天野家長女の逢引譚


 私の名前は天野夏菜。
 双子の妹であるナツメを庇ってトラックに吹っ飛ばされたら前世の記憶を思い出した、ごく普通の中学二年生である。

「やっと終わったぁ〜!」

 Y学園生徒会本部・会議室。
 神殿の如き建物。部屋の電気はとっくに消灯されており、私を照らしているのはパソコンのブルーライトと机の上のランプだけ。
 私は最後の書類に判子を押すと、他の書類が机から落ちることも気に留めず掛けていた眼鏡を放って思いっきり机に突っ伏した。

 ここ最近、生徒会業務に追われる日々を送っていた。
 生徒会メンバーの半数がインフルエンザでダウン、残り半分も諸事情で生徒会業務に手が付けられる状態でなかったため、本来五人で手分けしてやるはずの業務をひとりでこなしていた。
 おかげで見事五徹目。徹夜記録更新だ。
 幸いなことに先生方も事情を把握してくれて、授業中の居眠りも多少は黙認してくれた。明日からはインフル組が復帰するし、残りのメンバーも用事を終えて帰ってくる。

(……つかれた……)

 手元の時計を見てみれば、針は真上を向いていた。
 机に散らばった書類を整理することはおろか、床に落ちた書類を拾う気力までも起こらない。
 でも、ここで寝るのはマズい。
 我が校では寮に戻る時間が夜8時と定められている。どれだけ生徒がFSTに夢中になっていようと、この時刻までに宿舎に帰ってこなければ寮監の教師から罰則を受けるシステムになっている。

 私を除く生徒会が活動不能状態と知った学園長によって特別許可をもらい深夜まで作業しているが、ここで寝ようものなら間違いなく見回りの教師に怒られてしまうだろう。

「……ん?」

 机の端に置いてあるスマホの通知音が部屋に響いた。

 このスマホはヨップル社が作った特別製のスマホ。
 妖怪探偵団の関係者に向けて作られた製品であり、人間界と妖魔界、世界が違っても連絡を取ることができる優れモノだ。
 しかし、こんな深夜に通知とは。
 このスマホ専用のコミュニケーションアプリ・YINEを開いて誰から連絡が来たのか寝ぼけ眼で確認してみれば……画面には、最近恋人になったばかりの彼からのメッセージが届いていた。

 大好きな彼からのメッセージ。
 襲い掛かる睡魔を吹き飛ばし、何の用事だろうと思いながらメッセージを確認した私は──。

 ◆◇◆

 週末。

「わざわざ休日に呼び出してごめん、ふたりとも」

 Y学園のショッピングエリア。
 私の目の前にいるのは双子の妹であるナツメと十万年にひとりの美少女と謳われるほどの美貌を持つ女の子・姫乃アヤメちゃん。

「全然そんなことないよ! ねっ、ナツメちゃん!」
「うん、お姉ちゃんと会うのは空亡の事件以来だし……それに、お姉ちゃんの初デートのお手伝いなんて絶対に楽しいもん!」

 数日前、私のところに届いたメッセージ。

 それは初デートのお誘いメールだった。
 舞い上がった私は書類を爆速で整頓した後、学園長に特別休暇申請をして二週間の休暇を取得することができた。
 ワンオペで生徒会業務をこなした私への労いの意もあるらしく、私が不在の間は復帰した生徒会メンバーが業務を代わってくれるとのことだった。なんて素敵なアイディアなのだろう。

「でも、どうして初デートのお手伝い? 夏菜ちゃんならデートで緊張──なんてこともなさそうだけど……」
「そっか。アヤメちゃんは知らないんだっけ」

 どういうことか分からず首を傾げるアヤメちゃん。

「お姉ちゃんはね、私服がクソダサなの」

 認めなくないが、私の持っている服はダサい。

 決して私にセンスがないわけじゃない。
 ナツメに選ぶ服とか他の人に向けて選ぶ服は自他共に認めるくらい似合う服をチョイスできるけれど、自分の服のこととなるとクソダサすぎて目も当てられないことになる。
 なので幼少期の頃から服を買う時は家族の助言をもらっている。最近は学園生活が忙しかったので私服を買う暇もなく、この際に私服を何着か買おうと思ってナツメをお呼びたてしたら何とアヤメちゃんもついてきてくれた。流石は十万年にひとりの美少女。

「ちなみに、どんな服を選んだことがあるの……?」
「…………ごにょごにょ」
「うん、一緒にお洋服買おっか」

 アヤメちゃんにも諦められる始末。かなしい。

「よ〜し! それじゃあ、レッツショッピング!」

 ◆◇◆

「これで明日のデートもバッチリね!」
「うん! 絶対に成功するよ!」

 物凄く満足そうな女子ふたり。
 対して一日中着せ替え人形にされた私はグロッキーな状態になっていた。女子の熱意って凄いな〜と遠い目をすると同時に、このふたりにコーディネートを任せて正解だったとひとりごちていた。
 尚、服の購入費は私の貯金から出ている。
 とはいえ服の購入で懐が涼しくなるほど私の貯金は少なくない、これでも元は三十路OLなのだから金のやりくりは得意な方だ。

「ふたりとも、ホントにありがとう!」
「どういたしまして。デート、成功するといいね!」
「よかったら今度、感想も聞かせてね!」

 ショッピングモールの前でナツメたちと別れる。
 うんがい鏡を通って帰る姿を最後まで見届けた後、両手いっぱいの荷物と共に生徒宿舎に向かって歩き出した。
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