愛のお料理大作戦


ここは、とある日のビュッデヒュッケ城。
今はいわゆる英雄戦争の真っ只中であるが、そんな事を微塵も感じさせないほどに麗らかな日和が城全体を包み込み、のどかな雰囲気がそこかしこに漂っている。

近隣諸国の様々な種族が集うこの城は商業施設としても栄えており、各種族のコミュニケーションの場として打ってつけの土地でもあった。
とはいえ古くから根付いている異種族間の軋轢、敵愾心、排他主義といったものはそう簡単になくなるものではなく、未だ問題も数多い。例えばカラヤクランの者がゼクセンの騎士を『鉄頭』と呼んで蔑み、一方のゼクセンの民もそんなカラヤの一族を『蛮族』と罵り見下すように。

それでも表面上はさして大きな諍いが起こらず、一見すると皆が円滑に交流しているようにも感じる原因は、若輩ながらも城の平穏と安定のため尽力する城主トーマスの功績、そして何より早く戦争を終わらせたいという人々の願いそのものであろう。
肌の色や思想が違えど戦のない平和な世を望むのは皆同じ。根底に潜む思いはどの種族も一緒なのだ。
実際、未だ他の種族に嫌悪感を露にする者がいる反面、和平の第一歩のため他種族への理解を深めようと歩み寄る者も少なからず存在していた。そしてその傾向は少しずつではあるが着実に増え始めている。


さて、年齢や性別、種族に関わらず、この世界に生きるモノ全てに等しく与えられた共通の権利──それは『食べる』という行為だ。
食の好みや文化、好き嫌いは千差万別であるが、生き物が生きていく上で食は欠かせない。正義感溢れるあいつも、神経質なあの娘も、無口なあの人も、食べなくては何も出来ない。腹は減っては戦が出来ぬ、とは良く言ったものだ。
そういった意味で食べ物とは、全ての民に与えられたいわば最上の武器、褒美である。食べる事で人々は己の欲求を満たし、これから生きていくための活力を蓄えているのだ。

そしてこの世には、生き物にとって必要不可欠な食物を加工し人為的に生み出し、それを生業とする人々が少なからず存在する。その名を料理人、またはコックという。
その料理人と呼ばれる人間は、無論このビュッデヒュッケ城にも在籍している。

名はメイミ。まだ歳は若くぶっきらぼうな口調だが、料理の腕前、料理への並々ならぬこだわりはもはや一人前といって良い。
その細腕から生み出される極上の料理の数々は日々、城内のどの者にも分け隔てなく提供される。そして彼女の料理を食べた者は口々にこう言うのだ、「美味しい」「絶品」「舌がとろけそうだ」と。
料理を振る舞う事で人々に幸せや笑顔を分けられる、そんな才能を持った彼女のような人材は非常に稀少であり、かつ貴重な存在なのである。


──話は変わり、ビュッデヒュッケ城レストランの敷地内。
さながら魔法のようなメイミの料理の技を我が物にしようと、彼女に必死に懇願する一人の人物の姿があった。

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