私は無事に霞柱邸へと戻って来た

『師範、ただいま戻りました……うわっと』

私が扉に手をかけようとした瞬間、物凄い勢いで扉が開く

そして屋敷の中から師範が出てきた

そして私の背中に手を回して抱き着いてくる

「……遅いよ、楓」

どうやら少し拗ねているようだ

……何だか、ちょっとかわいいかも

普段の私なら師範を引きはがしていただろうが、今日の私はいつもと違った

無意識の内に師範を抱きしめ返したのだ

しかしすぐにそれに気づいた私は背中に回した手を離そうとするが、何故だか離したくないと思ってしまった

おかしい、こんなのおかしい……

そんな時、義姉さんの言葉を思い出した

〝「ふふ、その様子だと良い人がいるみたいね。良かったわ」〟

良い人……もしかして私、師範が好きなの？

確かに継子として過ごしてきた時間は長い

その間にいつの間にか恋していたんだ

そう思うと納得できる

師範に思わず冷たく当たってしまうのも、師範が好きだから……？

いや、子供でもそんなことしないでしょ！

勝手に1人で落ち込んでいると、師範に声を掛けられた

「……楓、どうしたの？顔が凄いことになってるけど……」

師範は私の胸元に顔を埋めた状態で話しているので何だか変な感じだ……って、玄関先でこの体制はまずいっ

『し、師範……あの、離してください……』

ボソリとそう呟くも師範には聞こえていないようだ

ああ、もう！

好きだと自覚してしまったからいつもみたいに冷たく当たれないっ

結局、その後私のお腹が鳴って食事の準備を始めるまでの間、ずっと抱きしめ合ったままなのだった……

師範を好きだと自覚した今、これからどうすれば良いんだろう……？

──────

現在私と師範は朝食を取っているところだ

先程師範と抱きしめ合っていた時に私のお腹が大きな音を立てたからである

ああ、本当に恥ずかしすぎるっ

何故か師範は無言だし気まずすぎる……

そう思いながら無心で朝食を口に運んでいると、師範が口を開いた

「ねぇ、楓……」

『は、はひっ』

急に名前を呼ばれたことに驚いた私は思わず噛んでしまった

……最悪だ

それにしてもずっと無言だったのに一体どうしたのだろうか

「今日非番なんだよね。僕と2人で出かけない？」

え？

もしかしてこれって、デートのお誘い！？

嬉しいけれども！

『で、出かける暇があるなら鍛錬した方が良いんじゃ……ないですか』

恥ずかしさの方が勝るんだよな……

「休息も大事でしょ。そもそも楓、僕より強いし」

その言葉を聞いて私は一気に冷静になった

まさか……

『え……もしかして、私が師範のお世話の為に継子になったこと知ってたんですか？』

私はゴクリと生唾を飲み込む

ぎゅっと目を瞑り、答えを待つ

するとすぐに返事が返って来た

「いや、知らなかった。カマかけただけ」

『は、はぁ！？』

その返答を聞き私はカチンときた

い、いけすかない奴だ……

でも仕方ない

そんなところも好きになってしまったんだから……

そうじゃなきゃ師範とのじゃれ合いが楽しいなんて思わなかったはず

「だから、一緒に出掛けてくれるでしょ？楓」

頬杖をついてニコリと私に笑顔を向ける師範

くっ……ま、眩しい

これは、私が折れるしかなさそうだ

『分かりました。お誘いお受けしますよ』

こうして私は師範とデート(？)することになったのだった