たスパイ映画の話をしているのか? ……状況にもよるが、一般的に考えれば、大爆発の方が被害は広範囲に及ぶだろう。小さな爆発の場合……」
レイの言葉が途切れる。私たちの前を歩いていた小さな女の子が、突然泣き出したのだ。おそらく兄妹喧嘩をしたのだろう。隣にいたお兄ちゃんらしき少年が謝ると、二人はあっという間に仲直りした。
彼らが手を繋いで歩いていく光景が微笑ましくて、思わず頬が緩む。
「小さな爆発の場合はエネルギーが分散されるから、一回あたりの破壊力はそれほど大きくない」
淡々と話を続けながら、レイは私の手に指を絡めて握った。
「どちらにせよ、被害の拡大を防ぐためには、爆発の発生要因を突き止めて対策を講じる必要がある」
「有能な爆発物処理班さんは、私が伝えたかったことを完璧に理解してくれたみたいだね!」
今回レイの取った「対策」は、私に対して非常に効果的だ。上機嫌になった私は彼の手を強く握り返した。
「ちょっと不安になっちゃったんだ。あなたはいつも大人の対応をしてくれるけど……実は我慢してることがあって、それがいつか『大きな喧嘩』の原因になるんじゃないかって」
もちろん、意見のすれ違いや言い争いが起きたとして、私たちの関係に修復不可能な亀裂が入るとは思わない。むしろ、相手への理解を深めるいい機会になるだろう。だからこそ……。
「家に着くまでの間、今のうちに『小さな喧嘩』をしておくのはどう? もし日頃から不満に思ってることがあればお互いに言い合ってみない?」
1/2ページ