サイト収録・外伝


「それじゃあ、バナナケーキを作りましょうか」

 バナナを掲げながら宣言する楓。
 可愛らしい子供用のエプロンと三角巾を装着し、ノリノリで宣言する楓の後ろにはホットケーキミックスや砂糖の入ったを袋を抱えているアキノリと同じくエプロンと三角巾を装着したケータの姿。
 先日、おばばが特売で大量に買い込んだバナナを消費するため、腐らせてしまう前にバナナケーキを作ることになったのだ。

「ホットケーキミックスでケーキなんて作れるのか?」
「作れますよ。パウンドケーキに近いものになりますが……レシピに関してはヨックパッドでレシピを見たので問題ありません」
「ヨックパッド!?」
「それより早く作りましょう。レシピメモはこれです」

 メモを差し出され、近くにいたケータが何となく受け取る。

 ◆◇◆

〜 材料 〜

◎ バナナ
◎ ホットケーキミックス
◎ 卵
○ 牛乳
○ 砂糖
○ 油

 ◆◇◆

「……ちょっと待って楓さん、分量が書いてないんだけど!?」

 料理において最も重要なはずの分量。
 それが記載されていないという雑にも程があるメモを見て思わず叫ぶケータ。だが、当の本人である楓はまったく動じることなく、平然とした顔でこう答えた。

「分量なら頭の中にメモしましたよ?」
「いやそういう問題じゃなくて!」
「どうにかなりますよこれくらい、何なら目分量でもいい」
(これ俺、完全に空気だな……)

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 ──結論、カオス。

「で、俺たちは何をすればいいの?」
「バナナを潰して、材料を混ぜてください。」
「あ、そっち!?」

 渡されたボウルとフォークを手に、ケータは戸惑いつつもバナナを潰し始める。すると、楓の式神である天狐も手伝いたいのか側に寄ってきた。

「じゃあ、天狐にはボウルを押さえててもらおうかな」
「なぁ楓、俺は何をすればいいんだ?」
「アキノリさんは卵と砂糖と牛乳を混ぜてください。私はホットケーキミックスの分量を測ります」

 そう言いながら、泡立て器を差し出す楓。

「えっ、でも牛乳と砂糖の分量が分からないぞ?」
「牛乳は150cc、砂糖は大さじ3です。測る必要があるのは、この二つとホットケーキミックスだけなので」
「成程。卵は一個か?」
「はい、お願いします」

 アキノリは慎重に卵を割り、殻が入らないように注意しながらボウルに入れる。そこへ砂糖を加え、泡立てすぎないように混ぜた後、牛乳を注いでさらにかき混ぜる。

「ふぅ……卵の殻を入れないようにするのって、結構難しいな」
「分かる分かる! 俺も昔はよく殻入れちゃってたよ」
「昔は……ってことはケータって料理得意なのか?」
「得意ってほどじゃないけど……」

 思い返してみればケータはそれなりに料理が作れる。お好み焼き、うどん、どら焼き、お団子──そこそこ手の込んだ料理も、やろうと思えば作れるのだ。

「なるほど、それも一種の才能ですね」

 感心したように頷きながら、楓はホットケーキミックスを計量し終える。アキノリのボウルにホットケーキミックスを加え、ケータの潰したバナナを加え、泡立たないようにゆっくりと混ぜていく。

「これを混ぜ終わったら、炊飯器で炊いて完成です」
「なんかちょっとドキドキしてきた」
「俺も……」

 バナナケーキの完成を前に、緊張するケータとアキノリ。まるで兄弟のような二人の様子に微笑みながら、楓は生地を混ぜ続けた。待ち時間にケータと共に洗い物をしていると、ふとアキノリが椅子の上に置かれたレシピメモの存在に気付いた。

「楓。ちょっと気になったんだけどさ、このレシピの中に書いてある二重丸と丸、これって何なんだ?」
「代用できるものを丸で書きました。牛乳は豆乳でもいいですし、砂糖もきび砂糖やグラニュー糖でも構いません」
「なるほど! ……ん? じゃあ、この油って?」
「今使っていますよ」

 そう言いながら、楓は炊飯器の内釜に油を塗り、生地を流し込んでいった。油を炊飯器に塗った理由は、ケーキを炊飯器から取り出す時にスムーズに取り出すためである。

「よし、それじゃあ炊飯ボタンをポチッと」

 スイッチが入ると、三人はようやく肩の力を抜いた。

「うわ~、ケーキ楽しみだな!」
「だね! あれ? 楓さん、何やってるの?」

 振り返ると、楓は再びバナナやホットケーキミックスを並べていた。困惑するケータたちをよそに、楓はホイッパーを片手にそれはそれはいい笑みを浮かべながら告げる。

「もう数ホール作りますよ。バナナはまだまだありますからね」

 そして数時間後──。

「腕が……痛い……」
「俺、もう何も持てない……」

 こうして、ケータたちは見事に腱鞘炎になったのだった。

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「あれっ? お姉ちゃん、それってケーキ?」

 ところ変わって別世界の天野家にて。

「知り合いの子と一緒に作ったの。よかったらナツメたちで食べてくれない? 私、そのケーキ作る時に大量に味見しちゃったからもうお腹いっぱいで……」
「そうなの? それじゃあ遠慮なく!」
「父さんもバナナケーキ食べる?」

 天野家長女・天野夏菜が問いかけた先にいるのは元伝説のウォッチ使いであり、現在は一般サラリーマン兼三児の父親である天野ケータ。
 とはいえ子供のうち娘二人は成人済み、息子は現役大学生ともうほぼ子育ては終えているようなものだが。

「いや……僕はいいかなぁ」
「いらないの? せっかくこんなに美味しそうなのに」
「何でか分からないんだけど急に腕が痛くなって……」
「大丈夫? 鍼灸院に行ってみたら?」
「……案外歳のせいだったりして」
「僕まだピッチピチの五十路なんだけど」
「もう五十路の間違い」
「父さん死語って知ってる?」
「ひどくない???」

 な〜んて会話があったり、なかったり──?
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