過去の遺物たち
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昔から、同じ年頃の少年よりも華奢なこの体があんまり好きじゃなかった。
早く、大人になりたかった。
「見つかったか?」
頭上からかかる声にリノは顔を上げると、こくんと頷いて棚の下を指さす。不思議そうな顔をしながらアルゴはリノの隣にしゃがみこんだ。薄暗くなった棚の下、奥の方に一層深い黒が横たわっている。
「とれる?」
その言葉に、今度はアルゴがこくんと頷く。棚の下に手を伸ばすアルゴを、リノはじっと見つめた。
普段は見上げるだけの彼の体が今は自分よりも下に見える。
こんなに成長するまで、僕はアルの隣にいたんだ。
理解するよりも早く、リノの体は動きだしていた。
「とれたぞ、リノ…」
身を起こしたアルゴの肩をとんと押す。不意を突く形になったのか、そのまま後ろに倒れる。倒れこんだ体にまたがると、いつもは見上げる顔が少しだけ動揺しているように見えた。
「リノ…?」
戸惑う声には答えず、リノは右手をアルゴの頬に伸ばす。
「……っ!」
小さな黒に2つのエメラルドが映り込む。肌に触れようとすると息をのむ声とともに小さく肩が跳ねる。
赤く色の変わってしまった肌はただれ、瞼まで血管を浮きだたせたまま固まってしまっている。
閉じてしまった目は僕を映すことはない。心に浮かんだ感情に少しだけ忌々しさを覚えた。
勝手だと思う。この肌も、片目を奪ったのも、他ならない自分の父親のせいだというのに。自分はそれを知っていたはずなのに。
「リノ」
名を呼ぶ声にリノははっと我にかえる。頬を撫でていた手はアルゴの腕をつかんでいたらしく、食い込んだ小さな爪の跡が力の強さを物語っている。
「そんな顔しなくていい」
言い聞かせるようなそんな声音。少しだけ微笑んでアルゴはそう言った。
―まただ。
その顔が、昔見た表情と重なる。
―またそうやって。
彼が父と話してた時、よく見たあの表情。
―苦しいのを隠そうとする。
【リノは知らなくていい】
いつだってそうやって遠ざけた。
知ってるのに。寝ている僕の隣で、つたなく手を握ったことも。僕のことを起こさないようにと、声を押し殺しても手を離さないでずっと泣いてたことも。
でも、まだ幼なかった自分にはその涙の意味が分からなくて。
【まふぃあ】のせいでアルが泣いてるんだとずっと思って。
だから、早く大人になりたかった。
大人になれば、アルを守れると思ったから。
おもむろに手を伸ばしアルゴの頬に添える。アルゴはビクっと体を震わせると視線をそっとリノの方に向けた。向けられた視線は怯えているようにも見える。
「…リノ」
問いかける声が頭に響く。
アルは昔よりもうれしそうな顔をしてくれるようになった。
今度こそ守るって決めたんだ。
昔の僕にはできなかったけど、今の僕ならアルのことを守れる。
「アル」
まっすぐに目を見つめたまま顔を近づける。彼の胸にあてた手が少しだけ早くなった鼓動を伝えてくる。
「僕はもう子どもじゃないよ」
眼を閉じる瞬間に見えたのは頬に赤みをさしたアルの顔。唇が柔らかく重なる。
握りしめられた蝶がシャラリと音を奏でた。
早く、大人になりたかった。
「見つかったか?」
頭上からかかる声にリノは顔を上げると、こくんと頷いて棚の下を指さす。不思議そうな顔をしながらアルゴはリノの隣にしゃがみこんだ。薄暗くなった棚の下、奥の方に一層深い黒が横たわっている。
「とれる?」
その言葉に、今度はアルゴがこくんと頷く。棚の下に手を伸ばすアルゴを、リノはじっと見つめた。
普段は見上げるだけの彼の体が今は自分よりも下に見える。
こんなに成長するまで、僕はアルの隣にいたんだ。
理解するよりも早く、リノの体は動きだしていた。
「とれたぞ、リノ…」
身を起こしたアルゴの肩をとんと押す。不意を突く形になったのか、そのまま後ろに倒れる。倒れこんだ体にまたがると、いつもは見上げる顔が少しだけ動揺しているように見えた。
「リノ…?」
戸惑う声には答えず、リノは右手をアルゴの頬に伸ばす。
「……っ!」
小さな黒に2つのエメラルドが映り込む。肌に触れようとすると息をのむ声とともに小さく肩が跳ねる。
赤く色の変わってしまった肌はただれ、瞼まで血管を浮きだたせたまま固まってしまっている。
閉じてしまった目は僕を映すことはない。心に浮かんだ感情に少しだけ忌々しさを覚えた。
勝手だと思う。この肌も、片目を奪ったのも、他ならない自分の父親のせいだというのに。自分はそれを知っていたはずなのに。
「リノ」
名を呼ぶ声にリノははっと我にかえる。頬を撫でていた手はアルゴの腕をつかんでいたらしく、食い込んだ小さな爪の跡が力の強さを物語っている。
「そんな顔しなくていい」
言い聞かせるようなそんな声音。少しだけ微笑んでアルゴはそう言った。
―まただ。
その顔が、昔見た表情と重なる。
―またそうやって。
彼が父と話してた時、よく見たあの表情。
―苦しいのを隠そうとする。
【リノは知らなくていい】
いつだってそうやって遠ざけた。
知ってるのに。寝ている僕の隣で、つたなく手を握ったことも。僕のことを起こさないようにと、声を押し殺しても手を離さないでずっと泣いてたことも。
でも、まだ幼なかった自分にはその涙の意味が分からなくて。
【まふぃあ】のせいでアルが泣いてるんだとずっと思って。
だから、早く大人になりたかった。
大人になれば、アルを守れると思ったから。
おもむろに手を伸ばしアルゴの頬に添える。アルゴはビクっと体を震わせると視線をそっとリノの方に向けた。向けられた視線は怯えているようにも見える。
「…リノ」
問いかける声が頭に響く。
アルは昔よりもうれしそうな顔をしてくれるようになった。
今度こそ守るって決めたんだ。
昔の僕にはできなかったけど、今の僕ならアルのことを守れる。
「アル」
まっすぐに目を見つめたまま顔を近づける。彼の胸にあてた手が少しだけ早くなった鼓動を伝えてくる。
「僕はもう子どもじゃないよ」
眼を閉じる瞬間に見えたのは頬に赤みをさしたアルの顔。唇が柔らかく重なる。
握りしめられた蝶がシャラリと音を奏でた。