オメルタ小話
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第一回『薬』
「天城君、そちらは全部終わりましたか?」
血だまりに、肉になったばかりの体が倒れ込む。乾いた銃声をすり抜けて義延の声が耳に届いて、天城は首を鳴らして振り向いた。
爪の先についた真っ赤な血が、ハンカチへと吸い込まれていく。どうやら向こうもすべて片付いたようだ。義延の腕には目当ての物が入っているであろう袋が下がっている。
「あぁ」
ぶっきらぼうにそれだけ返したが、義延は倒れた男を見下ろしていた。実際に見ているわけではないだろうが閉じた瞳はいつでもすべてを見透かしているようで、それが無性に腹立たしかった。
「お疲れ様です。目的の物も回収できましたよ」
義延は腕に下げていた袋を軽く掲げて見せる。中を確認してみると、間違いなく指定された”薬”のようだ。
「……間違いねぇな」
「天城君。道中で捨てちゃダメですからね」
どうやら、無意識のうちに舌打ちが漏れたらしい。小さく笑って見せた義延にもう一度舌打ちをして袋を返した。義延は気にした様子もなく袋を受け取り、ふっと天城の後ろをうかがうように顔をあげた。
「そうだヨきょうじぃ!ポイってしたらボク泣いちゃうヨ!」
突然、背後から響いた声に天城ははぁと大きなため息をついた。ガリガリと頭を掻き、銃をホルダーに戻して後ろを振り返る。
「きょうじぃ~ギエン~、おつとめご苦労様だヨ」
光を映さない黒い瞳、血と硝煙に包まれた場所にはどう考えても不釣り合いな小さな体躯。間の抜けた話し方をするくせに、一瞬の隙すら見せないその姿は紛れもなく自分たちの雇い主であるトムの姿だった。
「お疲れ様です。トムさん」
「重役出勤じゃねぇか。もう全部終わってんぞ」
「二人が頑張ってくれるから、ボクも楽できて嬉しいヨ」
未だ殺気の抜けきらない二人の声にもトムはからからと楽しそうに笑った。毎度毎度、何がそんなに楽しいのかと思うくらいだった。
「ボクのことはいいんだヨ。それよりも~あった?」
一つ首を傾げたトムの瞳は義延の腕から下がる袋を真っ直ぐに見つめている。もうわかってんじゃねぇか。言っても無駄だと、そんな言葉を飲み込み天城は義延の腕から袋をひったくった。
「ほらよ。それで間違いねぇだろ」
放り投げられた袋を両手でキャッチし、トムは中身を確認する。軽く中を確かめるようにしてから、満足そうに頷いた。
「オッケー、バッチリだヨ。これで今日のお仕事は終了だヨー」
パパーン、とクラッカーを鳴らすまねをするトムを一瞥する。なだめる義延の手がなければ、一発くらい殴っていたかもしれない。
「さて、じゃあ今日の報酬だヨ」
そう言って、トムは袋の中から一つ包み紙を差し出した。
「……あ?」
「いっぱいあるから、取り返したら少しもらってもいいって言われたんだヨ。よく効くらしいヨ~?」
黒い手袋がつかむ包み紙に視線を落とす。
大麻由来の非合法薬物だと、事前のメールには書いてあった。5つ程度で市場のレートを左右できるような代物だとも。
「……喧嘩売ってんのかテメェ」
「キャー、ギエン~!きょうじいが怖いヨ」
間にいた天城をすり抜け義延の背中に隠れる。手にしていた包み紙を袋に戻すことを忘れないあたりがこのクソガキがいつものように調子に乗っていることの証明だった。
「天城君、トムさんだって本気じゃありませんよ」
「冗談ならなおのこと殺してぇけどな」
「ジョークだヨ~!。きょうじぃにはいつものを用意してあるヨ」
そう言って、今度はカーディガンのポケットから錠剤を一つとりだした。訝しい眼でそれを眺め、トムの手からうばうようにそれを受け取る。
「はい、お水だヨ」
錠剤を噛み砕き、水と一緒に流し込む。出そうと思えば、まだ文句はいくらでも出てきたが、言ったところでどうしようもないと言葉は水といっしょにのみ込んだ。トムはそれを変わらず楽しそうな眼で眺めている。人が薬を飲むところの何がそんなに楽しいのか。それなりの付き合いである今でも理由はわからないままだ。
「じゃあ、きょうじぃがそれ飲みおわったら帰るヨ」
そう言って、トムは足早に義延の手を引いていく。頭痛と共に引いた熱を置き去りにして、天城もその場を後にした。
「天城君、そちらは全部終わりましたか?」
血だまりに、肉になったばかりの体が倒れ込む。乾いた銃声をすり抜けて義延の声が耳に届いて、天城は首を鳴らして振り向いた。
爪の先についた真っ赤な血が、ハンカチへと吸い込まれていく。どうやら向こうもすべて片付いたようだ。義延の腕には目当ての物が入っているであろう袋が下がっている。
「あぁ」
ぶっきらぼうにそれだけ返したが、義延は倒れた男を見下ろしていた。実際に見ているわけではないだろうが閉じた瞳はいつでもすべてを見透かしているようで、それが無性に腹立たしかった。
「お疲れ様です。目的の物も回収できましたよ」
義延は腕に下げていた袋を軽く掲げて見せる。中を確認してみると、間違いなく指定された”薬”のようだ。
「……間違いねぇな」
「天城君。道中で捨てちゃダメですからね」
どうやら、無意識のうちに舌打ちが漏れたらしい。小さく笑って見せた義延にもう一度舌打ちをして袋を返した。義延は気にした様子もなく袋を受け取り、ふっと天城の後ろをうかがうように顔をあげた。
「そうだヨきょうじぃ!ポイってしたらボク泣いちゃうヨ!」
突然、背後から響いた声に天城ははぁと大きなため息をついた。ガリガリと頭を掻き、銃をホルダーに戻して後ろを振り返る。
「きょうじぃ~ギエン~、おつとめご苦労様だヨ」
光を映さない黒い瞳、血と硝煙に包まれた場所にはどう考えても不釣り合いな小さな体躯。間の抜けた話し方をするくせに、一瞬の隙すら見せないその姿は紛れもなく自分たちの雇い主であるトムの姿だった。
「お疲れ様です。トムさん」
「重役出勤じゃねぇか。もう全部終わってんぞ」
「二人が頑張ってくれるから、ボクも楽できて嬉しいヨ」
未だ殺気の抜けきらない二人の声にもトムはからからと楽しそうに笑った。毎度毎度、何がそんなに楽しいのかと思うくらいだった。
「ボクのことはいいんだヨ。それよりも~あった?」
一つ首を傾げたトムの瞳は義延の腕から下がる袋を真っ直ぐに見つめている。もうわかってんじゃねぇか。言っても無駄だと、そんな言葉を飲み込み天城は義延の腕から袋をひったくった。
「ほらよ。それで間違いねぇだろ」
放り投げられた袋を両手でキャッチし、トムは中身を確認する。軽く中を確かめるようにしてから、満足そうに頷いた。
「オッケー、バッチリだヨ。これで今日のお仕事は終了だヨー」
パパーン、とクラッカーを鳴らすまねをするトムを一瞥する。なだめる義延の手がなければ、一発くらい殴っていたかもしれない。
「さて、じゃあ今日の報酬だヨ」
そう言って、トムは袋の中から一つ包み紙を差し出した。
「……あ?」
「いっぱいあるから、取り返したら少しもらってもいいって言われたんだヨ。よく効くらしいヨ~?」
黒い手袋がつかむ包み紙に視線を落とす。
大麻由来の非合法薬物だと、事前のメールには書いてあった。5つ程度で市場のレートを左右できるような代物だとも。
「……喧嘩売ってんのかテメェ」
「キャー、ギエン~!きょうじいが怖いヨ」
間にいた天城をすり抜け義延の背中に隠れる。手にしていた包み紙を袋に戻すことを忘れないあたりがこのクソガキがいつものように調子に乗っていることの証明だった。
「天城君、トムさんだって本気じゃありませんよ」
「冗談ならなおのこと殺してぇけどな」
「ジョークだヨ~!。きょうじぃにはいつものを用意してあるヨ」
そう言って、今度はカーディガンのポケットから錠剤を一つとりだした。訝しい眼でそれを眺め、トムの手からうばうようにそれを受け取る。
「はい、お水だヨ」
錠剤を噛み砕き、水と一緒に流し込む。出そうと思えば、まだ文句はいくらでも出てきたが、言ったところでどうしようもないと言葉は水といっしょにのみ込んだ。トムはそれを変わらず楽しそうな眼で眺めている。人が薬を飲むところの何がそんなに楽しいのか。それなりの付き合いである今でも理由はわからないままだ。
「じゃあ、きょうじぃがそれ飲みおわったら帰るヨ」
そう言って、トムは足早に義延の手を引いていく。頭痛と共に引いた熱を置き去りにして、天城もその場を後にした。