ガヤガヤと騒がしい大衆食堂。
その扉を1人の少女が開いた。
大きな中華鍋を振りながら、店主であろう小太りで細目の男がチラリと横目で見ると怪訝な表情をした。

扉を開けた少女はボサボサの髪で顔も見えない。布切れのような泥だらけの服を着ていて、靴も履いていない。腰には服と同じようなボロ切れで作ったであろう袋が下がっていた。

どこかのスラム街から物乞いでもしに来たのかと、店主が思い、つまみ出すよう従業員に指示しようとした時、少女の後から見慣れた男が入ってきた。
キツネのような顔をした男が一言店主に告げた。

「親父さん、この子にステーキ定食１つ」

その言葉を聞き、店主は細い目を見開き聞き返す。

「焼き方は？」

「弱火でじっくり」

店主は本当にか？といった目でキツネ顔の男の顔を見返したが、キツネ顔の男はにっこりと笑うだけだった。
店主は小さく溜息をつき、渋々といった表情で奥の席に案内した。

奥の部屋の扉が開き、少女が恐る恐る中に入ると扉が閉まる。
閉まる直前にキツネ顔の男が

「じゃあ、頑張ってな」

と言い、右手を振った。
少女も右手を上げてそれに応えた。
口角が上がっていたので、おそらくは笑っていたのだろう。

「アリガト。」

少女がそう言うと、ガコンと重々しく扉が閉まった。そして、今度は部屋ごと下に下がりだした。
その揺れに少女は驚き、よろめいたが、テーブルに手をつき転ぶことは防げた。

目の前には鉄板の上に置かれたステーキ定食。
律儀にも弱火でじっくり焼かれたものだ。
少女は警戒するように、クンクンと匂いを嗅ぎ、熱々の鉄板の上に置かれたステーキ肉に手を伸ばした。

「っ！！」

その熱さに少女は吃驚して手を引っ込め、ヒリヒリと熱に焼かれた人差し指を口に咥えた。

「！！」

舐めた人差し指からステーキ肉の味がし、少女はまたしても驚いた様子だった。
意を決したように親指と人差し指でステーキ肉を摘むと、サッとテーブルの上に移動させ、ガツガツと食べだした。


チンという音と共に部屋が止まり、扉が開いた。

ステーキ定食を食べ終えた少女がペロペロと手を舐めながら部屋から出ると、緑の豆のような人が現れた。

「ようこそハンター試験会場へ。あなたの受験番号札です。胸につけて無くさないようにしてくださいね。」

と、43と書かれた丸いプレートを差し出した。
少女はそれを受け取り、まじまじとプレートを見つめた。

「ムネニツケテナクサナイヨウニシテクダサイネ？」

マメ男の言葉をそのままおうむ返しのように言ったが、最後に疑問符がついた。

「もしかして、付け方わかりませんか？」

まさか、今の時代に安全ピンの使い方もわからないのかとも思ったが、少女のスラム街の子供のような外見から、教養も無いのだと判断しマメ男は少女のボロ切れのような服にプレートを付けた。

「アリガト。」

少女が口元に笑みを浮かべてカタコトのお礼を告げた時、チンという音がすぐ後ろで聞こえた。少女がその音に振り返ると、鼻先に衝撃を受けた。
一歩引いて見上げると、そこにはピエロのような格好をした男が自分を見下ろしていた。