サイト収録・外伝


──無限の時間・無限の生命・無限の魔力──

時として為政者が欲しがる能力の全て。
その全てを私は持っていた。けれど、無限の時間も無限の生命も無限の魔力も使い続けるうちに飽きが来る。もはや退屈の原因にしかならない。
だから無限の時を使って旅に出ることにした。
世界を超え夜空に燦然と輝く星々を巡り巡って、そうして辿り着いた場所で──天野夏菜と呼ばれる少女と、運命の出会いを果たした。

「おねえさん、だぁれ?」

私の作った領域に迷い込んでしまった子。
領域の外では母親であろう女性が少女の妹であろう別の少女の手を引き、目の前の少女の名前を呼びながら歩いているのを見つける。
どうしてこの少女はこの領域に迷い込んでしまったのか……思い返してみれば私自身が少女と『会ってみたい』と思っていたからかもしれない。
無意識のうちに領域に引き摺り込んでいたのだ。

「──おねえさん?」

少女は小首を傾げながらこちらを見上げる。
そうか。今の私の容姿は、この少女から見てみれば『おねえさん』と呼ばれるに値する姿なのか。

「初めまして、天野夏菜」

ならば、それらしく答えてあげよう。

「え! おねえさん、なんでわたしのおなまえしってるの!?」
「それはヒミツよ」
「ヒミツなの? む〜……あ! それなら、おねえさんのおなまえをおしえて!」
「……私の、なまえ?」
「うん! おねえさんのおなまえ!」

困った。だって、私には名前がないから。
正確には名前はある。けれど、その名前は人間が口に出すには冒涜的と見做される可能性がある。少なくとも、まだ幼い彼女が口にしていいような名前じゃないことは確かだ。

「……ごめんなさい。私には、名前がないのよ」
「え! おねえさん、おなまえないの? じゃあわたしがおねえさんになまえをつけていい?」
「あなたが私に名前をくれるの?」
「うん! すてきなおなまえかんがえるから、ちょっとまってて……んっと、え〜っと……」

近くにあった木の棒を拾い、地面に文字のようなそうでないようなものを書き連ねる少女。ああでもないこうでもないと悩ましげに呟いた後、コロっと木の棒を放って「できた!」と叫んだ。
そこに書いてあった文字は、他の文字と違って私にも十分読むことができるものだった。

「おねえさんのおなまえは、かえで!」

パッと花が咲くような笑みを浮かべながら、私に名前を授けた少女。楓──と口の中で名前を噛み締めながら、グッと拳を握りしめる。

「どうかなぁ?」
「……楓。秋の葉のことね」
「うん! わたしのすきなはっぱなんだ!」
「どうして紅葉とかじゃないの?」
「だってかえでのほうがちっちゃくてかわいいんだもん、もみじのほうがよかった?」
「……いいえ、そんなことないわ」
「そう? よかったぁ!」

まるで、太陽のような笑みを浮かべている少女。
見るもの全ての目を焦がす太陽。偶然か必然か、この少女の名前にも『天』の文字が入っている。

「……あなたが太陽なら、私は月がいいわ」
「つき? おつきさま?」
「えぇ。そうね……私の名前は──月影楓」

天の陽を受けて光り輝く月のように。
私の名前は月影楓。あなたがもらった名前を受けて光り輝く月のような存在でありたい。
その日、私は太陽という名の希望を見つけた。
この少女に課せられた過酷な運命も、その先に待ち受ける未来も──彼女の導くハッピーエンドを見るために、私は今日も世界を巡り続けている。



*尚、この後ちゃんと夏菜は母親のところに戻されましたとさ。(ただし夏菜の中に『月影楓』の記憶があるとは言ってない──☆)
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