可愛い彼女
name change
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
きっかけは、ちょっとした悪戯心だった。
「レイ、あなた、可愛い彼女が欲しくない?」
言いながら、隣に座っている恋人の顔を見上げる。形の良い眉がわずかにひそめられたのを見て、私は口角を上げた。
「欲しそうな顔だね」
「……何の話をしているんだ?」
私は意気揚々とスマホを取り出し、レイに画面を見せた。
『可愛い彼女があなたを待っています!』
キャッチコピーの向こうでは、制服を着た美少女がこちらを潤んだ瞳で見つめている。
最近リリースされた恋愛ゲームの広告だ。
「こういうのやったことある?」
「ない」
「じゃあやろう。今インストールするね」
この計画を思いついたのは、つい昨日のことだ。ネットサーフィンの途中で、私は誤って広告をタップしてしまった。その時に飛ばされたのが、このページだ。
いつもなら興味ないとすぐに閉じていただろうけど、昨日はなぜか、頭の中にレイの顔が思い浮かんだ。
あの真面目で堅物なお医者さんは、どのようにして彼女たちを攻略するのだろう?
彼が恋愛ゲームをプレイするところなんて——そんなの、絶対に面白いはず!
「インストールが終わったな」
画面を見たレイが私に教える。意外にも乗り気そうだ。私は彼に自分のスマホを手渡し、画面を確認するために体を寄せた。
「みんな可愛いね。レイは誰を選ぶの? ……ほら、この子とか、黒髪であなたみたいだけど」
「『黒髪』しか共通点がないが」
「公式サイトにはクールな優等生って書いてあった。この子の名前、きっとレイちゃんだよ。私だったらこの子を選ぶ!」
「……」
画面を眺めながら、レイは黙り込んでいる。「どうしたの?」と人差し指で頬をつつこうとしたが、寸前で避けられた。
「少し考えていただけだ。……では、この子にしよう」
レイが選んだ女の子のビジュアルを見て、私は追撃を仕掛けようとしていた手を引っ込めた。
画面の中には、儚げな雰囲気を持つ、清楚で大人しそうな女の子が映っている。彼女は幼い頃から病弱で、今でもよく体調を崩すらしい。……という「設定」だ。
「ふーん。この子にするんだ」
「ああ」
「これは『患者』じゃなくて『彼女』を選ぶゲームだって、最初に言わなかったっけ?」
「……知っているが?」
じゃああなた、こういう女の子が好みなんだ?という言葉を飲み込んで、私は鼻を鳴らした。
本音を言うと、私は恋愛ゲームに悪戦苦闘するレイの姿が見られるんじゃないかと期待していた。
だけど……。
「まさか、あなたに女の子を手玉に取る才能があったなんてね」
「妙な言い方をするのはやめろ」
私の予想を大きく裏切って、彼の「彼女作り」は順調に進んでいた。
自分に自信がなく、引っ込み思案で臆病な彼女。医者としての経験からか、レイは次々と彼女を勇気づける的確な選択肢を選んでいく。
私は少しずつ焦り始めた。
「待って。そこで寄り添う選択肢を選んだら、好感度が上がっちゃう」
「それならいいのではないか?」
「……いいんだけど!」
レイの馬鹿。
私は頬を膨らませ、スマホの画面から目を背けた。ゲームの中のキャラに嫉妬するなんて、どうかしている。……しかも、「彼が私に全く似ていない女の子を選んだから」という幼稚な理由で。
決めた。レイと彼女が結ばれそうになったら、スマホを奪い取ってやろう——そう画策していたが、結局実行に移す機会は訪れなかった。
最後の最後で、レイは彼女に振られてしまったのだ。
ストーリーの終盤、主人公に会うために病院を抜け出してきた彼女に対して、レイはきつく叱責した。ゲームの中の出来事とはいえ、医者として見過ごせなかったのだろう。
そして不幸なことに、それがエンディングを左右する大事な選択肢だったらしい。
「『ごめんなさい、友達でいましょう』……だって。残念、レイ先生に可愛い彼女はできなかったね〜」
「その割にはずいぶん上機嫌そうだな」
そう言うレイだって、ちっとも残念そうな顔をしていない。
「じゃあ正直に白状するよ。本当は、ゲームの女の子に振り回されて、困ってるあなたの姿が見たかったの。でも……」
「でも?」
「結局、私が振り回されちゃった」
レイは動きを止め、私の顔をじっと見つめた。何だか気恥ずかしくて、つい目を逸らしてしまう。
「見てて思ったんだけど、レイはあの子と相性が良くなかった気がする。もっとあなたにぴったりの女の子がいるはずだよ。例えば、ちょっとお転婆な年下の幼馴染とか……」
「ちょっとで済むレベルのお転婆か?」
「そこは別にいいでしょ!」
耳が熱い。レイは笑って、私にスマホを返した。画面にはゲームのタイトルロゴと、彼の「彼女候補」だった女の子たちが映っている。
「お前が『レイちゃん』を見つけたように、私も『ナマエちゃん』を探したのだが、このゲームの中にはいなかった」
「つまり、あなたにとって私は唯一無二の存在ってこと?」
「ああ」
まさか即答されるとは思っていなかったため、言葉に詰まる。もはや真っ赤になった顔を誤魔化すことはできない。私は彼の肩に頭を乗せ、降参の意を示した。
「……あなたのために『可愛い年下幼馴染ちゃん』が出てくる恋愛ゲームを探しておくよ」
「その必要はない」
レイの声が近づいて、柔らかな感触が額に残される。
「可愛い彼女なら、最初から隣にいるだろう?」
「レイ、あなた、可愛い彼女が欲しくない?」
言いながら、隣に座っている恋人の顔を見上げる。形の良い眉がわずかにひそめられたのを見て、私は口角を上げた。
「欲しそうな顔だね」
「……何の話をしているんだ?」
私は意気揚々とスマホを取り出し、レイに画面を見せた。
『可愛い彼女があなたを待っています!』
キャッチコピーの向こうでは、制服を着た美少女がこちらを潤んだ瞳で見つめている。
最近リリースされた恋愛ゲームの広告だ。
「こういうのやったことある?」
「ない」
「じゃあやろう。今インストールするね」
この計画を思いついたのは、つい昨日のことだ。ネットサーフィンの途中で、私は誤って広告をタップしてしまった。その時に飛ばされたのが、このページだ。
いつもなら興味ないとすぐに閉じていただろうけど、昨日はなぜか、頭の中にレイの顔が思い浮かんだ。
あの真面目で堅物なお医者さんは、どのようにして彼女たちを攻略するのだろう?
彼が恋愛ゲームをプレイするところなんて——そんなの、絶対に面白いはず!
「インストールが終わったな」
画面を見たレイが私に教える。意外にも乗り気そうだ。私は彼に自分のスマホを手渡し、画面を確認するために体を寄せた。
「みんな可愛いね。レイは誰を選ぶの? ……ほら、この子とか、黒髪であなたみたいだけど」
「『黒髪』しか共通点がないが」
「公式サイトにはクールな優等生って書いてあった。この子の名前、きっとレイちゃんだよ。私だったらこの子を選ぶ!」
「……」
画面を眺めながら、レイは黙り込んでいる。「どうしたの?」と人差し指で頬をつつこうとしたが、寸前で避けられた。
「少し考えていただけだ。……では、この子にしよう」
レイが選んだ女の子のビジュアルを見て、私は追撃を仕掛けようとしていた手を引っ込めた。
画面の中には、儚げな雰囲気を持つ、清楚で大人しそうな女の子が映っている。彼女は幼い頃から病弱で、今でもよく体調を崩すらしい。……という「設定」だ。
「ふーん。この子にするんだ」
「ああ」
「これは『患者』じゃなくて『彼女』を選ぶゲームだって、最初に言わなかったっけ?」
「……知っているが?」
じゃああなた、こういう女の子が好みなんだ?という言葉を飲み込んで、私は鼻を鳴らした。
本音を言うと、私は恋愛ゲームに悪戦苦闘するレイの姿が見られるんじゃないかと期待していた。
だけど……。
「まさか、あなたに女の子を手玉に取る才能があったなんてね」
「妙な言い方をするのはやめろ」
私の予想を大きく裏切って、彼の「彼女作り」は順調に進んでいた。
自分に自信がなく、引っ込み思案で臆病な彼女。医者としての経験からか、レイは次々と彼女を勇気づける的確な選択肢を選んでいく。
私は少しずつ焦り始めた。
「待って。そこで寄り添う選択肢を選んだら、好感度が上がっちゃう」
「それならいいのではないか?」
「……いいんだけど!」
レイの馬鹿。
私は頬を膨らませ、スマホの画面から目を背けた。ゲームの中のキャラに嫉妬するなんて、どうかしている。……しかも、「彼が私に全く似ていない女の子を選んだから」という幼稚な理由で。
決めた。レイと彼女が結ばれそうになったら、スマホを奪い取ってやろう——そう画策していたが、結局実行に移す機会は訪れなかった。
最後の最後で、レイは彼女に振られてしまったのだ。
ストーリーの終盤、主人公に会うために病院を抜け出してきた彼女に対して、レイはきつく叱責した。ゲームの中の出来事とはいえ、医者として見過ごせなかったのだろう。
そして不幸なことに、それがエンディングを左右する大事な選択肢だったらしい。
「『ごめんなさい、友達でいましょう』……だって。残念、レイ先生に可愛い彼女はできなかったね〜」
「その割にはずいぶん上機嫌そうだな」
そう言うレイだって、ちっとも残念そうな顔をしていない。
「じゃあ正直に白状するよ。本当は、ゲームの女の子に振り回されて、困ってるあなたの姿が見たかったの。でも……」
「でも?」
「結局、私が振り回されちゃった」
レイは動きを止め、私の顔をじっと見つめた。何だか気恥ずかしくて、つい目を逸らしてしまう。
「見てて思ったんだけど、レイはあの子と相性が良くなかった気がする。もっとあなたにぴったりの女の子がいるはずだよ。例えば、ちょっとお転婆な年下の幼馴染とか……」
「ちょっとで済むレベルのお転婆か?」
「そこは別にいいでしょ!」
耳が熱い。レイは笑って、私にスマホを返した。画面にはゲームのタイトルロゴと、彼の「彼女候補」だった女の子たちが映っている。
「お前が『レイちゃん』を見つけたように、私も『ナマエちゃん』を探したのだが、このゲームの中にはいなかった」
「つまり、あなたにとって私は唯一無二の存在ってこと?」
「ああ」
まさか即答されるとは思っていなかったため、言葉に詰まる。もはや真っ赤になった顔を誤魔化すことはできない。私は彼の肩に頭を乗せ、降参の意を示した。
「……あなたのために『可愛い年下幼馴染ちゃん』が出てくる恋愛ゲームを探しておくよ」
「その必要はない」
レイの声が近づいて、柔らかな感触が額に残される。
「可愛い彼女なら、最初から隣にいるだろう?」
1/1ページ