「おや、ごめんよおチビちゃん。」

そういうと男はボサボサで埃まみれの少女の頭を躊躇いもなくくしゃりと撫で、目を細めた。
男もまた緑のマメ男からプレートを受け取り、胸に付け、スタスタと奥の方へ歩いて行った。

「あなたも試験開始時刻までここでお待ちください。」

そうマメ男が少女を奥へ促した。


少女がキョロキョロと辺りを見回していると、16のプレートを胸に付けた小太りの男が近づいてきた。

「よう。俺はトンパって言うんだ。君新人だろ？良かったらお近づきの印にどうだい？」

そう言ってトンパは少女に缶ジュースを差し出した。
少女はクンクンと缶の匂いを嗅ぎ手に取ると、まじまじと缶とトンパを交互に見た。
少女が缶ジュースが自分に与えられたものと理解すると、ガジガジと缶の側面や飲み口を齧りだした。

（なんだ、コイツ缶の開け方もわからねぇのか？こりゃあ下剤入りのジュースなんて必要なかったかもな…）
「缶ジュース飲んだことねぇのか？開けてやるよ。」

そう言い、プシュっとトンパが缶ジュースを開けて少女に渡す。

少女は缶ジュースの飲み口に恐る恐る舌を這わせる。
ペロッーー

「〜〜〜っ！」

舌に炭酸の刺激を受けて少女は缶ジュースを落とした。
初めて感じる舌への刺激。
ほんのり甘かった気がするが、それよりも舌への針で刺されたような痛みに驚き、目をパチクリさせている。

「トンパ、これ、イタイ。」

少女の拙い言葉遣い。
はぁ、とトンパは小さくため息をついた。

（言葉もあんまり話せねぇのか。新人潰しのトンパ様としちゃあちっと物足りねぇがコイツは放っておいても直ぐに脱落だな。他の奴あたるか…）

「お嬢ちゃんには刺激が強すぎたかな？じゃあ、またな。」

そう言って踵を返し、トンパが次の獲物を探そうとしていると、くいっと服の裾を掴まれた。
トンパが顔だけ引かれた方に向けると、少女が口元に笑みを浮かべていた。

「トンパ…」

自分とトンパを交互に指差し、両手を狐の形にして何やらパクパクやっている。
トンパは何やってんだコイツ？と言う顔で少女を見たが、そのジェスチャーをみてピンときた。


「もしかして、俺と話がしてぇのか？」

トンパの言葉に少女はこくこくと頷く。
しかし、これはトンパにとってこの上なく迷惑な話。
新人潰しに精を出すトンパにとって、そんなことしている暇はないのだ。

「悪りぃけど、他当たってくれや。あ！そうだ！お嬢ちゃんの後に来たピエロみたいな格好した奴いただろ？ほら、アイツだ。」

そう言ってトンパはヒソカを指差した。

「アイツはヒソカって言うんだ。アイツならお嬢ちゃんの話し相手にピッタリだと思うぜ。」

（ヒソカは前回の試験で試験官を半殺しにして失格になっているやばい奴だ。それにこのうざったいがきんちょを接触させれば、がきんちょは殺されること間違いなし！間接的だが新人潰しのトンパ様の功績だな！）


トンパの策略など知るよしもない少女はじぃっとヒソカを見据える。
少女の視線に気づいているのかいないのか、ヒソカは手に持ったハートのエースを出したり消したりしていた。

「アリガト。」

トンパにお礼を言い、少女はヒソカの元へと駆け寄って行った。
トンパはしめしめといった具合に他の受験者に話しかけにいった。