天野家長女と日影の少女

 田園村には電車で向かうことになった。
 龍見川端・北にある薬神駅で電車に乗ってから、さくらぎ駅で中央線に乗り換える。目的地の田園村に行くには福ノ宮でやまびこ線に乗り換える必要があり、さくらぎ駅の隣駅である桜中央駅で中央快速線に乗り換えることで福ノ宮までは最短で行くことができる。
 とはいえ、福ノ宮まで距離があることもまた事実。
 なので、妖怪探偵団と雑談をすることになった。雑談と言っても大半は妖怪探偵団のみんなが話題を振り続けていたため、もっぱら私たちは聞き手に徹していたけども。

「へぇ、夏菜って結構ゲームとかするタイプなんだな!」
「個人的には夏菜さんが電光石火時代のプレイヤーだったことが今日一番の驚きだったよ」
「俺も! 姉ちゃんはそういうのあんま興味ないから、夏菜姉ちゃんも興味ないと思ってた……!」
「安心しろお前ら、コイツは立派なゲーヲタだ。この前なんかカードパックに(自主規制)円くらい課金してたぞ」
「自費なんだからいいでしょ別に!!」

 ちなみに席順は以下の通り。
 左側のボックス席に私と茨、ナツメとケースケ。右側のボックス席にトウマとアキノリ、アヤメちゃんとアカネちゃん。その後ろのボックス席には酒呑童子と洞潔が座っている。他の妖怪たちは各々好きな場所で好きなことをしていた。
 
「……ところで、ちょっといいか?」
「ん? どったのよ」
「いや、さっきから気になってたんだけどさ……」

 アキノリの視線が、茨木童子に向けられる。

「茨木童子は何やってるんだ……?」

 アキノリの向けた視線の先には、茨木童子。
 それなりにパソコンが得意なアキノリも驚愕する速度でパソコンをタイピングしている茨木童子の姿に、斜め後ろにいる酒呑童子たちも含めその場にいる面々は揃って呆然としていた。

「成績処理だな」
「アンタまだやってたの???」
「お前の成績のせいで処理が遅れてるんだよ!?」
「車内マナーくらい守りなさいよ茨」
「誰のせいだと思ってんだ……!」

 胃を押さえ、苦しそうに唸り続けている茨木童子。
 『茨木童子様』と書かれた薬袋を懐から取り出し、胃薬をラムネみたいに齧りながら胃痛と戦い始めていた。

「なんか、茨木童子も苦労してるんだな……」

 何ともいえない視線を向ける妖怪探偵団の面々。

「ってか、成績処理って何のことなんだ?」
「あ〜っ……説明するよりも見せた方が手っ取り早いか。茨、胃痛に苦しんでるところ悪いけど化けて」
「鬼かお前は」
「鬼はアンタよ」

 途端、パチンッと指の音が響き渡った。
 次の瞬間。茨木童子が座っていた場所に現れたのは、酒呑ハルヤをそのまま大人にしたような姿の青年。

「こちら、Y学園・2年A組担任の茨木シュン先生です」

 衝撃の新事実に言葉も出てこないのか。
 呆然とした表情のままフリーズする妖怪探偵団たち。酒呑童子の弟分なら化けるにしても酒呑ハルヤのような中学生の姿だと思っていたのだろう、残念ながら全くの見当違いだけども。
 途端、耳が千切れそうなほどの絶叫が響いた。
 Iちゃんが人避けの結界を張ってくれててよかった。結界の中にいれば、どれだけ叫んだって声は漏れないからね。

「で、でも、なんで酒呑くんとそっくりの姿なの!?」
「そこ???」
「兄者の戸籍云々で面倒事が起きた時、この姿を使えば都合の悪いこともいろいろ誤魔化せるだろ?」
「物凄くまともな理由だった!!」
「ちなみに教員免許も持ってるぞ。国語と体育と地歴」
「待って体育と地歴の免許持ってるのは私も初耳なんだけど!?」
「あ? 言ってなかったか?」

 平然と言うものだから怒るに怒れない。
 怒るほどの内容でもないし。それはそれとして、免許取った時に何の免許を取ったのかくらい教えてくれたっていいのに。

「今は何の先生してるんだ?」
「国語科だな。専門は古典だが」
「茨の授業、結構人気なのよ〜」
《古文ネイティブなので生徒に分かりやすいと評判ですね》
「お前らに純粋に評価されると怖いな」
「Iちゃん、殺って」
《かしこまりました、マスター》
「待て待て待て俺が悪かったって!!」

 何気に古文ネイティブが身近にいて助かるのは事実。
 私だけで古文書を読もうとすると途轍もなく時間がかかるけど、茨木童子がいれば秒で分かる。それで言ったらIちゃんも古文書の解読くらいならできるけど、古文によくあるニュアンスの違いだったりはネイティブじゃないと分からない。

「にしても成績処理にしては時間かかりすぎじゃない?」
「お前が休学したせいで成績処理が無駄に難航してんだよ」
「ちょっと、それどういう意味よ?」
「お前ってか……まぁ、正確にはお前と水瀬のせいだな」
「私と蒼?」

 水瀬──もとい、Y学園生徒会副会長・水瀬蒼。
 前世からの繋がりがある唯一の人物であり、蒼自身も前世の記憶を取り戻してからは私の頼れる右腕として働いている。休学期間は蒼が生徒会長代理として動いており、その実直な働きぶりは教師陣だけでなく生徒たちからも評価されていると聞き及んでいる。
 
「普通は休学したら三学期の成績はゼロになる。だから順当に考えるなら年間の総合順位は下がる。でも夏菜は一年の一学期から前回の期末に至るまで総合点数が五百点以上だっただろ」

 Y学園の試験の仕組みはシンプル。
 国・数・英・社・理の五教科百点満点のテスト。中でも特筆すべき特徴があるとすれば、特別点のシステムだろう。
 我が校のテストでは最後に特別問題が出題される。
 とはいえオマケ程度なので無理に解く必要はない。正解すれば満点+最大二十点の特別点をもらえるものの、その難易度は桁違いで一般の生徒にしてみれば無理ゲーに近い難問ばかりである。

「水瀬の三学期の成績を反映させたとしても、総合点で見てみると夏菜の方がギリッギリ水瀬より点数が上っぽいんだよ。だから総合順位は夏菜の方が上になる可能性があってな」
「なんでちょっと曖昧なのよ」
「マジで僅差だから今Excel使って確認してんだよ」
《そんなに僅差だったんですか?》
「何なら点数バトルの次元が違いすぎて職員室で採点してた他の教職員たち全員ドン引きしてたぞ」

 なぜだろう。
 特に理由は分からないけれど、職員室で採点している先生方がドン引きしている様子が容易に想像できる。

「あおい?」
「あぁ。水瀬蒼、Y学園の副会長をやってる私の部下よ」
「……部下?」

 私の発言を聞いたアカネちゃんが首を傾げる。

「Y学園の現生徒会長は夏菜だからな」
「なんて?」
「あと現行生徒会はもれなく全員妖怪が見える」
「なんて??」
「その生徒会の中に怪魔を素手で消し飛ばせる奴がいる」
「なんて???」

 お笑いのお手本のような反応を見せるアキノリ。
 ここに成績表があれば評価はAが付いていたことだろう。もらったところで嬉しくもなんともないだろうけど。

「それで、結局どっちの成績が上なのよ?」
「あ? あ〜っ……ギリッギリ夏菜の方が上だな。蒼も蒼で頭おかしい成績であることには変わりないんだが、それ以上にお前の成績がおかしすぎるんだよ」
「よし、首席の称号は保たれた」
「その称号、そろそろ水瀬に譲ってやったらどうだ?」
「妥協で譲り受ける首席の称号なんてアイツもいらないでしょ」

 あれでちゃんと誇りがある人間だしね。

「夏菜ちゃんってホントに頭いいんだ……」
「その上、あんなに強いんだから凄いよなー!」

 口々に妖怪探偵団が称賛の声を上げる。
 けれど聞いている私としては大変に居心地が悪い。だって、その称賛は私にはあまり似合わないものだったから。

「お前ら、なんか勘違いしてないか?」

 案の定、茨木童子が会話に割り込んでくる。

「夏菜はクッソ弱いぞ」

 容赦のない一言を聞いた面々の空気が凍る。
 「そっちの赤風船より弱い」なんて追い討ちのような一言と共にジュニアを指差したものだから、妖怪探偵団の面々は驚愕に顔を染めている。言い方は悪いけれどジュニアは妖怪探偵団の中でも弱い方に分類される妖怪だから、そういう反応になるのも無理はない。

「だとしたら、あの殺気は……」

 愕然とした表情のまま、アカネちゃんが呟いた。
 当然、あれが仕込みだとすれば茨木童子の仕業になる。しかし茨木童子は心外と言わんばかりの表情を浮かべて、隣に座っていた私に一瞥くれてから呆れたような口調で語り始める。

「言っとくが俺の仕込みじゃないぞ。夏菜に礼儀作法云々を叩き込んだヤツがいるんだが、あれはソイツが『威嚇の手段として持っていた方がいいだろう』とか言って夏菜に教え込んだんだよ」
「だから殺気の扱いだけ得意なの」
「ま、裏を返せばそれだけってことだけどな」
「でも私が危なくなった時は茨が助けてくれるでしょ?」
「じゃなきゃお前の側にいる意味がないからな」

 そう言いながら、茨木童子は私の頭を撫でた。

「確かに夏菜は弱い。が、愚かじゃあない」

 茨木童子は淡々と話を続ける。

「自分の限界をよく知っているからな」

 妖怪が見えるのに妖術が使えない。
 昔から茨木童子たちに守り続けてもらっていたけれど、どうしても自分のことが役立たずに感じることがあった。
 誰かに必要とされたくて英雄になることを望んだ。
 だけど、天野夏菜は英雄になれなかった。だから天野夏菜は誰かに必要とされる存在になるのではなく、ナツメたち──英雄の取りこぼした幸せを拾い集める存在になることを選んだ。けれど、その選択に至るまでに何度も間違った道を歩んできたことも事実。

「今でこそ自分の限界を理解しているけどな。自分の限界を見誤って犠牲を払い、危ない目に遭うことも珍しくなかった。そのたびに俺が助けて、何度も怒ったことはよく覚えている」

 何度も間違えて。何度も怒られて。何度も喧嘩して。
 そのたびに、自分の無力を嘆いて……それでも、周りのみんなに支えられながらハッピーエンドの向こうに辿り着くことができた。

「限界を知らないまま払い続ける犠牲なんて、劣等感で何にも見えてない奴が一番最初に手をつける簡単な自傷行為だ。価値を計れない馬鹿ほどガムシャラに払えばお釣りがくると思ってる」
「……茨、ちょっと言い過ぎじゃない?」
「お前に対する戒めに決まってんだろ」
《こればかりは白髪に同意します》
「さいですか……」

 ちょっとは反省しろということだろう。
 最高に格好悪い過去を知られてしまい、何だか居心地悪くなって肩を竦めながら落ち込んでいたところ。どういうわけか、妖怪探偵団の面々は気まずそうな表情を浮かべていた。
 各々に心当たりがあるのかもしれない。
 とはいえ、私たちの世界でナツメたちに同じ話をしていても似たり寄ったりな反応になっていただろう。
 
「まぁ、間違える分には一向に構わないんだがな」

 そう言いながら、私の頭を優しく叩いてくる茨木童子。

「その間違いを正すために大人がいるんだ」

 それは、茨木先生としての一言。
 何気に茨木童子は教師という職業に誇りを持っている。ゆえに、危険に身を投じる妖怪探偵団のことは案じていた。あっちの世界の妖怪探偵団もそうだけど、こっちの世界の妖怪探偵団たちは常に危険と紙一重の場所に居続けているような空気が漂っていたから。

「……じゃあ、茨木童子のことも頼っていいの?」

 率直な質問を投げかけるナツメ。
 それを聞くなり茨木童子は「もちろんいいに決まってるだろ」と言って、不敵な笑みを浮かべた。

「生徒の引率は教師の業務だ。そうだろ?」

 そう言いながら、斜め後ろに視線を遣る茨木童子。
 その視線の先にはナツメの担任の教師・島之内巌流としての姿になった洞潔がいる。眉間に皺を寄せながら深々と息を吐き、洞潔は「今回だけだ」と無愛想に言い放った。教え子であるナツメは複雑そうにしながらも、どこか嬉しそうに笑っている。

「……本当に、茨木童子さんは『先生』なんですね」

 不意に、アカネちゃんが呟いた。

「うん。自慢の先生で、自慢の鬼ぃちゃんだよ」




 目的地・田園村。
 米の名産地であり、その名の通りだだっ広い田園が延々と広がっている村。よく言えば自然豊かな場所、悪く言えば田園以外何にもない場所と言ったところだろうか。
 ただ、畦道の向こうには点々と人の姿が見える。
 情報収集は可能だろう。大人数で向かっても効率が悪いので、三手に分かれて情報収集をすることになった。

「それじゃあ、情報収集の結果を共有するか」

 情報収集といっても、そう時間がかかるものではない。
 なにせ田園村は人口五十人未満の超限界集落。地域文化部と称して調査にやってきた妖怪探偵団に対して田園村の住人たちは友好的に接してくれて、おかげで簡単に情報を手に入れることができた。
 顧問がおよそ二名ほどいたことも功を奏しただろう。
 わざわざ遠くまで来てくれてありがとう、なんて言葉と共にお菓子をいただいたりイナゴの佃煮をお裾分けされたりもした。私を始めとする妖怪探偵団の面々は都会っ子で虫を食べる文化はあまり馴染みがないため、いただいたイナゴの佃煮は茨木童子に食べてもらった。酒のツマミになるな、なんて言いながら酒呑童子たちと一緒に食べ進めていたところからするに美味しかったんだとは思う。

「まずはアキノリたちの集めた情報を聞いていい?」
「あぁ! 俺たちは村の東側の集落地域にいる人たちに話を聞いてみたんだけどな──」

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「神隠し?」

 この田園村には都市伝説があった。
 それは禁忌の屋敷とはまた別の都市伝説で、その内容としてはどこにでもあるような至って普通の神隠しの話だった。ただ、この現代に神隠しなんてそうそう起こらない、それこそ神隠しと呼ばれる現象が頻繁に起きるようなら警察が田園村に干渉するだろう。
 実際、それで何度か警察が捜査に来たこともあった。
 しかし手掛かりは皆無。唯一分かったことといえば神隠しに遭った子供たちはみんな決まって十〜十六歳の女の子だったという事実だけである。この都市伝説が若者の間で広まってしまい、ここ十数年で田園村から若者はいなくなってしまったという。

「その神隠しって、今でも起きているんですか?」

 誰よりも率先して質問を投げかけるアキノリ。
 アキノリの問いに対し、田園村の村人のうちの一人である老夫婦夫妻は揃って首を横に振った。

「いいや。最後に神隠しが起きたのはもう何十年も前のことだよ。ただその神隠しの被害を受けた家の人たちは、もう五年前の末に亡くなっていてねぇ」
「そうだったんですか……」
「行方不明になった人たちのことが知りたいのなら村の駐在所に行くといいよ。あそこの駐在さんは子供に甘いから、キミたちが頼んだら当時の記録も見せてもらえるんじゃないかな?」
「本当ですか!?」

 「もちろんだとも」と返す老爺。
 若者がいないこともあってか、老夫婦は元気溌剌としたアキノリのことを微笑ましそうに見ている。

「駐在所はどこにあるんですか?」
「村の北側さ。あぁ、北側の駐在所まで行くんなら念のため井戸のことも教えておこうかね」
「井戸?」
「駐在所までの道の途中にある井戸さ。今はもう使っていない井戸だから、あの辺りには滅多に村人も通りがからなくてなぁ……駐在所に行くのはいいけれど、暗くなる前に帰ってくるんだよ。もしも暗くなったら駐在さんに送ってもらうか、井戸の近くにある石灯籠を目印にして戻っておいで」

 親切な老夫婦はそう言って、穏やかな笑みを浮かべる。

「分かりました! ご協力ありがとうございます!」

 老夫婦と別れたのち。
 妖怪探偵団は村の北側にある駐在所を目指して歩き始める。その道中で話に出ていた井戸と石灯籠を見かけたものの、明るいうちは余程のことがない限りは危険を感じるようなものではなかった。
 その後、無事田園村の駐在所に辿り着いた面々。
 この大人数で駐在所にお邪魔しても邪魔になるため、団長であるアキノリが代表して駐在所に入っていった。

「すみませ〜ん」

 おそるおそる、駐在所の戸を引いたアキノリ。

「おや。連絡をもらっていた地域文化部の子かな?」

 駐在所の中で待っていたのは、中年の駐在。
 この駐在所に配属されて相当な年月が経っているのか、駐在の身につけている警察服はどこか年季が入っていた。

「あ、はい! って、連絡??」
「村の人たちから電話をもらっていてね。地域文化部の子たちが神隠しについて調べているから、お手伝いしてあげてくれって……事情は聞いたから、当時の記録はここに用意してあるよ」

 そう言って、駐在は当時の記録を差し出した。

「いや分厚ッ!?」
「当時はニュースで報道されるくらいの大事件になってたからね。あぁ、それとその記録は持ち帰って構わないよ」
「持ち帰っていいんですか!?」
「もちろん。元々それは破棄する予定だったしね」
「破棄……?」
「最後に神隠しが起きてからもう何十年も経っているからね」

 一般的な刑事事件の記録の保存期間は最大五年間。
 しかし、この田園村では滅多に事件が起こらない。起きたとしても住民同士の多少の諍い程度であり、それが原因で刑事事件に発展するようなことはまずない。ゆえに事件の記録を保管するための資料保管庫は基本スッカスカになっていた。
 ただ、それでもいつか記録を破棄する必要はある。
 最後に神隠しに遭った人の最後の血縁は五年前に亡くなっているため、これ以上記録を残していてもどうしようもない。そう思っていた矢先に妖怪探偵団が現れたため、渡りに船だったそう。

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「ってなことがあって、当時の資料をゲットしてきたぜ!」

 その流れのまま、分厚い資料の山が私の手元に渡る。
 パラパラと中身を捲って見てみたものの、今のところ怪奇案件の解決に繋がりそうな情報はない。そのうちどこかで役立つ可能性もあったため、一応資料は手元に置いておくとしよう。

「アカネちゃんたちは何か分かったことはある?」

 アカネちゃんは酒呑童子たちと行動してもらった。
 ぶっちゃけ朱夏が覚醒していない段階の酒呑童子たちは一ミリも信用していない。ドタバタに乗じて妖聖剣を奪っていく可能性もあったため、酒呑童子たちに監視の目を付けることにした。
 とはいえ実力を考慮すると監視役も必然と限られる。
 茨木童子を酒呑童子たちの監視役にする手もあったけど流石に茨木童子が側にいないのは危険すぎるため、申し訳ないけれどアカネちゃんに行ってもらった。

「アカネちゃんたちは村の西側に行ってきたんだっけ?」
「はい。集落地帯には皆さんが向かっていたので、集落の西側に住んでいた長老さんに話を伺ったのですが──」

 田園村の西側には老爺と孫娘が住んでいた。
 老爺は田園村の中でも最年長──長老だったため、禁忌の屋敷に関しても詳しく知っていたそう。
 禁忌の屋敷は百五十年以上前に建てられた屋敷。
 田園村の大半の人々から忘れ去られた屋敷で、確かに存在はしているものの長老でさえ禁忌の屋敷の呪いなんて馬鹿馬鹿しいと言って笑い飛ばすほど形骸化した都市伝説となっていたらしい。

「これと言って真新しい情報は無さそうね」
「はい。ただ……途中である問題が起きまして」

 眉間に皺を寄せながら、アカネちゃんは告げる。

「酒呑童子たちがなんかやらかした?」
「いえ、そうではなくて……長老さんの住まいで話を聞いていた際にお茶を出されたのですが、そのお茶に薬が混ぜられていました」
「おっと斜め上の答えが」
「薬!? アカネちゃん大丈夫なの!?」
「ただの睡眠薬だったので大丈夫です。一口含んだ瞬間に薬が混ざっていることに気付いて飲むフリだけしておいたので、向こうは薬入りのお茶を飲んだものと思っていたでしょうね」
「兄者たちも飲んじまったのか?」
「あの程度の薬でどうにかなるほど俺たちは柔じゃない」
「う〜〜〜ん流石は鬼族。無駄に頑丈」

 しかし、睡眠薬ねぇ。

「薬を混ぜたのは長老?」
「おそらく」

 なんだろう、妙に引っかかるような。

「ところで、夏菜さんはどちらで調査を?」
「私は禁忌の屋敷に行ったっていう例の子たちに連絡を取っていろいろ詳細を聞き出してたんだけど……これといって事件の解決に役立ちそうな情報はなかったわ」
「……どうやって連絡を?」
「茨の持ってたノーパソでちょちょいっと」
「スペック足りてよかったな」

 自前のパソコンはあっちの世界に置いてきちゃったからね。
 茨木童子のパソコンは業務用だからスペックは悪くない。ただ、パソコンのスペックはあって困るようなものでもない。

「こっちの世界でもあっちのパソコンは使えるのか……」
「いや、使えなかったから夏菜がセットアップした」
「どうも、IT基準プログラミング専攻です」
《デバイス類はマスターが最も得意としてる分野ですよ》
「夏菜にできないことはないのか???」

 あるっちゃある。体育なんか最たる例である。
 なんて心の中で返事をしながら、情報を集める流れで手に入れた禁忌の屋敷の情報を開示することにした。

「ただ、禁忌の屋敷の位置は特定したわ」
「マジで!?」
「どうやって特定したの?」
「フツーにG○ogleマップの航空写真使ってサクッと」
「思ったより現実的な方法だった!!」

 さっきからアキノリも忙しない。
 普段の倍くらいツッコんでいるんじゃなかろうか。禁忌の屋敷に辿り着く前に体力が尽きないといいのだけれど。

「こうなってくると、あとはもう現地に赴いて調査するくらいしかやれることがなくないか?」
「そうね。場所も分かってるから、とりあえず禁忌の屋敷を調査して……あとのことはそれから考えましょうか」





「ここが、禁忌の屋敷……」

 禁忌の屋敷は田園村の隣・廃村の山奥にあった。
 屋敷そのものはもはや廃屋と言っていいくらいにはボロボロで、長年手入れされていないせいで屋敷全体に蔓やら蔦やらが絡んでいる。事前情報の通り、禁忌の屋敷に出入口は存在していなかった。
 しかし窓ガラスが破壊された痕跡がある。
 屋敷に入る分には、ここから入れば問題ないだろう。ちなみに、屋敷の中に入るメンバーは既に決めてある。

「まずは一階、それから二階の探索か」

 妖怪探偵団は屋敷の外で待機することになった。
 護衛のためIちゃんを妖怪探偵団のところに残しているので、もしも何かあったとしても暫くは持ち堪えてくれるだろう。
 メンバーを絞った理由は至って単純。
 実質的な禁忌の屋敷の出入口は割れた窓ガラスのあるこの場所だけであり、もしも何かが起こって離脱するとなった時に出入口で詰まってしまうから。それと、屋敷の中で何かが起こった時でも咄嗟に戦闘ができる面子に絞った。
 
「にしても、なんでまた夏菜が着いてくるんだよ……」

 ただひとり、私という名の例外を除いて。

「ちょっと嫌な予感がするのよ」
「なら仕方ないか……」
「それは仕方ないで済ませていいんですか?」
「まぁな。夏菜の嫌な予感は大体当たる」

 それはそう。自分でも第六感に自信はある──。

 けれど、今回の嫌な予感は部類が違っている気がする。
 そもそも私は今回の怪奇案件の内容をどこかで聞いた覚えがあるような気がする。いつだったのか、ハッキリ思い出せないけれど少なくともここ一年以内くらいにどこかで似たような話を聞いていたような……それが思い出せないから困っているのだけれども。

「行くぞ」

 そうこう考えているうちに酒呑童子が屋敷の中に入った。
 続いて茨木童子と一緒に禁忌の屋敷に入ってみたところ、どこか重苦しい空気が肌を撫でる。今までにない瘴気の気配を感じたと同時に、本能が今までにない勢いで危険信号を出していた。
 隣を見てみれば、アカネちゃんも息を詰まらせている。
 しかし真正面にいる茨木童子たちは平然とした様子。鬼族が瘴気に対する耐性があることは聞いていたけれど、だとしてもここまで耐えられるのは尊敬に値すると思う。

「……おい、お前ら大丈夫か?」
「これくらいなら……問題ありません」
「瘴気が思ったより濃くてビックリしたわ……」

 屋敷の中は外観に反し、存外綺麗なものだった。
 ここは屋敷の廊下に当たる場所らしい。酒呑童子たちが襖を開け放ちながら探索する姿を横目に、板張りの廊下を伝って屋敷の奥に進もうとするアカネちゃんの方に着いていくことにした。
 
「……茨木童子と一緒にいた方がいいのでは?」
「屋敷の奥に向かうなら私も行こうかな〜って思って。奥に行くってことは、例のものがあるかもでしょ?」
「……絶対に前に出ないでくださいね」
「もちろん。分は弁えるから、安心して」

 アカネちゃんの後ろを歩きながら、廊下を進んでいく。
 廊下の向こうにあった襖を開いて座敷の中に入っていったアカネちゃんに続き座敷に入ろうとしたところ、畳縁に足を引っ掛けてしまい顔面からズッコケてしまった。

「だ、大丈夫ですか?」
「鼻を中心とする顔面が痛い……ってか靴脱げたし……」
「畳の縁に靴が引っかかったみた──」
「…………ん? アカネちゃん、どうしたの?」
「夏菜さん。ここの部分……」

 アカネちゃんが畳と畳の境目に視線を遣っている。
 改めて調べてみたところ、その境には人工的な跡が残っていた。転倒した時に私が付けたものではない。パッと見の判断だけど、この畳を剥がした時に偶然できてしまった痕跡のように思える。
 試しにアカネちゃんが私の転んだ畳を叩いた。
 次いで、他の畳を叩いてみる。聴覚を研ぎ澄まし、叩いた時の音の違いを確認したけれど、何度確認しても私が転んだ畳だけ他と違って叩いた時の音が反響しているような気がした。

「……確認してみましょうか」

 とはいえ流石に素手で畳を剥がすには無理がある。
 なので梃子の原理を応用し、アカネちゃんが自身の剣を使って畳を上手いこと引っ剥がしてくれた。

「…………これは……」
「あ〜っ、な〜るほど……?」

 畳の下にあったのは、白骨化した遺体の山々。
 パッと見で分かりやすい頭蓋骨だけ見て判断してるけど、十……下手したら二十近くはあるんじゃなかろうか。

「アカネちゃん、茨たちを呼んできてもらってもいい?」
「……夏菜さんは」
「待ってる間にこの遺体の山の検死をしておくわ」
「できるんですか?」
「簡易的なものだけどね」
「……分かりました、何かあればすぐに呼んでください」
「了解」

 アカネちゃんを見送ってから検死に移る。
 頭蓋骨の形だったり骨の形だったりから察するに、年齢層は大体十代前半で性別は女性。ただ死因が特定できないほど朽ちているため、相当な時間が経っていることが伺える。
 遺体があった場所が畳の下だったのも不運だった。
 日本の住宅環境的に畳の下には湿気がこもりやすいので、土中と同じかそれ以上の速度で劣化が進んでしまう。

「夏菜!!」

 その直後、茨木童子が文字通り飛んでやってきた。
 来るなり畳の下に眠っていた白骨化遺体を見て目を見張ったものの、特段取り乱しているような様子はない。
 茨木童子に続いて酒呑童子たちも部屋に入ってくる。
 現代社会じゃそうそうお目にかかれない数の遺体を見て眉を顰めたものの、こちらも取り乱している様子はなかった。元々は戦乱の世を生きていた妖怪なので、この程度は慣れているのだろう。

「お帰り。こっちは検死が終わったところよ」

 服の裾を軽く払ってから、穴の淵から離れる。

「一応検死はしたけれど、劣化が進みすぎてて死因はまともに調べられそうもなかったわ。分かったことといえば、どの遺体も年齢が十代前半で、死後相当な時間が経っているとだけ」
「そう……ですか」
「茨たちの方はどうだった?」
「二階に行くための階段以外、見事に何にもなかったな」
「ってことはこっちがアタリだったってことね」

 当たっても全く嬉しくない籤を引いてしまったものだ。
 
「にしても、この仏はどっから湧いて出てきたんだよ?」
「どう考えたって死体遺棄でしょ。畳に人工的な跡があったからこの畳の下にあった……わけ、で──?」

 待った、それはおかしい。
 だってこの屋敷に出入口はなかった。私たちが入ってこれたのは前に来た子たちが窓ガラスを割って入ってきていたからで、冷静に考えたらこの遺体はどこから出てきたという話になる。
 この屋敷ができた時からあったものなのか。
 いいや、そんなわけない。この屋敷ができたのは少なくとも百五十年以上前、その時から遺体がここにあったのであれば流石に遺体は朽ち消えているはず。

(…………まさか……)

 脳裏に嫌な予感がよぎる。

「…………ん?」

 あれ、ちょっと待って──。

「……ねぇ、アカネちゃんは?」

 そう呟いた瞬間、私以外の全員が息を呑んだ。
 さっきまでアカネちゃんは背後にいたのに、考え事に集中していたせいで後ろの部屋に繋がる襖が開いていることに気付いていなかった。酒呑童子たちも気付いていなかった辺り、この大量の遺体のせいで多少なりとも状況把握能力が削がれていたのだろう。

「ッ……!?」

 即座に襖の向こうに視線を遣る。

「アカネちゃん──ッ!!」

 襖の向こうにあったのは、情報通りの光景。
 
 例の鏡台と長い髪が掛けられた棒が置いてある。
 書き込みの情報じゃよく分からなかったけれど、それは女の後ろ姿を模したような様相を呈している。アカネちゃんは髪の掛けられた棒の向こう、例の鏡台の一段目の引き出しを開けていた。
 アカネちゃんを呼び止めようとしたところ。
 突然、脳裏に微かな音が響いた。否、これは音じゃなくて声だ。ノイズ混じりのように途切れ途切れに聞こえていたそれは、やがて徐々に音としての形を結び始める。


[ 開けろ ]

[ 開けろ ]

[ 開けろ ]


「ッ……!?」

 脳に直接響き渡る声に意識が支配される。
 警鐘を鳴り響かせている本能に反し、アカネちゃんのいる鏡台の前まで歩みを進めてしまう。自分の頭の冷静なところがそれを止めているにもかかわらず、まるで操り人形のように、手が、足が、勝手に鏡台の方に向かって動いている。
 
(茨……ッ!)

 視界の端にいる茨木童子は地面に膝をついている。
 酒呑童子たちも同様にあの声に抗っているのか、地面に膝をつき頭を押さえながら蹲っていた。

(止まれ……止まれッ……!)

 最後の足掻きとばかりに強く願った──その時。

「…………え?」

 突如、真紅の業火が私の体を覆い尽くす。
 熱くはない。ただ、ペンダントに通していた勾玉が異様なほどの熱を帯びていることだけは確かだった。

「ッ、アカネちゃん!!」

 アカネちゃんは二段目の引き出しを開けていた。

 おそらく、あの声に抗えなかったのだろう。
 咄嗟にアカネちゃんの手を掴んで鏡台から無理やり引き離せば、体の主導権を取り戻すことができたのかアカネちゃんは荒々しく息を吐きながら地面に崩れ落ちた。
 茨木童子たちは無事なのか。
 辺りを見渡して茨木童子たちの様子を伺ってみれば、茨木童子たちも荒々しい息を吐き出しながら倒れ伏していた。

「アカネちゃん、大丈夫!?」

 腕の中に引き込んだアカネちゃんの体は冷たかった。
 浅く呼吸を繰り返したのち、だんだんとアカネちゃんの呼吸が元に戻る。それに伴って体温も元に戻っていき安心していたところ、やっとアカネちゃんが口を開いてくれた。
 
「すみません、助かりました……」
「よし、会話できるなら精神面は問題なさそうね。そこに落ちてるマダオども! 体力に余裕があるならアカネちゃん抱えてちょうだい、一度ここから離脱するわよ」
「おい何だマダオって……」
「まるでダメな鬼の略に決まってんでしょうが」
「ぐぅの音も出ねぇ……」

 少なくとも今回は本当に役に立たなかったからね。

(とはいえ……)

 今回ばかりは私も危なかった。
 勾玉の中に眠っている『ミカドの子』がいなければ、今頃どうなっていたことか……おそらく、今回の場合は『ミカドの子』が同じミカドの血を引いているアカネちゃんのピンチを感じ取ったことで一時的に目覚めてくれたのだろう。

「調査を中断してもいいのか?」
「茨たちでも対処ができないんじゃ流石に危険すぎるもの。それにあの怪奇案件の正体に目星が付いたから、もうこんな薄気味悪い場所を調査しなくてもいいのよ」
「正体が分かったんですか?」

 「一応ね」と返しながら、深々と息を吐いた。

「いつから目星をつけてたんだ?」
「うすらぬらの書き込みを見た時点で察しちゃいたわよ。実物を見るまでは確証がなかったから黙ってたけど……それとアカネちゃん。ちょっと聞きたいんだけど」

 スマホのメモに文字を入れ、アカネちゃんに見せる。
 アカネちゃんは酒呑童子に抱えられたまま移動しているため、腕の中からスマホの画面に視線を移した。

「あの引き出しの中にあったのって、この字?」
「ッ……はい。この文字でした……!」
「ビンゴね。確定したわ、この怪奇案件の正体が」





「それで、夏菜。今回の怪奇案件の正体は何だ?」

 禁忌の屋敷から離脱した後。
 念のため屋敷から離れて、廃村の中にあった比較的綺麗な平屋に妖怪探偵団の面々と共に集合することとなった。屋敷の中にあった遺体などの一部の情報は伏せ、あの屋敷で起きたことを話し終えたところで茨木童子が神妙な口調のまま問いかけてくる。
 
「今回の事件の正体は──パンドラよ」

 一同揃って「パンドラ?」と首を傾げる。

「順を追って説明しましょう」

 今回の事件の正体であるパンドラ。
 パンドラと呼んではいるものの正式名称が分からないため便宜上そう呼んでいるだけであり、パンドラの真の正体は無数の人間たちの怨念の成れの果て──そう表現すべきだろう。
 屋敷の中で見た紙。そして、鏡台。
 あれは、ある家系に代々伝わる呪術を完成させるために用いられる道具だった。それ自体は他者に害を及ぼすようなものではない、しかしタチの悪い呪いであることに違いはないだろう。

「呪術……呪いですか」
「何の呪いなんだ?」
「楽園に行くための呪いよ」
「楽園に行くための呪い……?」
「詳細な部分は省いて、要点だけ話すわ」
 
 昔々、ある一族がいた。
 その一族は代々とある儀式を受け継ぎ、その儀式を完遂することによって母親は楽園と呼ばれる穢れなき世界に到達することができるとされている。その儀式に必要なのは自分自身の娘であり、儀式のため娘には隠し名と呼ばれる特別な名前が与えられる。
 この隠し名は母親だけが知っているもの。
 隠し名の読み方を知られると呪術が成立しないため、基本的には漢字と全く違った読み方が当てられる。ゆえに、引き出しの中にあった文字の読み方は私にも分からない。

 隠し名を付けたのち、娘は儀式の道具になる。
 一度目は十歳の時、二度目は十三歳の時、三度目は十六歳の時、それぞれの誕生日に儀式を行う。三度目となる娘の十六歳の誕生日に母親が娘の髪を食い尽くすことによって儀式は完遂され、母親は決して穢れなき世界に到達するのだとか。

「私が屋敷で見た、あの文字は……」
「その一族の娘の誰かしらの隠し名でしょうね」
「ってことは、あの引き出しの三段目には……」

 一段目と二段目には娘の名前を書いた漢字。
 三段目には、娘の名前の読み方が入っていると見て間違いない。おそらくあの呪術は三段目の引き出しを開けることで呪いとして成立するものだろう、正気を失ってしまった子は運悪くその呪いを成立させてしまったわけだ。

「そんなもののために、自分の娘を道具に……」

 あまりの衝撃に絶句するナツメたち。
 楽園に行くために娘を生贄として強制させる悪習なんて、現代を生きるナツメたちにしてみればショックだっただろう。

「……ところで、夏菜さんはどこでこの呪術を?」
「蒼が実家の倉の中から持ち出した文献から。蒼の家、無駄に歴史が長い名家だからそういう類の文献もたくさん保管されてたっぽくて……その中に今回のパンドラと同じ呪術の文献があったのよ」
「蒼……あぁ、アイツの実家は旧華族だったか」
「そ。大半は蒼が解読してくれてたんだけど、一部どうしても読めないものがあったらしくって……文献を私に寄越してくれたはいいものの私も忙しくってちょっとしか読めてなかったのよね」

 確か、文献そのものはファイルの中にあったはず。
 スマホをスクロールしながらデータを探せば、茨木童子がどこか感心したような息を吐きながらこちらを見てくる。

「それにしたって、よくそんなもん覚えてたな」
「内容が内容だったから……まぁ、見ればわかるわ」

 そう言いながら、転送ボタンを押してやる。
 茨木童子にのスマホに転送されたのは古い文献のデータ。もちろん、全文に渡って古文なのでナツメたちが覗き込んだところで読めないし多少は古文が得意な私でも読むのに時間を要する。
 にしても、あの時は何で読むのやめたんだっけ。
 あぁそうだ。呪いの概要まで読み込んだ辺りで寝落ちして、そのまま文献の存在ごと忘れてたんだわ。

「おい待てこれ全部で何ページ分あるんだ!?」
「十飛んで五十くらい?」
「ふっざけんなよお前マジで!?」
「解読ガンバ☆」
「あ〜〜〜ったくしょうがねぇなぁ……!」

 スマホの中にある小さい文字を読み込んでいく茨木童子。
 それを憐れんでか途中から酒呑童子たちも手伝ってくれていた。何気に酒呑童子がお兄ちゃんしているところは初めて見た。

「あの、ちょっといいかな」

 その時、トウマが話しかけてくる。

「結局、パンドラはどうやって倒すの?」
「パンドラの本体を叩くしかないでしょうね。ただ、あれは呪いとして完成しすぎちゃってる。無差別に人々を傷付ける怨念のカタマリになっているから、パンドラを形成する呪術の媒体になってる鏡台を破壊すれば本体が出てくると思うわ」
「そ、そのパンドラって本当に倒さないとダメなの……?」
「ダメでしょうね、あのままパンドラを放置していたらいずれパンドラの呪いが暴走して大変なことになるわ。た〜だ、あのパンドラは他と違うような気がしてならないのよね……」

 これまでに積み重なってきた母親の呪い。
 それ以外の要素もあるような。少なくとも、あれは私の知っているパンドラよりも業が根深そうな気がする。

「さて、それじゃあ始めましょうか」

 呪いに決着をつけるために。
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