その他[クロスオーバー小説]


「あなたには審神者になっていただきたいのです──天野夏菜様」

 その言葉を聞いた途端。
 記憶──前世の記憶と呼ぶべきであろうものが一気に流れ込み、とはいえ突然すぎる出来事に思考回路がショート寸前になりつつも何とか意識を保ち……冷静になったところで改めて目の前の人物を視界に収めた瞬間、やっと気付くことができた。

 もしかしなくても、これクロスオーバーじゃん──と。


 
 さて、改めて自己紹介をしよう。

 私の名前は天野夏菜。
 双子の妹を庇ってトラックに吹っ飛ばされた衝撃で前世の記憶を思い出してしまった、至って普通の幼女である。
 この世界の元となるゲーム・妖怪ウォッチ。
 交通事故の衝撃で思い出したのはこれだけだったけど、時の政府の役人を名乗った人物と出会った瞬間にまた別の記憶が……今度は刀剣乱舞というゲームの記憶を思い出した。

「審神者って……どういうことなんですか?」

 今世の父親である天野ケータが厳しい声色で尋ねる。
 隣にいる今世の母親・天野フミカは私の手を優しく握りしめながら、時の政府の役人を射抜くような瞳で見据えていた。

 時の政府。
 歴史改変を目論む時間遡行軍に対抗するために結成された、政府の中でも存在が秘匿されている文字通りの極秘機関である。
 その時の政府に所属する戦闘員こそ審神者。
 審神者は刀に宿る付喪神・刀剣男士を顕現する力を持っており、特殊空間にある本丸と呼ばれる建物から刀剣男士を指揮し時間遡行軍と戦うことが役目だ。

「あなた方の娘さんに審神者の適正が見つかったのです」
「そんなこと言ったって……!」
「これは政府の決定です。言い方は悪いですが、これは戦争……あなた方に召集令を拒否する権利はありません」
「…………本当に、うちの娘じゃなきゃダメなんですか」
「現状、審神者になれる適正がある人物は少数です。この時代で刀剣男士様を顕現できるほどの霊力を有しているのは確認している限り天野夏菜様の他におりません」

 時の政府は2205年──今より先の未来に設立された。
 時間遡行軍に対抗するために結成された時の政府と、その下についている審神者たち。しかし先の百鬼夜行なる時間遡行軍の大規模侵攻によって致命的なダメージを負ってしまった。
 ちょうどその頃、時間遡行軍はこの世界に目をつける。
 政府はそのことに気付いていたものの、先の百鬼夜行の傷が未だに癒えてない刀剣男士が多くいる中で無理に出撃させるわけにもいかない……とはいえ、この世界を時間遡行軍に侵略されれば何が起こるのか分からない。それこそ、百鬼夜行よりも恐ろしいことが起こる可能性だって十分にあった。

「先より行っていたこの世界の政府の協力の下で、審神者になる素質……霊力を持っている者を探していました。その中で最も素質がある人物があなただったのです」

 ただ時の政府だって決して馬鹿じゃあない。
 政府は──この世界で審神者を誕生させることにした。
 しかし本来ならばこれも歴史改変に当たるのだろう。

 やっていることは時間遡行軍と似たようなものだ。
 けれどそもそも私たちがいるこの世界は時の政府がある未来の世界とは別世界に近い世界のようで、正史もクソもない……言うなれば、もしもが存在するパラレルワールドそのものなのだとか。
 時の政府が最も恐れているのは時間遡行軍の行動だ。
 時間遡行軍がこの世界で行った歴史改変により、時の政府がある未来の世界がさらなる脅威に晒されること……これを避けるためにはこの世界で審神者を誕生させる必要がある。
 ここまでの話を超簡単にまとめるとこうだ。
 『パラレルワールドの未来で大変なことが起きて、この世界に審神者を派遣することができないから審神者になる素質があるキミが審神者になって時間遡行軍を倒して!』と……まぁ、この時代に目をつけるってことは時間遡行軍の狙いはおおよそナツメたちなんじゃないか……口には出さないでおいたけど。

「話だけ聞けば荒唐無稽に思えるかもしれません。しかし、これらは全て真実であることを理解いただくよう……もちろん証拠を提示しろと言われればいくらでもご用意いたします」

 政府のお兄さんはそう言って、眼鏡を押し上げた。
 私は暫く黙り込んだ後で縋り付くように泣いている父さんと母さんのことを呼び、政府のお兄さんにそっと視線を向けた。

「私が審神者になれば家族と友達を守れますか」

 私の問いに、父さんたちは息を呑んでいた。

「あなたが刀剣男士様を顕現すれば、可能ですよ」
「それなら、なります。私、審神者になってみんなを……ううん、この世界に生きる人たちを守りたい。それができるなら何だってやります、どんなに苦しいことも辛いことも耐えてみせます」

 それが私の覚悟だ。
 先程まで泣いていた父さんと母さんは私の瞳に宿った覚悟に気付くなり、涙を拭って私のことを抱きしめてくれた。
 親不孝者でごめん──父さん、母さん。
 心の中でそう謝りながら、病室に入ってきた政府のお姉さんに連れられて父さんと母さんは一時的に退出した。政府のお兄さん曰く、諸々の手続きをするために別室へ案内されたらしい。

「政府のお兄さん」
「どうかしましたか?」
「審神者になるにあたって条件を提示したいのですが」
「だけど、いくつか条件があります」
「条件ですか?」
「はい。この条件だけは、絶対に守ってください」
「……では、お話ししてもらっても?」

 一つ、政府の命令を拒否できる権利を保障すること。
 一つ、家族と会う機会を作ること。
 一つ、私のやる一切合切の行為に口出ししないこと。
 一つ、本丸始動から最低五年間は支援をすること。
 一つ、この世界における刀剣男士の行動を制限しないこと。

「それから、最後に……私のトモダチを連れていく許可を」

 途端──視界いっぱいに舞い散った鬼桜。
  
「へェ……随分面白いことになってるじゃねぇか、なぁ?」

 鬼桜と共に現れたのは大江山の大悪鬼・茨木童子。
 ちょっと前にこの病室の床で倒れてていたところを助けたら、どういうわけか眷属になってしまいそのままの流れで私の魂の中に住み着くことになった鬼族の大妖怪だ。
 政府のお兄さんはフツーに腰を抜かしていた。
 そりゃ歴史に悪名を轟かせている大悪鬼・茨木童子が突然現れたりしたら無理ないか……なんか若干可哀想になってくる。

「茨、政府のお兄さん驚かせちゃダメでしょ」
「悪りぃな。にしてもさっきから話は聞かせてもらっていたが、時間遡行軍に審神者に刀剣男士か……刀剣ってことはワンチャンその中に俺の刀もあったりしねぇのか?」
「茨木童子の刀っていうと……たきやしゃまる? だっけ」
「あぁ。いい刀なんだぜ、大太刀に近い太刀なんだ」
「へ〜っ、ちょっと見てみたいわね」

 なんて、私たちは雑談していたのだけれども──。

「……天野夏菜様、あなたは一体何者なんですか?」

 完全に政府のお兄さんそっちのけだった。
 このままじゃ仕方がないので私は開示できる情報だけ掻い摘んで説明してやった。とはいえ全ては教えられないので、時々嘘に真実を混ぜつつ……特定の未来を見ることのできる未来視の能力持ちで、事故の衝撃で前世の記憶があることを伝えた。
 政府のお兄さんは真面目にその話を聞いていた。
 話を聞き終わるなりお兄さんは「事情は分かりました」と呟き、再び眼鏡を押し上げながら私に書類を差し出してきた。

「あなたの提示した条件を呑みましょう」

 それは、私の話した条件を飲む旨が書かれた誓約書。
 この一瞬で用意するなんて流石は未来の政府。
 しっかり隅々まで目を通してから血判を押し、その誓約書の原本は私に預けられることとなった。誓約書を複製したものは政府でも管理するらしいけど、やっぱり原本が手元にあると安心できる。

「しかし、まさか中身が子供ではなかったなんて……」
「なんかすみません」
「いえ、こちらとしても子供を……それも未就学児を徴兵することに対して罪悪感があったので多少薄れたのはありがたいです」
「お役人も大変ですね……」
「えぇ……それと、今後私のことは杜若とお呼びください」
「かきつばた?」
「刀剣男士様は神様。人間が神の前で真名を名乗るわけにはいかないので仮の名前を名乗る必要があるのです……私のこの名前も、真名を掴まれないようにするための偽名なんですよ」

 杜若さんは今後、私の担当をしてくれるらしい。
 時の政府の中でも幹部クラスの権力を持っており、尚且つ未就学児の審神者の後ろ盾となるには最適の人物ということでお偉いさんによる推薦により私の担当となったのだとか。
 杜若さんが担当になってくれたのはありがたかった。
 さっきまで父さんと母さんと話しているところを見る限り、時と場合によっちゃ厳しいところもある人だけど決して芯は曲げないし心から私のことを思って行動してくれている人なのがよく分かる。

「では、あなたが退院したらお迎えに上がります」
「じゃあ、それまでの間に学べることを学んじゃいたいのでマニュアルみたいなものがあったらもらってもいいですか?」
「……家族との別れを惜しまなくても大丈夫なんです?」
「まぁ、確かにナツメたちと離れるのは血涙を流すくらい嫌ですけど……会えなくなるわけじゃないですし、電話は無理かもしれないですが手紙もちゃんと出せるんでしょう? ナツメたちが安全に暮らせるのなら、それ以上は望みません。今の私に必要なのは知識です、止まってる暇なんてないんです」



 それから三ヶ月。
 トラックにあれだけ吹っ飛ばされたにもかかわらず目立った後遺症もなく退院することができた。
 
「ナツメ……ほら、お姉ちゃんにばいばいしよう?」
 
 私が審神者になることはナツメには言ってない。
 ナツメにはお姉ちゃんは病気になってしまったから、空気のいいところで療養するためにお爺ちゃんの実家があるケマモト村で療養するという説明をしておいた。
 しかし、それを受け入れられるほどの年齢じゃない。
 元々私と離れることになる話は聞かされていたようだけど、実際に私がいなくなってしまうことを実感したナツメは朝から大号泣していた。それこそ、私たちが罪悪感を抱いてしまうほどに──。

「っ……おねえちゃん、いかないで……!」
「大丈夫、また帰ってくるから……そうだ、今度帰って来た時、お姉ちゃんナツメと一緒にお絵描きしたいな。だから……また、一緒にお絵描きしてくれる?」
「うん。約束」
「ゆびきりげんまんだよ!」

 ナツメに拳で一万発殴られるのはご遠慮願いたい。
 なんて思いながらナツメのことを抱きしめて、それからまだ幼い弟のケースケのことも抱きしめた。まだ右も左も分からないこの幼い子が、どうか健やかに育ってくれることを祈って。

「それじゃあ……行ってくる。父さん、母さん」
「行ってらっしゃい」
「いつでも帰ってきていいからね」
「……ありがとう」

 ちょうどその時、政府の車がやってきた。
 黒塗りの高級車。家から持ってきた荷物を杜若さんに預けて、その高級車の座席に乗せてもらった。

「……またね! 父さん、母さん、ナツメ、ケースケ!」

 この日、私は現世を捨てて審神者になった──。







「…………ここが私の本丸……?」

 目の前には京都御所並みの広さの建物。
 私の本丸・蒼鏡そうきょう城。
 本丸は審神者の霊力によって構成されている。なので、その審神者の持っている霊力の大きさに応じた広さの建物になるらしいのだが……これはちょっと、いやかなり広すぎるのではないか。
 ここまで来ると逆に不便な気がする。
 詳細な部分は後々カスタマイズできるらしいから刀剣男士たちが集まったタイミングで本丸を新しくしてもいいかもしれない。

「ここが今日から俺たちの住む場所になるのか?」

 茨木童子も実体化して本丸をまじまじと見ていた。
 ここはもう現世じゃない。茨木童子も私の魂に隠れる必要がなくなったため、先程政府で手続きをしてから本丸に送られてくる途中でわざわざ実体化して荷物持ちになってくれたのだ。

「凄い場所だよね。あとで部屋の位置とかも決めよっか」
「俺も部屋もらっていいのか?」
「当たり前でしょ、もう茨は私の本丸の仲間なんだから」

 とにもかくにも、まずはチュートリアルをしなくては。
 長々とした庭を超えてようやっと玄関に辿り着いた私たちは、おそるおそる本丸の中へ足を踏み入れた。

「審神者様! この本丸の審神者様ですね?」

 本丸の玄関にちょこんと座っている狐さん。

「初めまして! 私はこんのすけと申します!」

 政府から支給されている管狐の式神・こんのすけ。
 政府からの業務連絡を伝えてくれるだけでなく、審神者のサポートなどもしてくれる優秀な狐さんだ。

「初めまして、こんのすけ。私は夏姫なつきよ」

 夏姫は審神者としての名前だ。
 どうしても元々の名前は捨てられなくて名付けに困っていたところ、茨木童子が「『姫』の姉なんだから一文字借りたって誰も文句言わないんじゃねぇか?」と助言してくれたため元の名前をベースに『姫』の文字を足して審神者名を夏姫とした。

「で、こっちが茨木童子」
「政府からのお話にあった伝説の鬼様ですね!」
「何だ、杜若辺りから話でも来てたのか?」

 ちなみに茨木童子は本名のままでいいらしい。
 めでたく私の担当となった杜若さん曰く『茨木童子さんは歴史上の有名人すぎて真名もクソもないですからね』とのこと。
 あとそもそも神の前で真名を名乗ってはいけないというルールが適用されるのはあくまでも人間だけのことで、茨木童子は妖怪なのでこれが適用されないらしい。まぁ、確かに茨木童子なら付喪神を真正面からぶっ飛ばしそうな感じするけども。

「それでは審神者様、チュートリアルを始めましょうか!」
「初期刀の顕現とか、初鍛刀の顕現もしなきゃだしね。早いところ進めていかないと日が暮れちゃうから、どんどんやっていこうか」
「もちろんでございます!」
「それじゃあ、早速この子を顕現しなくちゃね」

 私の手元にある打刀──私だけの初期刀。

 審神者は就任する際にはじまりの一振りを選べる。
 五振りの中から一振り。その中で私が手に取ったのは、前世でもはじまりの一振りにしていたあの子。打刀を握りしめ、刀剣男士を顕現させるために身から溢れる霊力をそっと刀に注いでいった。
 途端、視界を覆うほどの桜が舞い散っていく。
 ふわりふわりと浮かんだ光と共に目の前に現れたのは、真っ赤な瞳を持った刀剣男士で──。

「あー。川の下の子です。加州清光。扱いづらいけど、性能はいい感じってね」

  加州清光かしゅうきよみつ
 あの有名な新撰組・沖田総司が使っていた愛刀の一振りであり、現在は現存していないとされている刀。

 刀の種類は打刀。
 黒のロングコートと赤の襟巻きが特徴的で、爪紅だったりイヤリングだったりところどころオシャレな要素を垣間見ることができるカッコよさの中に可愛らしい要素を含んだ刀剣男士だ。
 加州清光は顕現してすぐに私の姿を見るなり「ある……えっ、ちっちゃい……?」と困惑した様子を見せていた。うん、まぁ顕現したのが私じゃそりゃ驚いてもしょうがないね。

「初めまして、加州清光。私があなたの主の夏姫だよ」
「あ、やっぱり主なんだ……うん、改めてよろしく」
「で、こっちが私の鬼ぃちゃんの茨木童子」
「よろしく頼むぜ」
「ちょっと待って???」

 伝説の大悪鬼の名前に反射でストップをかける加州清光。
 このままじゃチュートリアルが進まないので所々省きつつも一連の流れを話してやれば、加州清光は「主の危機管理能力どうなってんの……?」と訝しげな視線をこちらに向けてきた。解せぬ。

「さて、それじゃあ早速出陣……の前に刀装かな?」
「刀装?」
「なんと、審神者様は刀装のこともご存知でしたか!」
「マニュアルに書いてあったし……加州清光に怪我されるの嫌だから、サクッと作って持たせるわ」

 刀装は刀剣男士の装備のようなものだ。
 宝珠に兵士の力を宿すことによって様々な恩恵を得ることができ、これがないと刀剣男士たちはダメージをモロに喰らうことになるため刀装は出陣の際に必須となる。

「……あのさ主、別にフルネームで呼ばなくてもいいんだけど?」
「そうなの?」
「いーよ。加州でも清光でも、好きに呼んで」
「じゃ清光で」

 加州清光改め清光を連れてやってきたのは刀装部屋。
 ゲームと違って刀装を作るための倉庫は馬鹿みたいな広さがあり、刀装部屋の端には資源が山積みになっていた。近くにあるモニターから刀装に注ぎ込む資材の量を決定できるらしい。
 資材は木炭・玉鋼・冷却材・砥石の四種類。
 この資材の量を上手く調整しながら刀装を作る。また刀装にも品質があり、上から特上、上、並……ちなみに刀装の作成に失敗するとちょっとした消し炭ができるので要注意。

 尚、資材は時の政府との契約通り大量に用意されている。
 各資材およそ三十万ほど。鍛刀ガチャしまくって無駄遣いさえしなければ絶対に無くならない量だ。

「刀装は審神者単体でもできるけど、基本的に刀剣男士と一緒にやった方が成功率高いらしいから……清光、一緒に作ってくれる?」
「もちろん」
「あ、資材の比率は50/100/50/50でよろしく」
「何で玉鋼の比率だけ多めにしてんだよ?」
「まぁ見てなさいって。それじゃ清光、お願い」
「了解。任せてよ主」

 資材を使って宝珠に霊力を込めていく。
 私の様子を見た清光も同じように力を込めていけば、金色に輝く刀装──特上投石兵が見事に出来上がった。

「で〜きたできた、投石兵」
「おい、夏……姫、なんなんだこれ?」
「投石兵だよ。これがあれば遠戦ができるの」

 一口に刀装と言っても種類がある。
 単純に防御力を強めるだけなら軽歩兵や重歩兵、盾兵なんかを用意すればいいけれど……今の本丸には清光しかいないから、直接攻撃の白刃戦で真っ向勝負するより先に遠くから攻撃を仕掛けて敵の頭数を減らす遠戦を仕掛けた方がよっぽど効率がいい。
 他にも、遠戦用の刀装には弓兵や銃兵がある。
 ただし刀種によっては装備できない物もあるので注意が必要。尚、今回清光の刀装に投石兵を選んだのは遠戦用の刀装の中で最も耐久性に長けているのが投石兵だったからというだけで、別に他の刀装が役に立たないってわけじゃない。

「審神者様ぁぁぁ!?」
「どうしたの? こんのすけ」
「初手で特上の投石兵を作るなんて聞いておりません!」
「これくらい簡単にできるんじゃないの?」
「特上の刀装なぞ、時の政府本部がある世界で作れる審神者はほんの一握りだけです! しかもなぜ投石兵の配合比率を……向こうの審神者でさえ刀装の比率はまともに把握していないのですよ!?」
「なんとなく配合しただけなんだけど」
「審神者様ぁぁぁ……!」

 こんのすけの悲嘆に暮れた声が響き渡った。
 どうやら時の政府本部がある世界にいる審神者は私より霊力が弱っちい上に、刀剣男士も集めきれていなけりゃ鍛刀・刀装も失敗することがままあるような審神者ばっかりなのだとか。
 百鬼夜行で負けた原因、絶対にそれでしょ。
 とはいえ私も前世の記憶とかいうチート級の知識を持っていなければ現状詰んでいた気がするけども。
 
「さぁ、それじゃあ早速出陣しよう!」

 行き先は明治維新の時代・函館。
 五稜郭で新撰組がドンパチやっていた時代なので、元々新撰組・沖田総司の刀だった清光にはちょうどいいだろう。

「主、俺これ装備していけばいいの?」
「そうそう。刀装付けていくから重傷は負わないと思うけど、怪我したらすぐにお手入れしてあげるから派手に暴れてきちゃっていいよ。お土産は敵大将の首ってことで、よろしく!」
「主物騒すぎない???」
「コイツ一般家庭の出身なんだがな……」




「いやぁ、清々しいくらいの大勝利だったな」

 結果から言えば清光の初陣は大勝利だった。
 ちょっぴり攻撃を喰らって軽傷を負ったため、手入れ部屋……刀剣男士の本体はやはり刀なので、刀の手入れをしてやれば人間体である清光の怪我も綺麗さっぱり元通りになる。
 ちなみに手入れ部屋にも専用の妖精さんがいた。
 けど今回は私がお手入れを体験してみたかったので、わざわざ清光から本体を借りてお手入れさせてもらった。

「天下の茨木童子にそう言ってもらえるなんて光栄だね」
「やっぱ刀剣男士ってだけあって刀の扱い上手いよな」
「ま〜ね。何、もしかして茨木童子も刀使いなの?」
「あぁ。昔は滝夜叉丸って刀を使ってたんだぜ」
「へ〜っ、機会があったら戦ってみたいかも」
「ねー清光なんで敵大将の首持って帰ってこなかったのー」
「主にあんなもの見せられないから!!?」

 さて、今回の初陣で分かったことがある。
 刀剣男士は一人だけじゃ力不足感が否めない。時間遡行軍は基本的に部隊を組んでいるので、一人に対して多数じゃ流石の刀剣男士でも厳しいところがあった。なので、清光と同じ刀剣男士を増やすために鍛刀……本丸の新たな刀剣男士を迎えることにした。
 やってきたのは鍛刀部屋。
 鍛刀部屋には刀鍛冶の妖精さんたちがいて、この子たちに資材を渡せば刀剣男士の憑代である刀を作り出してくれる。

「審神者様! 今回はチュートリアルなので配合は……!」
「デフォの50/50/50/50にするよ。っていうか元々来てほしい刀種的にこの配合にする予定だったし」
「……審神者様、まさか刀種の配合比率もご存知で?」
「何とも言えないかな。ただ絶対ってわけじゃないけど、これくらいなら出てくるんじゃない? ってくらいの感覚ならなんとなく……ホント何となくだから配合比率は教えられないけど」

 半分は本当、半分は嘘だ。
 私の流した配合比率の情報が向こうの世界に渡って、変な風に利用されても困る。向こうの都合で審神者にされたのだから、こっちの事情で情報を隠したって問題はないだろう。
 刀装も然り。タダで情報を与えるほど私は優しくない。
 情報は武器になるって前世の私が口酸っぱく言っていたから、もしも何かあった時は配合比率を盾にすることもできるかもしれない。まぁ、そうならないのが一番なんだけど。

「じゃあ50/50/50/50で……妖精さん、よろしくね」

 資材を渡せば妖精さんたちはすぐに作業を始めた。
 鍛刀部屋に備え付けられている電子パネルを覗き込めば、表示されている時間は二十分。

「あとは二十分待てば新入りさんが来てくれるはずだよ」
「それじゃあ今のうちにどこの部屋を使うか決めるか?」
「そうだね。あと、ここあまりにも広すぎるから初鍛刀の誰かが来てくれたら次の子たちどんどん鍛刀して……直近で三部隊くらいは作れるようにしようかな。出陣と遠征と本丸待機する隊で……こんのすけ、鍛刀部屋は全部でいくつある?」
「通常は二部屋ですが、審神者様は特別な事情を考慮されて政府により五部屋用意されています。しかし……三部隊分の刀剣男士を一気に顕現させるなど向こうの世界では考えられないことですよ」
「大丈夫、私に任せなさい!」

 こんのすけに向かって勢いよく親指を立てておく。
 その様子を鍛刀部屋の隅っこから見ていた茨木童子と清光が、こんな会話をしていることなんて露ほども知らず。

「ねぇ、もしかして俺の主ってちっちゃいけど凄い人?」
「凄い通り越してヤベェ奴だ。俺を眷属にしてるんだぞ?」
「説得力しかない」



「乱藤四郎だよ……ねぇ、ボクと乱れたいの?」

 初鍛刀で来てくれたのは 乱藤四郎みだれとうしろうだった。
 
 短刀・乱藤四郎。
 刀工・粟田口吉光の作った短刀であり、その最大の特徴は他の短刀と違って乱れ刃になっているところ。
 透き通った青の瞳にブロンドのロングヘア。
 粟田口派揃いのデザインを基本としたフリルミニワンピース型の軍服を身にまとっており、言うなればそう……男の娘である。メッチャかわいいけどちゃんと刀剣男士なのでフツーに強い子だ。
 
「初めまして、乱藤四郎。私がここの本丸の主だよ」
「……えっ? 主さん、ちっちゃい……!?」
「清光と同じ反応してて笑う」
「刀剣男士って面白い奴ばっかだな」
「誰!? 待って、本物の鬼!!?」
「ちょっと落ち着こう乱藤四郎。説明するから、ね?」

 説明の前に待ち時間を無駄にしないため資材を渡しておく。
 鍛刀部屋の妖精さんたちが再び鍛刀を始めたのを横目に新入りの乱藤四郎たちと一緒に大広間まで向かった。

「……そっか、だから主さんはここに……」

 一連の事情を聞いた乱藤四郎は静かに泣いていた。
 いや泣く要素あるか? って思ったけどよくよく考えたら三歳児がいくら鬼ぃちゃんがいるとはいえほぼ丸腰の状態で本丸に放り込まれたわけだから、そうなるのも無理はないかもしれない。

「……ねぇ主さん! ボクのことも加州さんみたいに呼んで?」
「そうだなぁ……でも粟田口派は下の名前ほぼ全部藤四郎だから、あなたのことは乱ちゃんって呼んでいい?」
「もちろん! これからずっと主様を守るから、よろしくね!」
「俺のことも忘れないでよ? 改めてよろしく、主」

 こうして、我が蒼鏡城本丸は初めの一歩を踏み出した。







 目の前にいるこんのすけの声を、ただ静かに聞いていた。

「蒼鏡城本丸・夏姫様に特命調査の任務を命じます」

 私が審神者になってもうすぐ十年目。
 加州清光と乱藤四郎の二振りから始まったこの本丸。
 あれから鍛刀や戦場でのドロップ刀などをお迎えして、どんどん刀剣男士が増えていき。今では百振り以上の刀剣男士、現在確認できる全ての刀剣男士がいる本丸になった。
 練度──刀剣男士のレベルは軒並みカンスト済。
 うち半分の刀剣男士は修行の旅に出て、さらなる強さを得て『極』と呼ばれる刀剣男士になって帰ってきた。極の中でも練度がカンストしているのがおよそ三分の二と言ったところか。

 この十年間、私は刀剣男士たちと共に育った。
 父であり母であり、兄であり姉であり弟であり妹であり……様々な個性を持った刀剣男士たちは、みんな私の側にいない父さんや母さんの代わりに家族として側にいてくれた。
 もちろん刀剣男士としての本分は忘れさせていない。
 時には本丸の主として、たとえ子供の見た目をしていても刀剣男士たちは容赦なく戦場に出させてもらった。茨木童子の発案で私も鍛錬してもらったり時々戦場に出ていた関係で、気付いたら刀剣男士と同じくらい戦えるようになっていたけども。
 たくさんの刀剣男士たちが私を育て上げてくれた。
 この本丸の主として。それから一人の女の子としても、教養から何から何に至るまで何不自由ないまま過ごし……今では立派な京友禅の着物と化粧がよく似合うヤベェ美少女になっていた。

「特命調査? こんな時期に……?」
「今回の特命調査の行き先は2045年……審神者様の時代です。この世界の時間遡行軍による侵攻は現状この蒼鏡城本丸だけで対応できているのですが、ここ最近この世界に時間遡行軍が百鬼夜行を仕掛けようとしていることが判明したのです」
「それは……マズいわね」
「はい。審神者様もご存知の通り百鬼夜行による侵攻が始まれば、いくらこの本丸の刀剣男士がお強いと言えど数で圧倒的に負けているためほぼ太刀打ちができません」
「時間遡行軍の狙いは?」
「おそらく羅仙の襲撃と空亡の襲撃を見た時間遡行軍は、鬼姫の生まれ変わりである天野ナツメ様……もしくは妖怪探偵団の皆様を狙う可能性が高いのではないでしょうか。彼らの力を手中に収めることができれば、時間遡行軍は強大な力を得てこの世界での百鬼夜行に成功する確率が高いでしょうから」

 余談ではあるが、既に羅仙戦・空亡戦は終わっている。
 と言っても私は直接関わっていない。強いてやったことといえば洞潔が死なないように刀剣男士を派遣したり、刀剣男士パワーで空天と朱夏を成仏させず現世に引き留めたりしたくらいだ。
 私の行動は歴史改変に当たらないのかって?
 言ったじゃない、この世界は時の政府がある未来の世界とは別世界に近い世界のようで正史もクソもないって……こういう時に好き勝手できるご都合主義ってホント素敵。

「……ん? じゃあ私たちはどうすればいいの?」
「天野ナツメ様を筆頭に妖怪探偵団の方々の護衛ですね。また、現世で刀剣男士様を顕現させる許可……審神者様の場合は自身の行いに政府から文句を言われない制約をつけているのでぶっちゃけ許可はいらないと思いますが、この本丸の刀剣男士を現世に常時顕現させておく許可が出ています」
「ってことはつまり……?」
「夢の学校生活ですよ審神者様」
「ウッソだろマジか」

 この年になって初めての学校デビューですか。
 いや本丸でも勉強していたし、刀剣男士たちに鍛えてもらっていたから運動神経もそこそこある……と思いたい。

「あれ、そういえば私の学歴とかってどうなってるの?」
「病気で長いこと通信教育を受けていたことにしておきました。とりあえず担当が作った設定がありますのでこちらをご覧ください」
「杜若さん相変わらず仕事が早いわね。どれどれ……?」

 天野夏菜・十四歳。
 幼少期、事故に遭って検査を受けた際に虚紅症(心肺機能の異常により血液が酸素を上手く取り込めず定期的に吐血し衰弱する病・十年ほど前に見つかったばかりの病気なので分かっていることが少ない)であることが判明、祖父の実家があるケマモトにて療養。
 小学校時代は通信教育を受ける。
 近所に子供たちや都会から移住してきた大人が住んでおり、通院のために隣の村に行った際など様々な場面で子供たちと会う機会があったため仲良くしている人(刀剣男士)たちが多い。
 中学校時代になってから徐々に症状が回復。
 三年次からさくら元町第二中学校に編入が決定したものの、定期的な検査のために住居は実家のあるさくらぎヒルズではなくさくらぎ総合病院に程近いマンションの十二階となっている。

「……う〜ん、作り込まれてるなぁ……」
「最悪ボロが出ても何とかなる設定になってますからね。それと、この特命調査のために蒼鏡城本丸の刀剣男士にはひと足先にさくら元町に行ってもらいます」
「それじゃあ、さくら元町に送り込む刀剣男士の選定をしなくちゃね……偵察関係が得意な刀剣男士を中心にした方がいいかしら。こんのすけ、刀帳を持ってきてくれる?」
「かしこまりました!」

 ◆◇◆

_(┐「ε:)_

力尽きました。
また筆が乗れば続きを書くと思います。
出してほしい刀剣男士がいたらコメントに書いておいてください、頑張って検討します。
ちなみにこの世界のIちゃんは夢主ちゃんがおおもり山に行ってないので登場しません。いつの日か夢主ちゃんに子供ができたら、その子供がIちゃんと出会うのではないでしょうか。

あとどうでもいいかもですが杜若さんは木衛のお父さんです。この世界では神社の神主さんじゃなくて政府の担当さんやってます。
2/9ページ
スキ