なにも知らない君たち(黄瀬長編)
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オレが先輩に絶対一泡吹かせる!と決意してから早くもひと月が過ぎようとしていた…
お互いインターハイに向けて忙しくなったとは言え、1ヶ月もほぼ接触なしとかオレなにやってんスかねぇ…ほんと…
6月中旬。須山先輩は危なげなくインターハイ出場を決め、奇跡的に関東大会に出場した男子リレーはやはり出場を逃していた。
そしてオレ達バスケ部もインターハイ出場を決め、この夏のうちの高校でインターハイ出場を果たしたのは須山先輩とうちの部のみだった。
インターハイに向けよりハードな練習をこなしているときに浮ついたことをする余裕は双方ともに皆無だった。
しかしそんなキツい練習の合間に練習中の須山先輩を見かけると先輩はいつも1人だった。
「あっ須山先輩…今日も1人っスね…」
須山先輩はグラウンドの端で準備運動を1人でしている。
少し離れたところで他の陸上部の部員が喋りながらダラダラと準備運動をしているのも見えた、1人離れて黙々と準備をしているその姿を見ているとなんだかやっぱり須山先輩は可哀想だと思わずにいられず溜息が出た。
「よっ、キセリョくん。なに溜息ついてんの?」
「うわっ!だ、誰っスか!?」
背面から急に話しかけられ思わずコケそうになる。
「ははっごめんごめん。私、あの子の友達。夏だけ陸部マネやってるの。」
振り返るとデカい黒縁メガネをかけた女の人がいつの間にか後ろに立っていた。
「あの子って…」
「須山奈子。今キミが超見てたでしょ?」
…このメガネの人、めちゃめちゃズケズケ言うっスね。
「心配してくれてるんでしょ、キミ。流石イケメンくんはよく気付くねぇ。でもまぁあんだけいつも完全個人プレイ通してれば嫌でも気付くか?あはっ」
この人、なんか苦手なタイプかもしんないっス。
「はぁ……」
「ま、去年の夏もあんな感じだったからそんなに心配しなくても平気なのよ、実際。でも今年は最後だからさ。私も居た堪れなくて、手出しちゃったんだけどね。」
「去年もああだったんスか、…てか最後ってどういうことっスか?」
「あの子、このインターハイで陸上辞めるのよ。」
メガネ先輩はあっけらかんとそう言ったけれど、オレは正直驚きすぎて声が出なかった。
勝手だけど、なぜかオレは先輩はずっと走っているものと思っていた。
「あははっ、驚いた顔もほんとカッコイイのね、キミ。まぁそこら辺のことは本人から聞きなよ。」
ここまで勝手に話しておいて中々にくせ者だな、この人。
「まぁここまで勝手に色々話し出しちゃったし、もうちょっと須山トークしちゃおうかな。」
心まで読まれてる気がするっス…。
「あの子、なんでずっと1人で練習してると思う?」
「うーん…他の部員とはモチベーションが違うからっスかね。」
「確かにそうね。でもそれだけじゃない。あの子は陸上競技において、他人を全く必要としていないのよ。」
「もっと言えばあの子、大会に出場する権利を得るためだけに陸上部に籍をおいてるようなものね。あの子にとって他の部員は仲間なんかじゃなく、同じ部活に籍をおいているだけの他人なのよ。」
確かに今まで陸上部の中にいる須山先輩を見ていて違和感を感じたことはあった。
けど少なくとも1ヶ月前はここまでひどい他の部員との孤立と壁を感じることはなかった。
インターハイ出場を決めてからなんだか須山先輩の雰囲気というか空気が変わった気がする。
「あの子は勝つ事への執念が強すぎるのよ。ちょっと常軌を逸してるわ。冗談じゃなく、インターハイで頂点に立つためだけに、高校生活の全てを捧げてきてるのよ。あの子は高校から陸上を始めてインターハイ優勝を目指した結果、個人種目で1人の力だけ勝つ道を見出したのね。」
確かにインターハイが近付くにつれて、須山先輩の気迫は強くなっている気がする。
そんな先輩の様子に気圧されてオレも一泡吹かせる作戦を一時中止していた。
「なんで…そんなに須山先輩は…勝つことに執着するんですか?」
きっとそこにはオレが知らない須山先輩の深い闇が…
メガネ先輩は意味深に微笑んだ後、重い口を開いた。
「それはね。」
固唾を飲んでメガネ先輩の言葉に耳を傾ける。
「あの子が、超負けず嫌いで陸上が大好きだからよ!!!」
「なんなんスか!マジ超普通の理由じゃないっスか!!」
全然闇なんてなかったっス!
「あははっ!キセリョくん面白すぎるんだけど!かわいー!」
やっぱりオレこの人苦手っス!!
「あー面白かったぁ。まぁ理由は子供みたいだけど、あの子はさ、そんな子供じみた子のくせに人並み外れた集中力と観察力、あとは情報収集能力とか諸々。自分の力だけで勝つ能力が軒並み高かったのよ。」
「自分の力だけで…」
「というか自分が勝つためのルートが見えたらそれ以外目に入らなくなっちゃうのよね。」
「あー…なるほど…」
オレはひと月前のドキドキ柔軟体操のことを思い出してなんとなく納得した。
「寧ろうちの陸上部がゆるかったから1年から居残りやら自主練やら好き勝手やって許されて強くなれたのかも。」
「確かにそうかもしれないっスね…」
「それでも最初はもうちょっと周りのこと気にしてて傷付いたりしてたこともあったけど。」
「そうだったスか…。」
「でも今は変なスイッチ入って全然平気っぽいけどね!」
「やっぱ須山先輩強いっスね!」
「まぁ実績だけ見た学校側に部長任命されたときは流石の須山もめちゃくちゃ動揺してたけど。」
「あーなんか想像できるっス。」
「でもなんとかあの子なりにちゃんと部長してて私も驚いちゃった。でも流石にインターハイ前は部長業する余裕もないから私がちょっとお手伝いしてあげてるって訳よ。」
「あー!そういうことだったんスね。」
メガネ先輩、やっぱりいい人っス。
「まぁ私的には笠松を好きとか言い出したときの方が一番心配だったけどさ!」
ん?何の話っスか?この人急に何を言い出てんスか?
「でもその勘違いも解けてきてそうでよかったよ。じゃ、キセリョくん!うちの陸上バカ、シクヨロ♡」
メガネ先輩はチャオ!とか言いながらイラッとする笑顔で部室棟の方へ消えて行った。
笠松先輩を好きとか言い出して心配?勘違い?でももう大丈夫そう?もう何がなんだかさっぱりわからない。こんな爆弾ばかり落として消えてやっぱりあの人はロクな人じゃない!!
でも何故か最後にメガネ先輩はオレに須山先輩をよろしくと言っていた。これはもしやひょっとするのではないか。
(待てよ、そういえば金曜はアレかあったはずっス…)
メガネ先輩の言葉のおかげか急に色々な作戦プランが浮かび上がってきた。
「須山先輩には悪いっスけど、今度こそ、勝つのはオレっス!!」
こうして黄瀬の須山先輩に一泡吹かせる作戦はひと月の時間を経て、ようやく動き出したのである…。
お互いインターハイに向けて忙しくなったとは言え、1ヶ月もほぼ接触なしとかオレなにやってんスかねぇ…ほんと…
6月中旬。須山先輩は危なげなくインターハイ出場を決め、奇跡的に関東大会に出場した男子リレーはやはり出場を逃していた。
そしてオレ達バスケ部もインターハイ出場を決め、この夏のうちの高校でインターハイ出場を果たしたのは須山先輩とうちの部のみだった。
インターハイに向けよりハードな練習をこなしているときに浮ついたことをする余裕は双方ともに皆無だった。
しかしそんなキツい練習の合間に練習中の須山先輩を見かけると先輩はいつも1人だった。
「あっ須山先輩…今日も1人っスね…」
須山先輩はグラウンドの端で準備運動を1人でしている。
少し離れたところで他の陸上部の部員が喋りながらダラダラと準備運動をしているのも見えた、1人離れて黙々と準備をしているその姿を見ているとなんだかやっぱり須山先輩は可哀想だと思わずにいられず溜息が出た。
「よっ、キセリョくん。なに溜息ついてんの?」
「うわっ!だ、誰っスか!?」
背面から急に話しかけられ思わずコケそうになる。
「ははっごめんごめん。私、あの子の友達。夏だけ陸部マネやってるの。」
振り返るとデカい黒縁メガネをかけた女の人がいつの間にか後ろに立っていた。
「あの子って…」
「須山奈子。今キミが超見てたでしょ?」
…このメガネの人、めちゃめちゃズケズケ言うっスね。
「心配してくれてるんでしょ、キミ。流石イケメンくんはよく気付くねぇ。でもまぁあんだけいつも完全個人プレイ通してれば嫌でも気付くか?あはっ」
この人、なんか苦手なタイプかもしんないっス。
「はぁ……」
「ま、去年の夏もあんな感じだったからそんなに心配しなくても平気なのよ、実際。でも今年は最後だからさ。私も居た堪れなくて、手出しちゃったんだけどね。」
「去年もああだったんスか、…てか最後ってどういうことっスか?」
「あの子、このインターハイで陸上辞めるのよ。」
メガネ先輩はあっけらかんとそう言ったけれど、オレは正直驚きすぎて声が出なかった。
勝手だけど、なぜかオレは先輩はずっと走っているものと思っていた。
「あははっ、驚いた顔もほんとカッコイイのね、キミ。まぁそこら辺のことは本人から聞きなよ。」
ここまで勝手に話しておいて中々にくせ者だな、この人。
「まぁここまで勝手に色々話し出しちゃったし、もうちょっと須山トークしちゃおうかな。」
心まで読まれてる気がするっス…。
「あの子、なんでずっと1人で練習してると思う?」
「うーん…他の部員とはモチベーションが違うからっスかね。」
「確かにそうね。でもそれだけじゃない。あの子は陸上競技において、他人を全く必要としていないのよ。」
「もっと言えばあの子、大会に出場する権利を得るためだけに陸上部に籍をおいてるようなものね。あの子にとって他の部員は仲間なんかじゃなく、同じ部活に籍をおいているだけの他人なのよ。」
確かに今まで陸上部の中にいる須山先輩を見ていて違和感を感じたことはあった。
けど少なくとも1ヶ月前はここまでひどい他の部員との孤立と壁を感じることはなかった。
インターハイ出場を決めてからなんだか須山先輩の雰囲気というか空気が変わった気がする。
「あの子は勝つ事への執念が強すぎるのよ。ちょっと常軌を逸してるわ。冗談じゃなく、インターハイで頂点に立つためだけに、高校生活の全てを捧げてきてるのよ。あの子は高校から陸上を始めてインターハイ優勝を目指した結果、個人種目で1人の力だけ勝つ道を見出したのね。」
確かにインターハイが近付くにつれて、須山先輩の気迫は強くなっている気がする。
そんな先輩の様子に気圧されてオレも一泡吹かせる作戦を一時中止していた。
「なんで…そんなに須山先輩は…勝つことに執着するんですか?」
きっとそこにはオレが知らない須山先輩の深い闇が…
メガネ先輩は意味深に微笑んだ後、重い口を開いた。
「それはね。」
固唾を飲んでメガネ先輩の言葉に耳を傾ける。
「あの子が、超負けず嫌いで陸上が大好きだからよ!!!」
「なんなんスか!マジ超普通の理由じゃないっスか!!」
全然闇なんてなかったっス!
「あははっ!キセリョくん面白すぎるんだけど!かわいー!」
やっぱりオレこの人苦手っス!!
「あー面白かったぁ。まぁ理由は子供みたいだけど、あの子はさ、そんな子供じみた子のくせに人並み外れた集中力と観察力、あとは情報収集能力とか諸々。自分の力だけで勝つ能力が軒並み高かったのよ。」
「自分の力だけで…」
「というか自分が勝つためのルートが見えたらそれ以外目に入らなくなっちゃうのよね。」
「あー…なるほど…」
オレはひと月前のドキドキ柔軟体操のことを思い出してなんとなく納得した。
「寧ろうちの陸上部がゆるかったから1年から居残りやら自主練やら好き勝手やって許されて強くなれたのかも。」
「確かにそうかもしれないっスね…」
「それでも最初はもうちょっと周りのこと気にしてて傷付いたりしてたこともあったけど。」
「そうだったスか…。」
「でも今は変なスイッチ入って全然平気っぽいけどね!」
「やっぱ須山先輩強いっスね!」
「まぁ実績だけ見た学校側に部長任命されたときは流石の須山もめちゃくちゃ動揺してたけど。」
「あーなんか想像できるっス。」
「でもなんとかあの子なりにちゃんと部長してて私も驚いちゃった。でも流石にインターハイ前は部長業する余裕もないから私がちょっとお手伝いしてあげてるって訳よ。」
「あー!そういうことだったんスね。」
メガネ先輩、やっぱりいい人っス。
「まぁ私的には笠松を好きとか言い出したときの方が一番心配だったけどさ!」
ん?何の話っスか?この人急に何を言い出てんスか?
「でもその勘違いも解けてきてそうでよかったよ。じゃ、キセリョくん!うちの陸上バカ、シクヨロ♡」
メガネ先輩はチャオ!とか言いながらイラッとする笑顔で部室棟の方へ消えて行った。
笠松先輩を好きとか言い出して心配?勘違い?でももう大丈夫そう?もう何がなんだかさっぱりわからない。こんな爆弾ばかり落として消えてやっぱりあの人はロクな人じゃない!!
でも何故か最後にメガネ先輩はオレに須山先輩をよろしくと言っていた。これはもしやひょっとするのではないか。
(待てよ、そういえば金曜はアレかあったはずっス…)
メガネ先輩の言葉のおかげか急に色々な作戦プランが浮かび上がってきた。
「須山先輩には悪いっスけど、今度こそ、勝つのはオレっス!!」
こうして黄瀬の須山先輩に一泡吹かせる作戦はひと月の時間を経て、ようやく動き出したのである…。
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