「再試験の課題はゆで卵よ！」

メンチが卵の取り方を実演してみせる。
それを見て恐怖で縮み上がる受験者もいれば、
ゴン達のように、こうゆうの待ってたんだよねと、喜び勇んで谷底に飛び込んでいく者もいる。
リルは谷底に飛び込んでいくゴン達を見た後、上空に目を移した。

（さて、念を手に集中すれば傷の治りが早いことも伝えられなかったし、リルはどうするのかな？♣️）

どんな方法でリルが卵を取りに行くのか気になったが、まずは自身の卵を確保しに、ヒソカも谷底へ飛び込んだ。

（あの子は…行かないのかしら？）

メンチは上空を見つめているリルを気にしていた。
コモンドオオサンショウウオの尻尾を持っていたくらいなのだから、クモワシの卵を取りに行くのなんて簡単だろうに…と思い、メンチがリルの見つめている上空を見た。
そこには2羽のクモワシが旋回するように飛んでいた。

ーピュルルルル
リルが下唇を噛み、舌を震わせながら、独特な口笛のような音を出した。

その音にメンチ達試験官がリルに目をやる。
と、上空で旋回していたクモワシの1羽がリルの目の前に降り立った。
その様子を試験官達は物珍しそうに見つめている。
クモワシは本来臆病で、人にはけっして近づかないからだ。
クモワシとリルがじっと見つめあったかと思うと、リルがメンチの元へ走ってきた。

「メンチ、ソレ、ちょーだい。」

そう言ってメンチの腰につけている包丁を指差した。

「え…？」

試験官が受験生に物を貸してもいいものだろうか？と、メンチがネテロに目くばせすると、リルがどうするのか興味を持ったネテロはOKの合図を出した。
メンチがちゃんと返すようにと付け加えて、リルに包丁を渡す。

ーザクっ
リルはおもむろに自身の左側の髪の毛を少量掴むと、それを切り落とした。

「アリガト」

お礼を言ってメンチに包丁を返す。
左手には切り落とした髪の束が握られている。
それをどうするのかと、メンチが聞く間も無くリルはクモワシの元へ走って行ってしまった。

クモワシに髪の束を差し出すリル。
クモワシはその毛束をくちばしで咥えると谷底へ飛び去った。
ネテロを含む試験官達が興味津々に谷底を覗き込む。
卵を手に入れた受験者の何人かが岸壁を登ってきているその下で、クモワシが卵を吊るしている蜘蛛の巣状の巣に咥えた毛束を器用に貼り付けていた。
口に咥えた毛束を全て巣に貼り付けると、卵を1つ掴んで、クモワシが戻ってきた。

「アリガト。」

クモワシから卵を受け取ると、リルはお礼を言った。
それを確認するかのようにいたクモワシは飛び立ち、また上空を旋回し始めた。