サイト収録・外伝


 俺の名前は茨木童子。
 元は大江山の悪鬼であり、現在はこのY学園の国語教師として平々凡々な教師生活を送っている。

「茨木先生、この書類お願い!」

 羅仙戦は終わったものの、相変わらず生徒会は忙しい。
 次年度から風紀委員会が本格的に動き出すこともあって、元々風紀委員長を兼任していた夏菜を中心に生徒会メンバーは風紀委員会の引き継ぎに関する諸々の手続きをしていた。
 しかし、この手続きがまた想像以上に面倒で。
 三権分立学園法に基いた権力の象徴、その一角どころか二角を背負っているもんだから権力の分散には時間が掛かり……生徒会メンバーは怒涛の勢いで手続きに必要な書類を捌いていた。
 尚、この手続きには俺も駆り出されている。
 前までは夏菜が風紀委員会も兼任していたので書類関係はダニピョンも手伝ってくれてたが、本来ダニピョンは風紀委員会顧問であって生徒会顧問じゃないからな。

「なぁ……夏菜、そろそろ休憩しないか?」
「まだ作業始めてから三時間しか経ってないわよ」
「三時間も、の間違いだろ……手首が痛いんだが……」
「根性ないわねぇ」
「根性論は現代に合ってないと思うぞ」
「喧しいわよ平安の悪鬼。とはいえ、確かにそろそろ休憩した方が作業効率よくなるだろうから……三十分休憩しましょうか。各自、手を止めて休んでちょうだい」

「「「「 了解 」」」」

 一斉に返事をする生徒会のメンバー。
 各々手を止めてコーヒーを淹れに行ったり椅子から立ち上がって背伸びをしたり……その傍らに書類の山が積み上げられていなければ、至って普通の光景に見えるのになぁ。
 どう足掻いても雰囲気が社畜だ。
 何でコイツらこんな仕事できる体力あるんだよ……休めよ現代の人間、ちょっとは南の島のハメハメハ大王でも見習え。
 
「そういえば、会長。会長宛にお手紙が届いていましたよ」

 その時。ふと思い出したように水瀬が声を放った。
 
「手紙?」
「えぇ。昨日、会長から頼まれたUSBを取りに行くために会長の部屋にお邪魔した時に机の上に置かれていたので」
「あ゛〜っ……昨日はこの生徒会棟で寝泊まりしたから……ってかちょっと待って、私の机の上にって言った??」
「えぇ、なので少々不審に思って一晩だけ預かっていました。ですが特に何もなかったので、おそらく会長のお知り合いの妖怪のどなたかと思いまして……あぁ、ちゃんと手紙は未開封ですよ」

 昨日から夏菜は生徒会棟に寝泊まりしている。
 連休が終わるまでに引き継ぎを済ませておきたいらしく、その過程で水瀬にUSBなどの必要なものを取りに行かせていたが……まさかこのタイミングであの手紙が届いちまってたのか。
 あの時、夏菜は水瀬に部屋の鍵を託していた。
 だから夏菜の部屋には誰も入ることはできない。高級生徒宿舎の管理人はダニピョンなので、夏菜の部屋に誰かを入れるような真似もしない……となれば、手紙は不審物の可能性が高い。
 できればそれを見つけた時点で俺に連絡してほしかったんだが、夏菜がUSBを頼んだ時点で既に水瀬も三徹目だったから思考が至らなかったのだろう。そりゃ仕方ない。
 
「手紙……? 誰からかな」

 水瀬から手紙を受け取った夏菜。
 そのまま目線を落としてみれば、手紙を封じている蜜蝋にイザナ族の紋章が入っており。誰からの手紙なのか察した夏菜は急いでペーパーナイフを取り出して丁寧に封を開け始めた。

「…………」

 中から便箋を取り出して、ゆっくり読み始める。
 その表情は常の夏菜よりも穏やかなもので、時折小さく微笑み頬を染めながら幸せそうに手紙を見つめていた。

 手紙の差出人はもちろん、蛇王カイラ。
 以前、ヘーゼルタイン主催のパーティーで夏菜に告白したカイラはこうやって時々夏菜に恋文を送りつけてくる。事務的な連絡は俺経由でやり取りしているが、恋文の場合は話が別。
 カイラは思いの丈を綴った手紙を直接届けに来ている。
 しかも夏菜がいない間に。大王業が忙しい中でよくやるもんだ……なんて思いつつも、なんだかんだコイツらの恋模様は見ていて面白いので温かい目で見守ってやっている。

「あら? あらあらあら……!?」

 俺が後方腕組み保護者面をしていると、現れた女豹たち。

「会長……!!」
「ラブレター? それ、もしかしなくてもラブレター??」
「ちょっ、二人とも……!?」

 金園&火宮。
 片やヘーゼルタインの傍流・金園財閥の嫡女、片や世界的トップアイドル・フレア……自由恋愛の許される恋する乙女とは対極の位置にいるような二人は夏菜の恋模様を眺めるのが娯楽だそうで。
 状況は夏菜の表情と持っている手紙を見て察したようだ。
 迫り来る女豹たちから必死に手紙を隠す様子は普段の生徒会の権力図とは真逆で、今の夏菜はまるで追い詰められた獲物のようなポジションになっている。

「あらァ〜? ちょっと、夏菜ちゃん追い詰めてどうしたの?」

 その時、コーヒーを淹れて戻ってきた最終兵器・漢女。
 
「あぁ木衛、ちょうどいいところに来ましたわ!」
「会長が乙女してるから目に焼き付けようと思って」
「夏菜ちゃんが乙女……? あらァ、そのお手紙は?」
「こ、これはその……!」
「会長宛のラブレターだよ」
「夏菜ちゃん宛のラブレター!?」
「そうですわ! ですよね、会長……会長?」

 何も言い返さない夏菜に違和感を抱いて、皆が一斉に夏菜の方を見てみれば──。

「……ちょっ、今こっち見ないで……」

 顔を真っ赤にして、地面に蹲りながら手紙を抱える夏菜。
 生徒会長として厳然たる姿を見せている夏菜の乙女モード照れ顔は、なぜか以前化粧をして大変身した夏菜を見た時の衝撃よりも凄かった。とにかく夏菜がメチャクチャ乙女だった。

「ぎゃんかわ……ですわ……」
「同意」
「激しく同意」

 上から順に金園、火宮、木衛である。
 お前ら揃って同意するんじゃない。
 いや気持ちは分からんでもないが。
 何なら俺も反射で写真撮っちまったけども。
 夏菜が可哀想だからそれ以上はやめてやれ。

「……あの、会長のお手紙はどなたからのもので?」

 夏菜の邪魔をしないよう、水瀬は小声のまま尋ねてきた。

「聞くな。聞くだけ野暮ってもんだ……」
「そうですか。ちなみに、あれホントにラブレターなんですか?」
「そうだぞ。なんだ、お前知らなかったのか?」
「えぇ、知りませんでした。婚約者でもいるんですか、会長」
「ま、予約されてるってところだな」

 へぇ……と呟きながら意味深な笑みを浮かべる水瀬。
 そっと手紙を抱きしめる夏菜のことをジッと見つめるその視線には、どこか仄暗いものが宿っているような気がして。

「……お前、夏菜のこと好きだったのか?」
「恋愛という意味ならノーですよ」
「だよな。にしちゃ随分と視線に邪念が混ざっていたが」
「あぁ……まぁ、私が会長のことを好きになるなんてことは天地がひっくり返ったとしてもありえないですが、会長にはいろいろと思うところがありますので」
「……成程。お前も、俺と同じか」
「えぇ。ただ私の場合、会長に抱く想いはあなたよりもずっと汚いモノ……ですが」

 その瞳に宿っていたのは──澱み濁った忠誠心で。

「前世も今世も同じなんですよ。私はずっと空虚なので……恋情とはかけ離れた感情を誰かに抱かなければ生きていけないんです。それこそ、会長のように生涯を捧げても構わないと思える人間に出会うことができなければ……きっと、前世の記憶を思い出したところで私は一生空っぽな傀儡のままだったでしょうね」

 だから幸せになってほしいのだ、と。
 イザナと全く同じ目をした俺よりも何百歳も年下の人間は、この俺すら慄かせるような笑みを浮かべながら言った──。

 ◆◇◆

今週中に刀剣乱舞とのクロス短編上げるかも。
前に上げたブラック本丸に迷い込んだ夢主の設定じゃなくて、事故った時点で時の政府にスカウトされた時空のif夢主verで……刀剣乱舞の設定が分からなくても何とかなります。
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