Clap

Freedom / フッチ×リリィ



あの日、君はずっと泣いていた。
僕から離れたくないと、ずっと一緒にいたいと。

15年前、君を吸血鬼から救い出した数日後、僕はリオウさん達とあの町を去る事になった。
まだあどけなさの残る表情で泣きじゃくりながら、君は僕を必死に引き留めたっけ。
…きっと君は幼な心に分かっていたんだろうね。もう二度と会えないかもしれないと。

だから僕は君に言ったんだ。「いつかまた会えるよ」と。
君に笑ってほしかったから。泣かないでほしかったから。

でもその言葉が君にとって支えであると同時に呪いの言葉だったと知ったのは、こうして再会した後だった。
あの日僕が君のため、良かれと思って紡いだ言葉は、長い間君を縛りつけていた。

あの日、あの瞬間、僕は君の自由を奪ってしまった。
この15年間、君には何だって出来たはずなのに。その権利すらも全て、君はなくしてしまった。僕のせいで。

新たな経験をして、新たな友人を作って、そして──他の誰かを好きになって、いくらでも幸せになれたはずなのに。いや、君は絶対幸せになるべきだった。
……今になって己の傲慢さに、罪の大きさに耐えられなくなる。

だから君を遠ざけた。これ以上君を苦しめないよう、君を壊さないように。
見違えるほど美しくなった君に浅ましい感情を持ち始めている自分の心を、戒めるように。

──でも、君は。そんな僕の胸の中など既にお見通しだった。
その強引さで僕の心の壁を無遠慮にぶち破って、何度も何度も僕に真っ正面からぶつかってくる。
そして君は、いつもの勝ち気な眼差しと口調で僕にこう言い放ったんだ。


「いつまで悲劇のヒーローぶってんのよ! この分からず屋!」


その言葉の意味を知った時、僕はようやく気づいた。君はいつだって自由に生きてきた事に。
自由に振る舞い、笑い、怒り、泣き──そして己の心のまま、誰かを好きになる。君はそんな人だって、どうして忘れていたんだろう。
君が自由を奪われたと思っていたのは、きっと僕のエゴに過ぎない。やっぱり何も分かっていないのは僕の方だったんだ。

だったら、僕も。…いや、俺も、自分の思うがまま生きよう。
君と対等に渡り合えるように、こんな俺も自分自身なんだと、胸を張れるように。
被害妄想ばかりの後ろ向きなヒーローなんて馬鹿らしい。もう止めだ。

だから…今は、こうして君を抱きしめさせてくれるかい?
君がここにいる事を、自分の手で確かめたいんだ。
15年間君が俺を想い続けていたというなら、今度はその何十倍、何百倍何千倍も俺が君を想うから。

ずっと一緒にいよう、リリィ。でもそれは君を拘束し縛りつける、って意味じゃない。
君の自由の中に俺も置いてほしい。ただそれだけの事なんだ。
そう思うのは俺の自由だろう?

君の自由と、俺の自由。それぞれ重さも形も違うけれど、きっとどちらも幸せな色で満たされている。
それだけは、ただ一つはっきりと言える事だから。














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