未来ifストーリー


・以前投稿した未来ifのリメイク版です。
一応オチをつけてありますが、前半部分は以前投稿したものと同じところがあります。



「あ〜っ……まだ思ったより時間ありそうだなぁ」

 吾輩は妖怪である。
 名前はあるがさして本名を名乗るほどの者でもないので、今回は便宜上その界隈で使っているハンドルネーム・天野ファミリー推しのMと名乗ることにいたしましょうか。
 さて、皆さんは推しという言葉をご存知だろうか?
 ○○推し──この中に入る言葉は様々あるが、一般的に考えられるのはアイドル推し・俳優推し・スポーツ選手推し・アニメ推し等々、もはや星の数ほどの種類があると言っていい。

 そしてもちろん、この私にも推しがいる。

(どうせ今頃ネット民たちも全力待機中してるんだろうなぁ)

 ここで改めて公言しておくが、私は天野家推しである。
 この妖魔界に天野家を知らない妖怪なんていないだろうが、あえて補足として説明をさせてもらう。

 妖魔界放送協会・YHKの大人気番組──。
 その名も『元・伝説のウォッチ使いとその仲間たちが行く! 妖魔界グルメスポットツアー!』という……人間の身でありながら、かつて幾度となく妖魔界を救った元伝説のウォッチ使い・天野ケータと愉快な仲間たちが妖魔界のグルメスポットを巡る番組である。
 私がこの番組と出会ったのは今から数年前のこと。
 不慮の事故によって妖怪になってから数年が経ち、妖魔界で暮らすことにも慣れつつある中で天野ケータの存在を知り。元とはいえ伝説のウォッチ使いと呼ばれるほどの存在なのだから、まさに雲の上のような人間なんだろうと思い続けていたのだが……この番組に登場する天野ケータを見たことで、その考えは一変した。
 本来この番組はその名の通りグルメが見どころだ。
 けれど、それ以上に元・伝説のウォッチ使いとそのトモダチ妖怪たちの掛け合いが楽しそうで。何よりトモダチ妖怪と一緒に過ごしている天野ケータは、どこまでもフツーの人間で──。
 
(なんだかんだ、気付けば私も推してたし)

 この番組の主演は天野ケータ。
 しかし時々ゲスト出演で天野ケータの子供で天野ナツメとその弟のケースケ、それから彼らが所属する妖怪探偵団のメンバーが出演することがある。妖魔界を救ったことのある彼らの影響力はそれはもうエゲツないもので、出演するだけでネットが騒ぎになる。
 その中でも人気なのはやはり天野家の登場回だ。
 やたらバラエティに富んだ掛け合いをするこの親子は、人間界・妖魔界を問わずあらゆる世代から絶大な支持を得ていた。もちろん、人気の秘訣はそれだけじゃないけれど。

(おっ、妖Tubeで切り抜き動画上がってるじゃん!)

 さて、今日の放送が始まるまではまだ時間がある。
 しかし待ち時間を無駄にはすまい。片手で酒のツマミを用意しつつもう片方の手に持っていたスマホで某動画サイトを開いて、過去の放送回の切り抜きまとめ動画を見ることにした。

『今週のお便りコーナー!!』

 この番組では時々お便りコーナーが開催される。
 最初はちょっとしたオマケ的なコーナーだったのに、番組が人気になっていくにつれレギュラーコーナーになり。
 しかも届けられたお便りの中には天野ケータに関連する人物に対するお便りなどもあり、ファンサービスなのかありがたいことに天野ケータは話せる範囲でお便りに返信してくれるのだが……何を隠そうこの番組の人気の秘訣は、このコーナーにある。

『今日のお便りは……あ、また夏菜に関する質問か』
 
 天野ケータには三人の子供がいる。
 表立ってテレビに出演しているのは天野ケータの子供のうち下二人であって、最年長たる長女は一度も出演していない。

(なんてったって、天野ケータの長女は──)

 妖魔界のトップの妻・妖魔界王妃なのだから。

 天野ケータの子供の中で最年長にして長女・天野夏菜。
 夏菜様は人間界の一般家庭の生まれだが、この妖魔界の頂点に立つ大王様に嫁いで王妃にまで上り詰めた人物だ。
 けれど王妃様は滅多に閻魔宮殿の外に出てこない。
 ただ時々公務の際に公の場に現れる王妃様は息を呑むくらい美しく気品のある御方で、その華やかな容姿と元一般人と思えないほどに優雅な振る舞いによって幅広い世代からの支持を得ていた。
 何よりあの天野ケータの娘であり、さらには妖魔界の救世主の称号を与えられているというダークマターを煮詰めて生み出されたような存在。一般の妖怪たちからしてみれば王妃様はまさしく秘密に溢れた謎多き御方──何より、人間も妖怪も隠されている秘密があれば誰しも真実を知りたくなるものだ。

【初めまして、今回初めてお便りを送らせていただきました。王妃様に関する質問です──父親のケータさんから見て今の王妃様と人間時代の王妃様はどれくらい違いますか?】

 この番組の人気の秘訣。
 それは、今までヴェールに隠されていた王妃様に関する質問も快く受け付けてくれることにある。

『今の夏菜と昔の夏菜か……そう変わってないかな?』
『昔からフツーに女傑だったニャア』
『何なら年々レベルアップしてる気までするでウィス』

 天野ケータの他の子供たちは調べれば情報が出てくる。
 しかし王室に入っていることもあってか王妃様の情報に関しては全く出てこないので、天野ケータのファン……並びに一部の王妃様ファンはよく番組にお便りを送って質問をすることが多い。
 天野ケータ曰く、シスコンでブラコン、重度のワーカーホリック、コンピューターのシステム系が物凄く得意、元々Y学園という人間界の名門校で生徒会長をしていた──他にも天野ケータからは今まで様々な王妃様の人物像が飛び出してきていた。
 そのどれも現実離れしていて荒唐無稽なものばかりだったため、案の定ネット民からは『んな奴いるわけないだろ嘘乙』など、当たり前すぎるコメントが飛び交っていたのだが。

【俺生きてた頃に王妃様の通ってた学校にいたけど実際王妃様に関して出てる情報はほぼ事実だぞ。何なら天野ケータが情報出してないだけでもっと凄かった。証拠はこれでどうだ?】

 と一部ネット民から次々に爆弾が投下された。
 王妃様本人の顔写真は出さない代わりに、王妃様が通っていたという学校のテスト順位表だったり王妃様が仕事している後ろ姿であったり王妃様がパソコンをタイピングしている時の写真が。
 テスト順位は堂々の一位。
 特に王妃様が通っていたのはY学園。日本の中でも最上級の頭脳を持つ者たちが集うY学園の生徒の中のトップを取っていたのだ、
 ちなみにこれは後に判明したことなのだが、テストの順位王妃様の名前の隣にいた人は現在総理大臣をしているようで案の定ネット上は騒ぎになっていた。

【待って、これヨップル社から販売されてたプログラムじゃ?】
【どゆこと???】
【正確には新型妖怪パッドに搭載されてるプログラム。これ確か数年前にヨップル社が人間界にいるプログラマー・Skyと業務提携して作ったものだって発表されてなかったっけ??】
【それじゃあ……Skyって】
【もしかしなくても王妃様!!?】

 投稿された写真は瞬く間に妖魔界中に拡散。
 拡散した写真の中に写っていたパソコンの画面の中に、以前ヨップル社から販売されていたプログラムを見つけたヨップル社の元社員を名乗る妖怪がインターネット上にアップした情報。
 そこから芋蔓式に点と点が繋がり。
 Skyがプログラマーを引退した年と天野夏菜が人間としての死を迎えた年が合致していることを知った面々は、ネットに散らばっている情報のほぼ全てが事実であることにも気付いてしまった。

 妖魔界王妃は人間時代に伝説のプログラマーだった。
 情報学などの分野を五百年先までひとっ飛びに発展させた伝説の人間──これが王妃様であるということが公に知られるようになったことで王妃様の知名度は爆発的に広がることとなり、老若男女あらゆる世代が王妃様という存在に興味を抱くきっかけとなった。
 
【だって、気になって仕方がないんだよ!】
【何だか凄く親近感が出てくるよな】
【分かる。王妃様って、一体どんな人なんだろう?】

 ご本人は全く閻魔宮殿から出ていないのに次々に情報が公開されていき、気付いた時には『普段は表舞台に出てこないけど実際は物凄い女傑・天野夏菜』という王妃の存在に惹かれるようになった。
 そう思ったのは決して己だけではなかったようだ。
 もちろん今ここにいる己もまたファンの一人である。
 日を追うごとに王妃様がどのような御方なのか気になってくる。今日もまたこの番組から新たな王妃様の情報を得るために、このテレビの前で待機してしまうのだ。
 
「ってヤバい、もう始まってるじゃん!」

 そうこうしているうちに気付けば番組が流れ始めていた。

『皆さんこんにちは、天野ケータです!』
『妖怪執事のウィスパーでうぃす!』
『ケータのトモダチ妖怪のジバニャンだニャ!』

 テレビの向こうに現れたのは、天野ケータたち。
 
『さ〜て、本日やってきたのはこちら!』

 今日やってきたのは妖魔界でも人気のカレーハウス。
 どこか小洒落た雰囲気のログハウス風のお店で、店内は木と緑が調和した落ち着きのある空間となっている。平日なので来ているお客さんは少ないけどネットの評価を調べたところ☆4.8と相当な高評価がついているので味に間違いはないようだ。
 中でも店主自慢のスペシャルカレーは大人気だという。
 ちょうど今の時期は名物のギガ盛りスペシャルカレー大食いチャレンジをやっているらしく、天野ケータがマイク片手に店主さんに対して楽しそうにインタビューをしている。

『ギガ盛りスペシャルカレーですか?』
『そうネ! 全部食べ切れたらお会計無料&デザートにアイスがついてくるけど、今のところ食べ切れた奴は一人しかいないヨ! 大食いタレントも諦めるレベルネ!』
『その食べ切れた人は?』
『食べ切った後にまたカレーお代わりしてたヨ!』
『その人何者なんでうぃす……?』
『ひも爺かつまみぐいのすけニャン?』
『ちょうど今もギガ盛りスペシャルカレーにチャレンジしてる人いるネ! お味はその人にインタビューしてみるといいヨ、ほらあっちの席で静かに食べてるからネ!』
『早速インタビューしてみるニャ!』

 そう言って、マイクを持って移動する天野ケータたち。
 対象は窓際に座っているサングラスの女性。
 自身の背丈の倍はあろう量のカレーを優雅に食べながら、口元に幸せそうな笑みを浮かべている。女性がひとしきり食べて口元を拭き始めたタイミングで、天野ケータが話しかけに行った。
 
『あの〜すみません、ちょっといいですか?』

 『あ、はい……』と返事をしながら振り返った女性。

『って、父さんじゃない』

 ──父さん?

『……え?』

 思考はフリーズしつつ、テレビから目は離さずにいる。
 天野ケータが呆然と目を見開いていると、女性は身につけていたサングラスを優雅な所作で外し──。

『え……えええええええーーーーーーッ!!?』

 その席に座っていたのは──王妃・天野夏菜様その人。
 ご公務の際には化粧をして豪華な衣装を着ているため華やかな印象を受けるが、その時と違って今カメラの前にいる王妃様は至ってシンプルな青のワンピースを身につけていて。おそらくオフスタイルであろうその姿は、シンプルながら上品で清楚な印象を受けた。
 噂通り、天野ナツメとそっくりな容姿だ。
 強いて言うなら違うのは髪型くらいなもので、黒瑪瑙のような瞳とそれなりに整った顔立ちに相違はない。誰がどう見たって一目で天野ナツメと血縁関係にあると分かる容姿だった。

『夏菜ぁぁぁ!!?』
『うぃすぅぅぅ!!?』
『ニャンでいるんだニャ!!?』

 案の定、テレビから天野ケータたちの絶叫が響く。
 収録現場にいたであろう人たちやカメラの人たちもあまりの驚愕にザワついていたり。カメラの人に至っては王妃様のことを撮影していいのか分からないようで、緊張からか画面が揺れている。
 って正直に状況の解説をしている場合じゃない!
 ネットのチャット欄を見てみればやはり阿鼻叫喚状態で、コメントが流れる速度がエゲツないことになっていた。

【超速報・まさかの王妃様降臨】
【なんでカレーハウスにいんのこの御方!?】
【えっ、もしかしてお忍びってコト!?】
【普段の華やかな姿もいいけど、これはこれで……】
【待ってよく見たら王妃様すっぴんじゃない!?】
【いやいや王妃様って今三十路でしょ? 流石に化粧なしは……いやカレーハウス来るんだったらすっぴんにするか、もし辛いの食べたら化粧崩れる可能性メッチャ高いし】
【そもそもお忍びだから化粧する必要ないだろ】
【ただやっぱり王妃って呼ばれるだけはあると思う】
【分かる。なんか、所作がどれも凄い上品なんだよな】

 怒涛の勢いで流れていくコメントにもれなく賛同する私。
 流石に人気女優とかと比べたりはできないけれど王妃としては十分すぎるくらいには綺麗で、何よりただ椅子に座ってカレーを食べているだけなのに所作の全てから品格が滲み出ている。
 本当に彼女が王妃様なんだって──改めて思わされた。

『なっ、なんで夏菜がここに……?』
『休暇よ。前にカイラ様が鬼族の里に寄った帰りにここのカレーを食べに来てたみたいで、カレーが美味しかったって話してたから私も食べに来てたのよ』
『カイラまで来てたのか……』
『ちょうど、私が食べてるのと同じものを食べてたらしいわ』
『……それ、ギガ盛りスペシャルカレーだよね?』
『そうよ?』
『もしかして、この店で初めてそれを完食した人って』
『カイラ様だけど』
『夫婦揃って何やってんの!!?』

 大王様を呼び捨てで呼べる天野ケータも大概な気はする。

『そういえばカイラの姿は見当たらないけど……』
『カイラ様たちはお留守番。たまには一人で羽伸ばしてこいって、カイラ様と子供たちに送り出されちゃって……今頃、子供たちはカイラ様にみっちり稽古してもらってるんじゃないかしら』
『う〜ん英才教育』
『でもここ最近は公務が続いててカイラ様も子供たちと一緒にいられる時間が少ないって嘆いてたし、蒼炎も寂しそうにしてたから。お稽古とはいえ、一緒にいられるのは嬉しいと思うわ』

 大王様と王妃様の間には二人の子供がいる。

 王女・セイラ様。
 お二人の間に生まれた第一子であり今年で八歳になる。
 父親譲りの顔面の造形と美しい蒼の色彩を受け継いでおり、その美貌だけでなく天賦の才と言えるレベルの体術・妖術の実力、母親譲りの知的好奇心を兼ね備えたサラブレッド。
 それから王太子・蒼炎様。
 お二人の間に生まれた第二子であり今年で五歳になる。
 同じく父親譲りの顔面の造形美と僅かに紫がかった色彩を持つ美少年。まだ幼いながら姉を凌ぐほどの妖力を持っている。

『あ〜っ……ところで、インタビューしても大丈夫そう?』
『うん? あぁ、そっか父さんのテレビ番組か』
『ついでに夏菜宛に届いてるお便りにも答えてほしくて』

 それ本人に言っちゃうんですか!?
 案の定ネットのチャット欄はお祭り騒ぎ状態で、先程よりも凄まじい勢いでコメントが流れていく。

【王妃様が食レポ!?】
【ヤバイヤバイヤバイ!】
【父親だからできる技】
【天野ケータヤベェ】
【待ってホントに王妃様がお手紙答えてくれるの!?】
【不敬罪に当たらないよな……!?】
【これ失礼なこと書いた奴、今頃白目剥いてるだろ】

 oh、これは確かにヤベェ。

『う〜ん、ちょっとカイラ様に電話して聞いてみる』

 カイラ様に電話して聞いてみる???

 待って、大王様に気軽に電話していいの?
 というか大変失礼なのは分かっているけども大王様が携帯を持っているシーンを思い浮かべられない。なんか高級そうな紙の上で筆を滑らせているようなイメージしかないのだが。
 案の定、ネットも『???』で埋め尽くされている。
 ここまで来てさらにコメントが流れる速度が一気に加速して、とうとう目視じゃ追いきれなくなってきた。
 
『……あ、もしもしカイラ様?』

 しかもワンコールで電話が繋がったーーーーッ!?

『今偶然父さんの番組の撮影に居合わせちゃって……あぁ、うん。一応カイラ様の許可もらっといた方がいいかな〜って……もちろん何かあればすぐに茨を召喚するから』

 茨って……どちらさまだろう。
 まだ王妃様のファンになってから日が浅い私には分からなかったのでネットを見て調べてみる。凄まじい速さで流れていくコメントのログを追いかけてみれば、やはり王妃様と『茨』がどのような関係なのか知らない人も多かったようで。

【茨って誰?】
【鬼族の親善大使やってる奴か?】
【ってことは茨木童子?】
【え? 王妃様と茨木童子ってどんな関係なの?】
【最古参俺登場也。茨木童子は王妃様の元眷属で、王妃様が亡くなった時に眷属の契約が切れたんだがその後も繋がりがあって今でも時々王妃様に呼び出されてるらしい】
【つまり公認の愛妾(男)ってコト!?】
【違う違う、茨木童子は王妃様の鬼ぃちゃんだよ】
【前に鬼族のインタビュー記事の中に茨木童子特集があったから見たことあるぞ。曰く三歳くらいの時に眷属の契約して面倒見てたらしいから、まず愛妾になろうなんて思わんだろ……】

 成程、つまり茨木童子は王妃様の兄的存在なのか。

『いいの? ありがとうカイラ様!』

 いつの間にやら許可出ちゃってるし。

『フツーに許可出たわ』
『それはよかった』
『あと大王権限で今回このロケで私に関わる人たちに対して一切の処罰を与えないってことにしてもらったわ。一応言質はもらってあるからスタッフさんたちも安心してちょうだい』
『大王権限が強すぎるニャン』
『なんだかんだ奥さんはゲロ甘ですよねぇ……』
『何言ってんの、子供にもゲロ甘よ』
『とりあえず、今日のゲスト枠って扱いでいいのかな?』
『その辺りは好きにしてくれて構わないわ』
 
 配慮が凄い。
 わざわざ大王様がここまでしてくれるなんて、やっぱりこの人は本当に王妃様なんだなぁ……って。

『それじゃあ、早速インタビュー!』
『今食べてるこれ?』
『うん。ギガ盛りスペシャルカレーの感想を!』
『私、基本的にカレー大好きだから味には結構うるさい方なんだけどここのカレーは凄く美味しいと思うわ。手作りカレーとはまた違った本格的なスパイスベースのカレーに野菜の旨みが溶け込んでいて、その上に油の乗ったジューシーな豚肉を衣で閉じ込めたトンカツが乗っているのがまた最高に──』
『タンマタンマ!』
『アータどんだけカレー好きなんですか……』
『とにかく美味しいのは分かったニャン……』

 王妃様はカレーが大好き、っと。
 成程、しかしここまでカレーについて熱弁されるとは。大王様もここに食べに来ていたらしいし、カレー好きなのか?

『ってか夏菜、さっきから会話してる間にちょいちょい食べてたけどこれ物凄い量だよね……』
『ひ、ふ、み……十キロあるニャン』
『ざっと十人前ね。これくらいなら腹八分目で済むわ』
『胃袋ブラックホールにでも繋がってるんでうぃす?』
『どうしてこれで太らないんだニャン……』
『食べた分だけカロリー消費してるからねぇ』

 そう言いながら、優雅にカレーを楽しんでいる王妃様。

『カロリー消費って、やっぱり忙しいから?』
『……まぁ、そんなところね』
『長らく閻魔宮殿からは離れていましたが、今の閻魔宮殿ってお忙しいのでうぃす?』
『そっか、ウィスパーって元々エンマの部下だったっけ』
『確かに忙しいけど一昔前ほどじゃないわ』
『あぁ、十年くらい前にカイラが百連勤したあれ?』
『あの時ばかりは流石に我が目を疑ったわね』

 百連勤???
 何をしたらそうなるのだろうか、というか大王様って椅子に座ってふんぞりかえってるイメージしかなかったけれど今の話を聞いて思いっきり前言撤回したくなった。
 
【嘘だと言ってくれ】
【天野ケータがそのことしれっと思い出してるからマジであった事件なんだろうことは察せた】
【俺たちの血税使いやがってとか思ってごめんなさい】
【もっと使いやがれください】

 ネット民の心が一気に団結した瞬間である。

『き、気を取り直して本日のお便りコーナー!』
『おぉ、凄い。テレビで見るやつだ』
『そりゃテレビだからね……今日は夏菜がここにいるから、夏菜関連の質問は夏菜に答えてもらおうかな』
『お手柔らかにお願いするわ』

 それはこっちのセリフなんですが???

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【王妃様って何が好きなんですか?】

『え〜っと、これは趣味ってことでいいかしら』
『多分そうだと思う』
『最近はアルバム作りにハマってるわね。カイラ様が子供たちの成長を写真に撮ってくれてるんだけど、その写真を使ってアルバムを作るの。デコレーションとか意外と楽しいのよ』
『あ、そういえば前にも一冊くれたけど……あれ?』
『そうそう。綺麗にできてたでしょ?』
『あれ、市販のやつじゃなかったんだ……』


【先代大王様たちと仲良いんですか?】

『これはエンマたちのことだよね?』
『やむを得ない事情があったとはいえ父さんの記憶を奪った経緯があるからね……と言いたいところだけど、実際はわりと仲良しよ。昨日もエンマ様のところの子が遊びに来てたし』
『不仲に見えるけど実は仲良いよね』
『まぁ、一見すると私がエンマ様のこと大王から引き摺り下ろしたように見えなくもないからね……本人は今の生活に満足してるみたいだから、それはそれこれはこれ状態なんだけど』
『イナホさんとも仲良いよね、夏菜って』
『純粋に趣味が合うのよ』
『どっちもヲタク気質だからなぁ……』


【実際、王妃様って料理するんですか?】

『そうねぇ、するっちゃするわ。ただ前述の通り忙しいものだから、侍女たちにご飯を作ってもらうこともあるけど……週に二日は家族で料理をする日を作ってるわ』
『そうだったんだ!?』
『シェフとか雇ってないんでウィス?』
『雇ってないわね。多分もう察してるかもしれないけれど、うちの旦那様がカレー大好きなものだから……うちの子供たちもカレー大好きだし、なんだかんだ週一でカレー食べてるわね』
『意外と庶民的だよね、夏菜のところって』
『十分美味しいからね。味の違いを理解することは大事だけど、私としてはそれ以上に家族一緒で料理することが大事だと思ってるから……父さんがしてくれたみたいにね』
『成程、僕の影響か』


【王妃様がプログラマー・Sky説って実際ホントなんですか?】

『懐かしいわねぇその名前。これはホントよ』
『プログラミング始めたの小二頃だったっけ?』
『そうそう。それでプログラム作って特許取って……今ヨップル社から発売されてる基本OSも元々は私の作ったプログラムなの。だからヨップル社から定期的に私の懐にお金が入ってくるのよ』
『え? じゃあ税金使ってない感じ?』
『閻魔宮殿の帳簿を開示すれば分かるけど、そもそも先々代の時代にあった後宮を廃止して王室費を半分以下に削減した上で私たちは個人資産だけで暮らせるようにしてるから……税金に頼る必要性がないのよ。強いて言うなら、私たちが結婚した時に新しく宮を建てたんだけど、その際に使わせてもらったかしら』
『それ以外ではほぼ使ってないんでうぃす?』
『大王と王妃としての俸禄……あ〜っ、お給料は出てるけど税金から支出される王室費はほぼカットしたわ。その分、相談して一部を社会福祉系の公的なものに回させてもらったけどね』
『まぁ元々ちょっとした国の国家予算レベルの資産持ってたから、なくてもあっても誤差程度にしかならないか……』


【総理大臣のことどう思ってます?】

『総理大臣……今の総理大臣って確か水瀬じゃないの?』
『夏菜の元部下だよね?』
『うん。何なら今もフツーに交流あるわ』
『最年少で総理大臣なんだから、凄いよなぁ』
『ね。そうそう、多分これ公表してなかったと思うけど水瀬の父方の曽祖父の姉がカイラ様のお母様なのよ。だから今の日本のトップと妖魔界のトップが親戚っていう……』
『そうだったニャン!!?』
『私もそれ知った時ガチで驚いたわよ』
『それじゃあ、今も会議とかしてるんでうぃす……?』
『してるわよ?』
『その会議ちょっと見てみたい』

 
【王妃様って人間界にお知り合いいますか?】

『そりゃ元人間だからいるわよ』
『妖怪探偵団と元生徒会メンバーかな?』
『そうね。元生徒会メンバーの中にはさっき出した水瀬とか、あとはヘーゼルタイン系列の財閥の当主やってる金園とか……あと今世界的大ヒットしてる超人気アーティストのflareもうちの部下』
『待って前半はともかく後半は知らない!!!』
『ちなみに最新曲の楽曲提供したの私よ』
『手広くやりすぎでしょ!!?』

 :
 :
 :
 
「供給が……! 供給が多すぎるッ……!」

 もはやネットは息をしていない。
 最初の方は勢いよく流れていたコメントたちも、後半になるにつれ供給の多さに息を止め始めてしまった。

『それじゃあ、次が最後の質問!』

 まだあるのかよ!!? 嬉しいけどもッ!!!

【初めまして! またお手紙を送らせていただきました。以前公式行事の際に大王様と王妃様とお見かけしたのですが、とても仲睦まじそうで……元々王妃様はフツーの人間だったとお聞きしているのですが、もし天野ケータさんがお二人の馴れ初めを知っているようでしたら教えていただけると嬉しいです!】

 手紙を読み上げた天野ケータが王妃様に視線を移す。

『あ〜っ、夏菜たちの馴れ初めか……』

 そう言いながら、天野ケータが苦笑いを浮かべた。

『そうねぇ…………ヒ・ミ・ツ』

 天野ケータではなく、カメラに向かって呟いた王妃様。
 ここまで来て教えてくれないの!? と、ようやく息を吹き返したネット民たちは惜しがっていたものの。決して華やかな姿ではないけれど、この妖魔界の誰より美しい御方なんじゃないか……そう思ってしまうくらい綺麗な笑みを浮かべながら、王妃様は言った。

『愛する人との秘密を独占したいって思うのは悪いことかしら?』

 あぁ、この人が王妃になれた理由が分かった気がする。

 ◆◇◆

「初めて出てきたにしては上々ってところかな」

 深夜。閻魔宮殿・執務室にて。
 父さんの番組に王妃が出演したことによる反響を確認しつつ、思ったよりいい結果になったため自然と笑みが込み上げてきた。王妃が表舞台に出てくることをごちゃごちゃと言っている輩どもは、ネット民という名の民衆によってボッコボコにされている。
 情報が遅いんだよ情報が。
 このSNSに染まった現代社会、インターネットを制した奴が民衆の心を制するというのに。妖怪評議会を始め、老害共は誰も彼もそれを理解していないのだから愉快なことこの上ない。

「上手くやったなぁ、夏菜も」

 パソコンを覗き込んできたエンマ様が苦笑いを浮かべる。
 
 最初から全て私の掌の上。
 父さんを表舞台に立たせ私の情報を少しずつ流していくことで話題性を掴み取り、それが最高潮に達した段階で私が現れて今まで出てこなかった裏話を流していく。
 これで王族の人気は揺るぎないものになった。
 わざわざ父さんまで利用してこんなことをしたのはなぜなのか……発端は妖怪評議会がごちゃごちゃと言い出したのが原因だ。元人間だと民衆からの人気が云々側室云々とうるさかったので。

「でも、画面の前で話したことは本当よ?」
「どーだかな……」

 苦笑いを浮かべるエンマ様。
 ちょうどそのタイミングでココアを持ってきたカイラ様が「何の話だ?」と首を傾げながら部屋に入ってくる。

「今度はカイラ様の支持率を上げよっかなぁ〜って話!」
「評議会の息の根を止めるつもりかよ」
「また評議会が側室とか言い出したらやるかもね?」
「声がガチトーンなんだよ。ホント怖えわお前」
「あっははは。嫉妬してる馬鹿共とネット上の情報に踊らされる民衆ほど操りやすいものはない、ってね〜」
「お前そろそろ王妃じゃなくて悪女に改名したらどうだ?」
「カイラ様、そろそろエンマ様のことぶっ飛ばしていいわよ」
「冗談だって……おい待てカイラ、何で蛇王剣を構えてる!?」
 
 

 










・大体コイツが黒幕な王妃様

享年二十五。
元一般人であったため妖怪評議会に血統に不安云々と言われたが、ほぼ自力で地位を盤石なものにした正真正銘の女傑。権力の使い方があまりにも上手すぎる&民衆からの人気が高すぎるためごちゃごちゃ言ってきた評議会の方が潰される。


・どこぞのモブM

いつか夏菜の担任をしていたかもしれない。
しかし妖怪になった時に一部の記憶が吹っ飛んでいる(ネタバレリーナと同じような感じ)ので、そのことは覚えていないしこれからも思い出すことはない。









・作者

これ書いている途中で思いっきりコロナになった。
もうやだ何なのこの体質。
熱に浮かされながら書いていたので最初に書きたかったモブ視点のストーリーにならなかったし……今度また別のモブ視点書いてリベンジします。とりあえず今はこれで勘弁してください。
あと未来ifアンケートで二番目に人気だったお話はアイデアが降りてきたタイミングで出したいと思います。
よくて今週悪くて再来週ってところでしょうか。
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